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「さすがはマチルダのお兄さんなんだね」

「なっ」

 マグナムは突き付けられたものを除けるでもなく、そう笑いながら言った。そう余裕な態度を見せるマグナムとは対照的にセルドアは焦っていた。

「何故、君を知っているかって言うんだろう?」

 マグナムは目を細めて笑った。

「アリアから聞いていたからね、君のことを」

 その言葉を言った瞬間に、セルドアは息をのんだ。

「彼女は言っていたよ、『非常に頼れる人』だってね。『万が一何かがあったときには彼を頼ることにする』とも言っていたかな」

 彼は今頃、うちは大丈夫かなぁなんていいながら、呑気に言った。

「まあ、私自身は君たち兄妹から恨まれても全然おかしくないからさ。もともと将軍の名前を聞いたときに、『ああ、昔、手を出しちゃった娘のお兄さんか家族なんだろうな』って思いだして、いつか君に刺される運命しか見えなかった。だから、さっき助けに来てくれた時に驚いたんだよね」

 マグナムはあくまでも軽く言ってのけた。そして、その発言にセルドアは驚きを隠せなかった。

「でもね、君に対しては非常に感謝しているんだよ、これでも」

 マグナムの声が急に真剣になった。表情もそれに合わせた状態だった。

「どういう意味でしょうか」

 それに対して、セルドアは固い口調になった。

「まさか無自覚にやったとか言わないでね?」

 マグナムは、剣の先を素手で(・・・)丁寧につかみ、降ろした。

「君達騎士団は、王族に害をなしそうな奴らの尻尾をつかみ、それが公爵家なんかが相手をするようなレベルの罪じゃなければ抑え込んじゃっていたでしょ?しかも、他の誰か、おそらくはディート伯あたりがうるさくなりそうな連中を押さえていたんじゃないのか?」

 そう、フレデリカ一派との(水面下での)抗争に関わっているのは、あくまでも王族(の末端)とスフォルツァ家だ。しかし、フレデリカ一派は貴族の末端まで巣くっている。末端まで行くには王家とスフォルツァ家のみで対応しきれない。しかし、細かい部分についてはスフォルツァ家(主にエレノア)が対応していない部分が多かったのだ。その部分を担っていたのが騎士団であり、その方針を決めたのが、まぎれもなく将軍であるセルドアだった。しかも、そんなことをしていたら、他家から足元を掬われたり、横やりを入れられたりする可能性が高い。その可能性をつぶしたのは、セレネ伯爵の縁戚でもあるディート伯爵だったのだ。2者の活動を、エレノアとアリアはもちろん、マグナムも見抜いていた。

 今度こそ、セルドアは絶句していた。

「そういえば、君に渡したいものがあるんだけれど、もう怖い人たちいないよね?」

 マグナムは何かを思い出し、手を打って、そうセルドアに尋ねた。

「は、はあ」

 マグナムの変わり身の早さに、ついて行けないセルドアであった。


「うん、あったあった」

 自分の執務室に戻ってきたマグナムは机の中から、ある書類の束を差し出した。

「はあ、何ですか、この書類は」

 書類の分厚さにげんなりしながら、セルドアは軽く目を通し始めた。が、次第に険しい表情になっていった。その様子を、マグナムはにこにことしながら眺めていた。


「あなたは、何をしたかったんですか?」

 書類を読み終わったセルドアは開口一番そう言った。

「うん?何って、財務省の膿み出しだよ」

 その書類には、以前、セレネ伯爵が窮地に陥った際の経過とその詳細だった。

「だからって、貴方が――」

「まあまあ、落ち着いて、セルドア・コクーン騎士団将軍」

 マグナムはセルドアが読んでいる最中に茶器を出して、お茶を入れ始めていた。

「これが落ち着いていられますかっ」

 セルドアは書類をバシバシと机にたたきつけていた。

「うん、『落ち着いていられるか』、だよねぇ」

 マグナムは緊張感のない声でそう言った。

「君は勘違いしているかもしれないけれど、自分が窮地に陥れば、家族にも迷惑がかかるって気づいていたさ。でもね、財務省の膿は僕か王族の誰かが汚れ役をしないといけないほど、汚かったんだよね」

 マグナムはそこで区切り、自分で淹れたお茶を飲んだ。

「どういった意味ですか?」

 少し落ち着いたセルドアは身を乗り出して尋ねた。

「今は少しおさまったけれど、昔、セリチアの内部情勢が悪かっただろ?その時だったから、軍事費にって言って軍に捻出しようとしていたのを、大部分の財務省の役人が渋ったんだよ」

「もしかして、それが、多くの高位の貴族の家に回っていたとか、ですか?」

「うん」

「で、それに気づいたセレネ伯が窮地に追い込まれた。ん?でも、貴方は出てきませんよね?」

 気づいた点を話していて、セルドアは違和感に気づいた。

「渋った時点でなんかあるなぁって探ってみたんだけれど、僕自身が評判良くなくって、しかも、あれだけフレデリカにテコ入れしていたから、外聞が悪かったんだよね。だから、横領に気づいた時からエレノアとアリアにあとは託そう、と思って、わざとセレネ伯爵を陥れたんだよね」

 セレネ伯爵は当然冤罪であり、『大貴族』であるスフォルツァ家に間接的に陥れられたのだ。しかし、あの中で横領に手を染めていなかったのは彼だけで、他の人が捕まってしまえば、自分たちが捕まることはないと思っていた役人たちの失態である。当然、彼らはある時期に強制捜査が行われ、長官諸共すべて罷免となった。しかし、

「これ、たとえスフォルツァ公爵でも許されませんよ」

 一連のからくりを知った、セルドアは容赦なく言った。

「うん、そうだね」

 しかし、マグナムは微笑みながらそう言った。そもそも他家を陥れるのはかなり重い犯罪だし、それもかなり汚いやり口である。命を乞うつもりは彼にはなかった。

「貴方っていう人は、まったく。僕がせいぜいできるのは、内密に貴方を公爵家から追放し、次期公爵にはユリウスをつけ、後見人としてエレノア様かアリア姫をつけるくらいでしょうか」

 そのあっけらかんと態度に、毒気を抜かれたセルドアはため息をつきながら、そう言った。

「じゃあ、それでよろしく」

 マグナムは笑った。

「ついでに、2人のことも頼むよ」

 その後すぐにマグナムは、形式上は(・・・・)セルドアに連れられて、王族に挨拶をした後、王城から荷物を運び出し、領地へと向かった。

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