46 決勝戦
三戦目。決勝戦でもある。
各チームリーダーであるゼノンとグウィンが話し合った結果、アピールタイムはゲストチームからすることになった。
グウィンは相手の陣地防御を見て対策した方が有利かつ魔力も節約できるのではないかと助言した。
だが、ゲストチームは大規模な試合に初出場の二人がいるため、作戦もアピール内容も事前に決めていた。
魔法騎士団チームがどのようなアピールをしても、対応が変わることはない。同じだということで先に披露することになった。
「では、三戦目のアピールタイムに入ります。ゲストチームが先行です!」
「アピール開始!」
「《炎の陣》」
第一声はルフ。
まずは時間がかかりやすい陣地防御からにするのは普通のこと。
だが、一戦目と同じくゼノンが陣地防御を担当すると思っていた観客は驚いた。
しかも、炎の陣だった。
自陣に炎の力を張り巡らせるということ。
ゼノンが防御として使用する氷が使いにくくなってしまう。
白兵戦を仕掛けそうな魔法騎士団チームに攻め込まれると不利になってしまいそうだった。
「《風の陣》《土の陣》」
風魔法と土魔法。
どちらもルフが担当。
観客の表情はみるみる変貌した。
「風と土だ!」
「反属性使いだ!」
反対する属性の両方を使うこなす珍しい者。
「すべて陣だぞ!」
陣は範囲。広いほど魔力を消費する。
アピール模擬戦では自陣をカバーするのが前提だけに広範囲。負担が多い。
最も基本的な陣ばかりではあるが、ルフ一人で担当するのは魔力・属性・技能の三拍子が揃っている証拠だ。
「《陽炎陣》!」
複数の属性を組み合わせた上級陣。
通常は各属性使いが一つの陣を担当し、最後に調整役が合わせて複合上級陣を発動する。
「一人で複合上級陣かよ……」
「マジか……」
「嘘だろ……」
会場中が騒然とする中、
「《千風万来》!」
ヴェラが叫んだ。
千風万来は風魔法を次々と連続で繰り出すための補助魔法。
同時ではないが、使い手の技能次第でほぼ同時に複数の違う魔法であっても行使できる。
「《浮遊足展開》!」
浮遊足は浮遊靴の上位。
足全体にかかっているため、空中で安定しやすく効果時間も長くなる。
展開をつけて範囲化するのは、試合だからこそ。
制限時間に合わせて魔力を使い切っても構わないという戦法だ。
「《雷速展開》《雷闘将》!」
ゼノンもまた得意とする雷魔法で攻守を固めた。
但し、決め台詞はヴェラの役目。
「全力でぶっ飛ばしてやるわ! 覚悟しなさい!!!」
ヴェラの宣言に合わせて陽炎陣の四方から同時に炎の柱が立ち上った。
気合十分。迫力十分。アピール十分。
一戦目とはまったく違うアピールだけに、予想を完全に裏切られた観客と会場全体は大興奮に包まれた。
「ヴェラーーー!!!」
「応援してるぜーーー!!!」
「ゼノン、頼んだぞーーー!!!」
「魔法騎士をぶっ飛ばせーーー!!!」
熱狂する観客の声が飛び交った。
ゲストチームへの声援もかなり多い。
その理由はヴェラやゼノンを応援する者がいるから。
そして、魔法兵団チームを下した魔法騎士団チームを倒して欲しい気持ちも含まれていた。
「アウェイ感がひしひし?」
イエルが苦笑した。
グウィンもトレフェも否定する気はない。
観客の比率は魔法兵団の方が多い。二倍以上。
だからこそ、見返す意味も大きくなる。
予想を遥かに超えたアピールをされたのもあって、俄然やる気が出た。
「派手に来たな」
「魔力は潤沢ですからね」
「ケチらないねえ」
だが、それがアピール模擬戦。
派手で豪快なアピールほど喜ばれる。
ポーズやアピールにこだわるゼノンがいるだけあって、期待を裏切らない。
だからこそ、固定のファンもつく。応援もある。
しかし、魔法騎士三人組も負けてはいられない。
複合上級陣には同じく複合上級陣。
騎士の名誉にかけて、格下の陣を張るわけにはいかない。
「《水の陣》」
「《風の陣》」
「《土の陣》」
最初はイエル。
それは陣地防御が水であることを示唆していた。
「《湖水陣》!」
イエルだけで水属性単体の湖水陣にするのではなく、仲間の陣を合わせることで複合上級陣に仕上げた。
ルフのように一人で魔力を負担してはいないが、三人で力を合わせるにもまとめるにも技能がいる。
チームとしての腕前と団結を見せつけた。
「《風速展開》《浮遊靴展開》」
グウィンの得意とする風魔法を三人分。
「《土流》《建石》《防石展開》」
トレフェも負けていない。
土魔法の補助・移動補助・防御を強化。
「《連水》《水包展開》《水鏡展開》」
イエルも水魔法の補助をつけ、防御と反射を補強した。
そして、
「《双水龍》!」
やっぱり!
でたでた!
観客達は目を輝かせた。
「飛ばされても転移で戻れるよ?」
ニヤニヤ笑いを得意とするのはヴェラだけではない。
イエルも同じ。同類だ。
「ナギってやるから楽しみにしとけよ!」
薙ぎ倒すと凪をかけたイエルの定番挑発。
背後には湖から昇ってはうねって潜る二匹の水龍。
湖面が荒々しく波立ち、水飛沫が飛び散った。
気合十分。迫力十分。実力十分だ。
「試合開始!」
幕が切って落とされた。




