45 戦いの続き
二戦目で最も注目を浴びていたのはワイアットだった。
陣地防御の水槽を造り上げた技師。防御と補助担当に思えた。
イエルは魔法騎士。魔法だけでなく魔法剣も扱う。
白兵戦になればワイアットが不利だという予想を覆し、ワイアットはイエルの魔法剣を封じていた。
その理由は武器にある。
ワイアットが使ったのは鞭。
魔力で伸縮可能。
イエルは逃げながら鞭攻撃を引きつけ、ワイアットの側に転移した。
至近距離なら鞭を使いにくいように思ったが、鞭はありえない動きをしてイエルに絡みついた。
「あ」
魔力操作ができる鞭だった。振らなくても使い手の自由に動かせる。
ワイアットはわざと鞭を振り、伸縮ができるだけの鞭だと思わせていただけだった。
「油断するな!」
すぐにグウィンがサポートに入ってイエルは助かったが、危ない場面だった。
イエルは自陣の中央に転移すると、自身を水の防御膜で包んだ。
水は液体。流動性が高い。それは柔軟であるということ。
鞭との相性も良いが、きっちりと水の防御膜で防御したイエルには届かない。
外側をなぶるように叩いても、ピシャンピシャンと水遊びをしているかのような状態。
とはいえ、水使いと水使いの対戦ではどう見てもワイアットが優勢。
このままなら魔法兵団チームが勝利する。
だが、グウィンとトレフェは力を合わせて幾多の困難を乗り越えて来た。
年下のイエルは経験が少ないにもかかわらず、その二人と組むほどの実力者。
「お遊び終了。ここでいいからやっちゃって!」
「もういいらしい」
「では」
トレフェは要塞を崩した。
一瞬で大量の土砂が砂塵になり、サラサラと風に乗って舞い散った。
「自ら崩した!」
「維持がきついのか?」
魔法兵団の風使いと土使いは、残り時間が少なくなったため、要塞を崩して魔力を節約するのだろうと考えた。
だが、嫌な予感がしたワイアットがすかさず自身とチームメイトを水の防御膜で守る。
「《豪風来》」
次の瞬間、かなりの強風が吹いた。
グウィンの風魔法で砂塵が魔法兵団の三人と水槽へ押し寄せる。
三人は砂塵によって視界を奪われ、その間に水槽は砂塵を取り込んでいく。
本来であれば水草が急襲するはずだが、砂塵だけに対象が小さ過ぎた。
掴めない。
それは吸収できないことを示していた。
みるみる水槽は砂で埋め尽くされていっぱいになり、水草は砂の中に生えた草になった。
「保水完了です」
「《大気陣》!」
グウィンが魔法兵団の陣地にある水槽を破壊すべく、その上空に巨大な陣を描いた。
水槽は柱が四隅にある。防御力を保持するための要所が四カ所ということだ。
どこかの柱を狙うと魔法の中心点がずれるため、他の柱が壊せないかもしれない。
だが、イエルが柱ではなく中央狙いでいいと示してくれた。
自陣における自らの座標で。
「《気圧変可》」
ボコッ。
大気陣内の気圧変化で水槽が凹んだ。
魔法兵団の三人は陣外に移動できるが、水槽は陣地防御だけに移動できない。
ボコボコと音をたてながら変形を繰り返し、ついに外側の枠が壊れた。
水と魔力を含み圧縮されていた砂が勢いよく溢れ、床面を覆い尽くしていく。
防御力を支えていた四つの柱も修復不能に陥り、維持できなくなった水槽が消えてなくなった。
「砂漠になりました」
陣地防御は立体的な建造物ばかりではない。
床面の全てを覆い尽くす平面的なものもある。砂漠はその一つだ。
「思った以上に防御力がなかった」
「陣がなかったからでしょう」
魔法兵団チームは自分達の余裕をアピールするため、陣地防御を水槽だけにした。
通常は水属性の陣で補強するが、それは水槽の防御が強くないことを教えるのと同じ。
初見だけに慎重に対応することを狙い、あえて陣をなしにしてより警戒するように仕向けたのだ。
「トレフェのおかげで楽だった」
水槽は水があるからこそ強い。
トレフェが全ての水分を砂塵で吸ってしまったために、柱を壊していない状態でもかなりの防御力を下げることができた。
「砂を運んだのはグウィンの風です」
力を合わせて水槽を破壊したグウィンとトレフェは笑みを交わす。
そして、制限時間になった。
陣地防御である水槽を完全に破壊して制圧した魔法騎士団チームの勝利だ。
「アヴァロスに魔法騎士団あり!」
力強く響き渡るマッナコール。歓喜する魔法騎士団。
だが、魔法兵団も拍手で魔法騎士団チームの勝利を祝い、魔法兵団チームの健闘を讃えた。
「素晴らしかった!」
ジークフリードは白兵戦と最後の陣地崩しに興奮を隠しきれなかった。
「白兵戦だけを見れば魔法兵団が優勢に見えたが、最後に魔法騎士団が取り返したな!」
「白兵戦も随所余裕が診られた。グウィンの実力はあの程度ではない。アピール模擬戦だからこそ、抑えていただけだ」
魔法騎士団長は一人息子のグウィンを誇りに思っている。
団長の息子というだけで多くの者から注目され、その実力が本物かどうかを疑われる。
だが、それを跳ね返すだけの結果をグウィンは示し続けて来た。
まさに自慢の息子だ。
スノウにプロポーズを断られたこと以外は。
だが、仕方がない。聖女になるほどの女性だったのだ。
治癒士にさえなっていなかったことを思えば、グウィンの見る目は確かだった。
「あの二人はよく試合に出ている。情報も多く、戦いやすかったはずだ」
魔法兵団長はちょっとした負け惜しみを交えて応えた。
「水使いは技巧派だな」
多種多様な魚を配置する者が多い中、一種類の水草は明らかに異質。
また、水草が侵入者を急襲するだけに終わらず、魔力循環に活かすのも悪くない仕様だった。
惜しむべきは、あまりにも微小なものについては水草が機能しなくなるという点だった。
「普段は表に出ない。今回は本人の強い希望を考慮した」
「そうなのか」
「ポンプ絡みだ」
魔法兵団長が声を潜めた。
「なるほど」
毒事件において魔法兵団は手動兼魔動ポンプを開発した。
それに関わり貢献した者の要望を叶えるということで出場させたのだと魔法騎士団長は察した。
「あの鞭も戦法も良かった。イエルのあのような姿は初めて見た」
イエルは問題や試練を面白がり、思わぬ方法で乗り越えてしまう。
だが、今回だけは様子が違った。
ワイアットが作った水槽にちょっかいを出していた時はイエルらしかったが、空中転移で罠にかかった時はさすがに驚いていた。
鞭が出た途端に嫌そうな表情にもなった。
だが、決して悪かったわけではない。
珍しい水槽や鞭、相手の力量を調べながら、攻略方法を考えていた。
そして、水槽攻略の重要情報を自陣の座標に居座ることでグウィンに伝えた。
白兵戦で見せ場を作るのもいいが、それだけでは優勢も勝利も掴みにくい。
水槽攻略が鍵になるのはわかっていたが、相手も初登場だけに時間を見ながら慎重に対応したというのが総論だ。
「それにしてもグウィンのサポートは素早かった」
「お前の息子自慢は永遠になくならないだろうな」
「お前の娘達はまだ独身か? 一人位は嫁に出さないと不味いのではないか?」
魔法兵団長の娘自慢も有名だ。
優秀な魔法兵として活躍している。
「グウィンもまだ独身だろう。まさか一人欲しいのか?」
「一人もいらない。グウィンのせいで売れ残ったと言うなよ」
「誰が言うか」
魔法騎士団長と魔法兵団長がいつも通りの内容も含めて話している間に、ジークフリードもオリバーと話し合っていた。
「技師にしておくのは惜しい気がする」
「幅広く対応できそうな者ではあります」
攻守・補助・広域・遠隔が揃ったオールラウンダー。
しかも技師。魔工学にも精通している。
「ただ、水だからな」
水属性の魔力を持つ者も水魔法を得意とする者も多くいる。
人材豊富なのだ。
「他の属性も何かあればいいのですが」
オリバーはスノウに視線を移した。
「新しく発掘できればいいのですが、どう思いますか?」
スノウは考え込んでいた。
「もしかして、発掘できそうか?」
ジークフリードは期待の眼差しを向ける。
だが、スノウは首を横に振った。
「そうではなくて。ルフ達が心配です。あんな風に戦ったら怪我をしませんか? ゼノン様はともかく、ルフとヴェラは戦うような者ではありません」
スノウの心配はもっともだ。
普通なら。
だが、普通ではない。あの二人は。
「一戦目を見ただろう? 大丈夫だ」
「あの三人の成長度は規格外かつ未知数です」
オリバーだけでなく、スノウとジークフリードの周囲を固めている護衛全員がその通りだと思っていた。
「スノウも多くの修練をした。他者から見れば厳しいものだっただろう。だが、それを乗り越えたからこそ掴めるものがあった。出場すると決めた三人を信じて応援する方がいいのではないか?」
「その方が喜ぶでしょう」
「そうですね」
観戦だけにすることもできた。
出場すると決めたのは三人の意志。
それを尊重すべきだとスノウは思った。
治癒の女神エイル様、どうかルフとヴェラとゼノン様をお守り下さい。
スノウは手を合わせ、心からそう祈った。




