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蒼のAGAIN  作者: 「S」
第二章 2桁の『災悪』と絶望の病
40/42

第二章25 『Episode of Memory.The Renewal.EX――3.0to5.0~』

 とりあえず先に、すみませんっしたぁあ~……っ!!!!!!いやはや、次話にこんな時間がかかるとは思いませんでした。恐縮です。1週間ではなく、10日もやすんでしまうとは……。まぁ反省はここいらで。

 それではご報告。活動報告を再開しました!最初はやっていたのですが、あざとくてやめました。なのでこれからは、そこに情報を提供していきたいと思います。一つほど活動報告が載っていますので、それを参照にしてくれたら嬉しいです。

 と。この話は一番長いものとなっています。訂正が行き届いてないかもしれませんので、先に謝っておきます。すみません……。

 ――キスケと俊を失って、



 また、新たな光玉が近づいてくる。それは今までの倍はある、手のひらサイズのピンク色をした、とても暖かなものだった。


 ただ、この記憶(こうかい)は正直、いい思い出・悪い思い出のハーフ&ハーフで、少し複雑だった。思いっきり偏っていれば、対処やら細かいことに支障をきたさずできるものを。それをいとも容易くひっくり返してくるほどの強者だ。


 だから、あまり乗り気には慣れなかった。それでも、好き嫌いはしてはだめだと理解しているため、今回は仕方なく掴み取る。


 光が弾け、綿のように分散して身体中を包み込む。それと同時に、世界が収縮するように集まってくる。



 半目になりながら、記憶の扉を引き出しを開けるような感覚で開放する。門から解き放たれてくる記憶(かぜ)は、生暖かいどんよりとしたものだった――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「――……っ」



 ゆっくりと目を開き、気づけば、いつも通り机で窓を眺めているところだった。

 誰もいなくなり、完全に元の一人と化したこの現状。



 ――ただ、違うのは、



 6年生になったわけで、クラスが変わっているということ。そしてそれは、その複雑さを極めるものだった。



――何故なら、



「――これから、班替え兼1週間後に行われる『2泊3日の修学旅行』の班決めをしたいと思います。それでは、班長になりたい方は挙「――はい!」……手……」



「――私やりたいです!」



 元気のいい返事。だがその分、クロへの気が削がれる速度は相当だった。



「えっと、南芭(なんば)と。えー、班員は決まっているのか?」


「はい!」


 担任が黒板へとチョークを走らせる。



 ――はぁ……。



 班替えや修学旅行は学生時代ならではの大イベント。……が、俺は萎えていた。あの――『(なん)()()()』と同じクラスになり、それでいて、



「えー、班員は班長によって強制的に決まるからなー。仲がいいもの先に取られるのが嫌だったら、どんどん手を挙げてくれー。班員が被ったときはじゃんけんなー」


「「「「「はーい」」」」」


「それで、南芭の班員は決まっているのか?」


「はい!」


「お、それじゃぁ、書いていくから名前を言っていってくれー」


「えっと、『そう……』じゃなかった……『()(そう)』くんと、『()(いず)()』さんと、『()()(しろ)』さんと、『(やま)(しろ)』さんと、『()(たで)()』くんと、『(さん)()』くんです」


「ふむ。今期生は多いからな。一番多い7人班か」


「はい!多い方が楽しいですもん」


「ははっ。そうかそうか。それでー、南芭班は一班だな。ほらほら、被ってもいいからどんどん挙げていけよー」



 ――と、



 おわかりいただけただろうか。この理不尽な怪しい班決めを。選ぶ側には権利があるものの、選ばれるやつに拒否権はない。強制なのだから。



 ――しかも、



 一般 班長 … 『南芭』

    班員 … 『真蒼』『小泉美』『多田代』『山城』

         『佐蓼斗』『三雅』


 この班決めの何がおかしいか。それはまず、エミが班長。嫌な予感しかしないのは間違いない。しかも班替えと修学旅行班の同時決定。そして――、



 ――同期で『佐蓼斗』や『三雅』なんて奴は存在しないということ。



 学校の奴らは市内の人間ばかり。だから顔はほとんど知っている。それに同期だ。嫌でもみんな覚える。



 ――だから、



 これは夢の中であり、記憶だ。それにより、次に遭うことについて知っていて損はないだろう。だがまだ、よくわからない状況。気にしても仕方がない。



 ――なので、



 気にすべきはあのエミに限定。元々、それが今回の目的だ。


 エミで言えば、堂々と俺の名前を叫ぶ時点で終わっている。前回から同様、今の俺のあだ名は『死神』なのだから。ただそれは、あのエミだ。その噂を知らないのだろう。もしくは、知っているうえで何かを狙っているのか。



 ――まぁ、結局。



「わ~、楽しみだね~。ね?『そうま』」


「あー、そうだねー」


「ムゥ、なんか適当返事してない?」


「あーはい、してないしてない」


「それを適当返事って言うの!」


「つうか、あんた誰?」


「え?南芭恵魅だよ?」


「へ?」


 そうそう。班替えも兼ねた班決めだったな。んで、隣にはエミで、目の前は、


「よろしく」


「…………」


「ちょっと、ヒメを無視しないでくれる」


「…………」



  そうだったな――『()(いず)()(ひめ)』ってやつは、他の者同様、一人称をマイネームで呼ぶようなあざとい奴だ。



「よ」


「…………」


「無視すんなよ」


「…………」


 右斜め前は、何度見ても慣れない、あの鋭い目つき。それでも容姿は完璧で、親しみやすさもあることから人望は厚い――『()()(しろ)()()』。



 ま、男の目が行き届くのはたぶん、集中してその急成長の胸だろう。というか、その眼付にも惹かれるんだろうからな。何とも言い難い。まぁ結局、どうでもいいが。



 ――俺の席は相変わらずの窓側の一番後ろ……って、俺だけ変わってないけど、誰も何も言わねぇし、気づいてないから、ま、どうでもいいか。



 ――そんなことはさておき、他のメンバーは、



「また一緒だね、ユウ」



「――うん!」



 そうか。エミの隣は――『ユウこと(やま)(しろ)(ゆう)()』か。俺に似て無口だが、それは

恥かしさからなる単純なもの。落ち着きとそのおしとやかさ、可愛い系の部類の奴だな。



 ――そんで、あいつら。



「――あ。兄貴、あいつこっち見てるよ」



「――そうだな、弟よ」



 ――そういや、



 あいつら兄弟だっけか。キスケと俊に似て、苗字は違う。義理なのか?なんだろうな。似ているというだけなのに嫌な予感が絶えない。気のせいか?

 


 ――それにしても、



 髪の色が黒と白とはわかりやすいな。弟の『佐蓼斗』の方もやっぱりヤンチャそうだ。そして兄の『三雅』もクールで落ち着きがある。面影満載だな。



 ――まぁ、どうせ。休めば一発だし、どうでもいいか。



「そうまー」


「……ん?」


「今、休もうとか考えてないよね……?」


「…………」


 何だこいつエスパーか。いや知ってたけども。


「……思って、ない、よね?」


 何でいちいち区切ってんの?なんか怖いよ?うん、怖い。僕怖い。お家帰る。


「……さぁな」


「なっ!?休まないでねっ」


「…………」



 ――だから嫌なんだよ。エミと俺は似ているせいか、俺の考えてることを何となくでも察してきて、しかも当ててくる。面倒臭いことこの上ない。



「もうっ」


「…………」



 ――で、



「「…………」」


 そのジト目は何でしょうか?


「……何だ?」


「別に」


「何も」


 うん。言わなくてもわかってる。あれだろ?仲いいねとか言う気だろ?もしくは、それを「はぁ?何勘違いしてんの、キモッ」とか……言いたげな顔で返してくるのやめてくださいお願いします死んでしまいます。もう死んでるけども……。


「…………」


「……?」



 ――と。



 たとえ『無』になろうが、こんな感情は偽りのもの。何をやっているんだろうな……。まぁ仕方ないか。ここは夢の中であり、記憶。過去の自分の感情と今の自分が混ざって、半端にも……。



 ――結局、



本当の俺ってどこにいる誰なんだろうな。わからなくなってくる。まぁでも、俺は俺か。そのことに変わりはない。今はいろいろとあやふやな状況だ。



 ――だから、自分探しは後だ。探求者シーカーさん?



「そうま、どうかしたの?」


「……いや、自問自答を」


「……?」



 ――やっぱ、似てんな。



 そうやって、世界から色が薄れていくことに気づきつつも、隣にいる彼女の微笑みを遠目に見ながら、切り離されていく――。



ここはただの、新たな始まりの過程。だからそんなに大した意味はない。


 でも、こうやって、思い出していかないといけない。俺は彼女がどういう人間だったのか、もう覚えていない。



 どんな風な声で、どんな風な顔で。どんな風に笑って、どんな風に会話をして。どんな風に、『好き』になっていったのか――。



 ――そして、



 世界から色が消えていく。偽りの幻想だったかのようにメキメキと剥がれ落ち、もとの空間へと誘われる。



 そんな世界で空を仰げば、浮かんでくるのはこれから待ちわびる彼女との思い出だけだった――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 瞼を開ければ、もとの空間。だが右手には、ピンポン玉かスパーボール状の大きさで、血痕色の真珠があった。


 覗いてみれば艶がある綺麗な宝石。でも中心にはさらに小さな黒い円球があって、そこに映し出されるは、あの思い出。


 臆することなく軽く握りしめる。


 ガラスが割れるような痛みと、夏を彩らせるような爽快感。淡く切ないそんな風景が流れる。


 浸るように、溶け込むように。目を閉じて、あの『時』を振り返る。



 あの終わりと始まりの一週間後を目指して――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 瞬きを何度もしながら振り返った先にある思い出。それは懐かしくも、しょっぱかったり、すっぱかったり。甘かったり、苦かったり。時に辛いという、スパイスの効いた後悔。



 ――そしてここは案の定の、あれから一週間後の世界。



「えー、では、これから、修学旅行が始まります。冊子の通り、大阪・奈良・京都へ向けた2泊三日の旅です。道中は……」



 また、意識が途切れる。フラッシュバックするように、光が遮る。ゆっくりと瞼を閉じ、反対にまた開いてみる――。



「…………」


 目を開ければ、出発式は終わって、バスの中で窓を眺めている光景だった。いつも通り、景色と共にそこに映し出される自分自身を眺め、会話のように目で訴えている。


 チラリと、窓から反射して映る後ろに目を向ければ、無防備にも寝顔をさらしているエミがいる。その隣には山城がいて、列後ろに小泉美と多田代、佐蓼斗と三雅が考え込むように腕を組んでいる。


 自分はと言えば、2人席を1人で扱うという自由そのもの。ガキのような感覚だが、それは当然。7人班なら一人席が余る。しかも不思議と隣には誰も寄ってこなかった。幸いだった。


 静かすぎることに気づいて、自然と周りを見渡せば、皆眠りへと落ちていた。どんだけ楽しみにしてたんだよと、常々思わされる。



 そしてまた、目を閉じて見れば、淡い光が水面下のように身を包み込む。空を飛んでいるかのようで、水の中を沈んでいきながらも月を見上げるような、そんな似て非なる浮遊感に見舞われながら――。



 気づけば、ボリュームがゆっくり大きくなっていくように、周りが音に包まれていた。どうやらここは、新幹線の駅ホームらしかった。


 こうやって、記憶の中を転々としていくのだろう。今までにはなかった形だ。覚えていないからなのか、思い出せないからなのか。それともあやふやで朧気なために、こんな感じになってしまうのか。それはわからないが、


「…………」


 どこへ行っても結局、一人だということに変わりはなかった。


「ねぇ、『そうま』」



 ――はずだった。



「…………」


「ねねねね、『そうま』」

 

 しつこい……。


「……なんだ?」


「聞こえてんじゃん」


「ヘッドフォンをしているからって、聞こえないことはない」


 が、そうだったな。あいつからこれをもらって……それ以降、肌身離さず、宝物……いわゆる家宝みたいに大事に使ってたんだ。


 いつも首にかけてたけど、今はこのヘッドフォンで世界を断絶してたんだな。


 これを耳にかけると、外界との音が一切絶たれるという優れもの。それでいて、コードがいらないという、ヘッドフォン自体が音楽プレイヤー機能をもっていた。


 が、それでも耳がいいせいなのか、扱いきれてないせいなのか、外の音が心の声のように響いてくるのはおかしな話。



 ――まぁ、『あれ』も関係しているんだろうが。



 それでも、持ち掛けられた会話だ。礼儀として、外さないとな。


「よく先生から取り上げられないよね……。そんな堂々としちゃってさ」


 エミの視線が、一人の女教師へと向けられる。それはとても若々しく美しい、そんな類の大人の魅力を醸し出した人だった。


「ああ、それは……成績がいいからな。特別待遇って奴だ」


 俺は、あの人を知っている。だから少し、答えることにあいまいにも濁してしまう。


「何それずるい。私も満点しかとったことないし、成績だって……」


「羨ましいのか?」


「うっ……そ、そんなことないもん。ただちょっと、ずるいなぁって……」


 わっかりやすい反応だなぁ。


「……まぁ、理由はそれだけじゃないけどな」



 ――そう、それだけじゃない……。



「どういうこと?」


「あの人は唯一、俺の秘密を知っている」


「……?」


「ガキは知らなくていい、血みどろな関係ってやつだ」


「そうまだって、ガキのくせにぃ……」


 皮っ肉そうな顔だなぁ。まぁ、仕方ないよな。


「あれだ。見た目は子供、頭脳は大人、なんだ。俺とエミじゃ、精神年齢が違う」


「屁理屈だ!って、あれ……?」


「ん?」


「…………」


 なんだ、この反応?まぁ、いいか。


「……んで、話が脱線しまくったが、何の用だ?」


「え?ああ、そうだったね」


 そこ重要なのに忘れるのか。


「そうだったねと共有を求められても、何も言われてないんでわかりかねる」


「ムゥ、そんなんじゃぁ一緒にトランプしてやらない!」


「あ、そう」


 別にしたいとも思わんし。というかトランプ?あれか、新幹線の中でって意味のあれか。まぁ、したければすればいいと思うけど。


「せっかく誘いに来てあげたのに……って待って待って待って!」


「どれだけ待てばいいんだよ」


「いちいち揚げ足を取らないの!」


「えぇ~……」


「『えぇ~』じゃない」


「…………」


「…………」


「なんで、エミまで沈黙するんだよ」


「いや、だって……また?」


「また?」


「いや、その……」


「……?」



 ああ、今気づいた。そうだ。そうだったな。この時の俺は――、



「名前……」


「嫌だったか?」


「いや!じゃないけど……」


「どっちだよ。呼べって言ったのエミの方だろ」


「そうだっけ?」


「自分で言って忘れるなよ」


「いつの話?」


「3年前……いや、去年か」


「……?」



「……」


 思い出すように考え込めば、世界が水彩のように溶けて滲んでいく感覚になり、気づいた。



 ここでの記憶が改竄されるように、新たな後悔が身を焼き尽くしていく――。



 それは、何とも不思議な出来事だった。



 思い出すように浸り込み、場所が移り変わる。言葉通りの3年前へと――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ――3年前。



 俺は、夢を持った。それと同時に、希望を手にした。そんな気がしていた。


 親を失って、1年。周りとの関係は相変わらず。そんな中で出会ったのは、小学3年生の頃に斗条が描いた物語から始まった。


 最初、斗条が学校の休憩時間中に自由帳へ独画で漫画の2次創作をしていた。それは一時期、クラスの皆に広まった。


 そして俺も、そんな影響を受けてか、自由帳を手にペンを走らせた。絵は、汚いもんだった。漫画はこれまで読んだことはない。


 でも、アニメなら暇つぶしを兼ねて、ネットを通じて毎日のように見ていた。引きこもりのように、それでいて視聴時間はゲームをしているガチ勢並みに。


 内容は2次創作。はちゃめちゃな展開に誰もが笑った。生涯で唯一、俺が輝いた瞬間だった。


 それが嬉しかったのか、斗条と共に漫画バトルをしたものだ。ルールは簡単、お互いに描いたガチの漫画を、審査員に面白いと言わせた方の勝ち。


 それは毎月のように、俊の部屋で行われた。時々、迷惑がられたりもしたけど、それでも、楽しかったんだ。



 3人で秘かにも、笑い合えていたことが――。



 けれどそんなのは、小4になって縁遠いものになった。斗条が冷めたんだ。だが俺は、秘かにも続けていた。未練がましくも、誰にも見せることもなく。


 ストーリーに関しては、申し分なかった。アイデアが凄かったんだ。想像力豊かなおかげで。


 ただある時、一人から言われたことがある。当時あったアニメから、「2人で組んで、漫画家になれば?」と。それを俺は夢見ていた。でも、それは与太話で終わった。


 斗条が冷めたのもある。先の未来でいなくなってしまうことも含めて。ただ俺だけが、諦めきれないで絵を練習していた。気づけば、斗条よりも上手くなっていて、必要ないと感じたんだ。



 全てを一人でこなす俺は、独りだと――。



 そして本当に、独りとなった――。



 ――そんで、あれから、



 今までのことがあって、小5の途中での出来事――。



 昼休みが終わり、5時間目との間にある掃除時間へと移行し、教室で放棄を扱っていた時のこと。


 この頃からエミとは同じクラスになっていて、同じく教室で放棄をもって掃除をしていた。


 そんな自然と掃除をしながらエミへと歩み寄ったときに気づいた。鼻歌を歌っていたんだ。そして俺は、その歌を知っていた。


 ネット上で話題になっていた音楽。当時ハマっていたゲームをしながら、BGM代わりに聞いていた。



 それを俺は――、



「何でその曲?」


 と、呟いてしまったんだ。ただ声は小さかったから、聞こえてないだろうと思っていたんだが、


「この曲知ってるのっ!?」


 って、エミは、前のめりに顔を近づけてきた。顔との距離が目と鼻の先で、キスをするところだった。なのに、そのことに気を留めていないエミの瞳は吸い込まれそうな勢いでキラキラと輝いていた。



 ――そう。



 あの時の俺みたいに、いや、それ以上に凄く嬉しそうだった。


 聞けば周りの皆は、この曲を知らなかったらしい。それで、嬉しさのあまりか、他にも知っている人はいないか、もう一度、教室の皆に聞きまわりに行った。


 少し呆れながらも、俺とエミしか知らない、そんな秘密の共有のような感覚でその分、凄く嬉しかったのを覚えている。


 それからというもの、


 昼休憩に、周りではネット上で流行っている音楽やダンスをエミが主謀者として女子たちに見本となって教えるレッスン教室のようなものがあり、俺はその光景を、昼休憩の終わりによく見かけた。

その度に、逆にエミもこちらへと気づき、近づいてきたリ、手を振ってきたリと、たったそれだけのことなのに、勘違いをさせるような行動をとってくるんだ。



 仕方のない事だと分かっている。彼女は純粋で、そんな気も悪気なども、無いということも――。



 そして、そんな関係も、時間を経ては穏やかになった。エミから話しかけてくることはあったが、それは日常的なもの。だから、音信不通だった。


 ただ少し、寂しさを覚える自分がいた。だから、その教室の近くにある、別棟へと繋がる野外廊下で、風を感じながら歌ったんだ。



 あの曲を――。



 地味にも戻りたいと思った自分がいた。だから情けなくて、切り捨てるように思いのたけをそこへぶつけた。幸いなのか、誰も、聞かれずに。


 そのおかげか、すっきりして、またいつもの俺へと戻った。



 ――ただ、



 その出来事があってから、『南芭』から呼び方を『エミ』へと変えてくれと言ってきたのを確かに覚えている。だがそれを、当の本人が忘れていた。



 ――まぁ、そうやって、



 また、世界が綻びを生むように崩れ去っていく。記憶から関連することを思い出そうとすれば、世界は新たに空間をつくる。終われば、また、その空間が崩れ去って、さっきの『時』へと誘うのだろう。



そして、そんな中で思う事と言えば――、



 思い出していた夢と希望の嬉しさは、好きな人へ向けた恋や愛などのときの感情へと共通していたことだった――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ――時は戻って修学旅行。



 風景は徐々に光り輝くように白く、それでいてリアルに変貌していく。そして、そんな中、目の前に立っていたのは会話途中のエミだった。


「……?」


 相変わらずの疑問符から始められたことに、少しため息気味にも会話を再開する。



 ――ただ少し、



 言葉で説明するよりも、百聞は一見に如かずというように、実際にキーとなる実物を知ってもらった方がいいと、ヘッドフォンを手に取り、エミの耳へと授ける。


 さらなる疑問符を浮かべながらも、雑音が途切れていることにエミは驚きを浮かべていた。


 世界から切り離されたことに本当の意味で知りながらも、静かな空間で流される一曲に耳を澄ませる。


 青春の一時を現すような、そんな爽快で甘酸っぱい音楽。ロック感がありながら、心にとてつもなく響く、懐かしくそれでいて悲しい。そんな曲。


 聞いたことがあるから、似た者同士だから、その曲にとてつもなく引き込まれると、そう思っていた。


 エミも、聞くうちに思い出していったのか、頬を緩ませていた。聞き入るように瞼を閉じて――、



 たぶん、流れるはあの日の思い出。そうだと信じたい――。



 そんな5分間はあっという間だったのか、ゆっくりとヘッドフォンを取るエミ。顔を覗けば、相変わらず微笑んでいて、満足そうに見える。



 ――それで、



「ふぅ……」


「感想は?」


「へ?ああ、うん……」


「……?」


「凄かった……よ?」


「それだけか?」


「えっと、うん……」


「そうか」



 行動に意味をなさなかったことに少し残念に思うも、返されたヘッドフォンを首へとかけなおす。何を期待していたんだ、と――。



「ねぇ……?」


「ん……?」


「あの曲さ……」


「ああ」



 ――もしかして、



「5年生の時の……だよね?」


「そうだな」



 ――やっと、



「えっと、その……」


「それで?」


「…………」


「自分で言ったこと、ちゃんと思い出していただけましたか?」


 人は、期待していたことを現実によって裏切られると、その分、自分にマイナスな感情がぶつかってくることに気づいていない。だが俺は、そのことを十分に理解している。だから、この世界の全てに期待なんてしようとも思わなかった。



 ――けれど、



「はい……」


 頬を赤らめるエミに対し、呆れ気味にも内面でちょっぴりドヤ顔になるのを感じながら、景色が薄れていくことに気づいた。



 ――だから最後に、



「で、トランプだが……」


「うん?」


「一緒にやるよ」


「わかった」


 頭を搔く俺に対し、エミの顔は満面の笑みだった。



 しばらくの時を経て――、



 ショートカットをするように、皆でトランプをした記憶が頭の中を駆け巡った。


 ババ抜き、ポーカー、神経衰弱。カードゲームは得意だったせいか、必ずしも圧勝でつまらなかった。唯一、シャッフルを任されたときに見せた早技が皆唖然としてて面白かった。

 その後、UNOもしようということになり、始めたのだが、結果は予想通りだ。



 そうやって、時間が潰れていて――、



 また、静かな時が流れていた。周りはどれだけ眠いんだよと思わされるほどに、睡眠状態へと移行していた。


 そして何度繰り返せば気が済むのだというように、窓ガラスに映る自分の顔を平然と睨みつけていた。


 耳にはヘッドフォンがしてあり、あの曲が流されている。静かな空間で聞く曲は、頭の中に目の前にいる彼女との思い出を連想させる。


 洗脳のように過ぎる彼女は、どれも、名前に似たイメージ通りの笑顔を浮かべている。



 だから虚しくも思ってしまう。期待してしまう。その無神経に平然と振り撒く優しさと微笑みが恋という鎖で今も重く沈んでいる心を縛り付けてくる。勘違いだとわかっている。そうでなかったとしても、もう――。



 差し掛かった長いトンネル。景色見たさに窓の外を眺めてはいても、映るのは自分と、周りが黒く貪欲に塗り潰された背景と、薄れて消えていく周りのみ。


 もう一度あの青い空を見上げれたならと思うも、それは叶わないと断念する。

だから最後に、彼女に視線を向ける。


 無防備なことに呆れながら、消えていく周りは徐々にその2人へと収縮され、最後の最後に、自分だけへとなってしまう。


 美しいはずの世界を見るはずの目は、拒絶するように閉じていた。



 そして心も、晴れることはなかった――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 記憶の『時』は流れて――、



 修学旅行定番の道を歩んでいた。

大阪・奈良・京都。初日は、大阪と奈良巡り。なので、新大阪駅からバスへと移り、バスガイドさんとレクリエーションを行って、一つ目の大阪に到着していた。


 大阪では、城である大阪城を見学。登っていくにつれ、いろいろなものが展示してあることに気づきつつも、どうでもよく早々と通り過ぎていたのだが、


「…………」


「兄貴、凄いね。これがジャパニーズ刀ってやつか」


 こいつ帰国子女だったか?語訳的にはあってはいるが。


「そうだな、弟よ」


 というか、お前それバッカだな。だが確かに、この刀……。

 


 俺は日本刀に目を奪われていた。鏡のように巧みに洗練された刃に、惹かれるように――。



「男の子って、ああいうの好きよね」


「そうね」


「うん」


「ふふっ……」



 遠目に刀を眺めて、女子たちの反応を耳にして、『そろそろ行くか』と、足を動かす。その行動に反応してか、エミが周りへと声を掛けていく。


 クロに追いつこうとするその行動。だがそれを、意味をなさないかというように、世界は白く包み込まれていった。



 そして、新たな一歩を踏み出せば、外のお土産売り場だった。だがここには何もないと、あっという間にバスの中へと移動し、今度も転々と到着地までが過ぎていった。



そうやって、場所だけが移り変わっていって、



 奈良。東大寺。

東大寺と言えば大仏だが、正門には木彫りの風神雷神の姿。柱にも人一人が通れるような穴が空いていたりと、見どころ満載。だが正直、仏教にも特に興味はない。



 ――なので、



「「「「かわいい~」」」」


 寺巡りは終わり、一番乗りで集合場所である参道へと戻った一同は、おもてなすかのように待ってくれている『もの』へ夢中だった。


「兄貴、この生き物って……」


 佐蓼斗が差すもの。それは、


 角は危険なため切り落とされており、身体は秋を思わせるほどの褐色で、チラホラと白いまだら模様。サンタの付き添いと間違われる生物。



 ――そう、



「ああ、そうだな。鹿だな」


「屍?」


「違う」



 ――何だこいつ。いきなり死へと追いやったぞ。悪魔か。



 確かに、かわいい。



 ――が、



 俺は少し、一定の動物は苦手だ。触れられないなどではなく、嫌いというわけでもない。ただ、獣臭やこの動物のように道端に※※※を撒き、臭いところが……。だから動物園も苦手だ。まぁ、苦手というだけで、行かないほどではないが。


「なんか、うまそうだな」


 やめなさい。鹿もビビってるし、どこかの誰かさんが浮かぶから。


「まぁ、鹿鍋というものもあるからな。食えないことはないが……」


「ダメだよ!こんなかわいいのに食べるなんてっ」


「……っ」


 瞬時の遮る可愛いツッコミ。それは素晴らしい。



 ――だが、


 

 ――エミよ。何故俺に言う?



「「…………」」


 そしてそちらのお二方。そのジト目を向ける相手もたぶん間違ってる。


「そうだぜ、クロ。誰がこんなかっわいい生き物、食うかよ」


 ……ああ、そうだな。その訴えかける『目』には説得力がある。その下、口をどうにかしたら完璧だったのにな。


「クロよ。TPOと動物愛護法を弁えろよ」


 うん、お前もか。めんどくせぇ兄弟だなぁ!


「お前らな……」



 ――どうしてだろう。



 記憶という夢の中で、その『時』を演じているだけなのに、このときの空間は懐かしさを際立たせる。



 悪乗りする者に、微笑みを浮かべる者。そして、俺。こんな和やかなもう一つの居場所を俺は手にして――、



 ――それで、



 切り開かれていく世界たち。それがなんとも美しく、儚い。



 そんなことに気づきながら、世界はまた、姿を変えていった。



 場所は変わって、旅館。一日目を無事に終え、男女に分かれて部屋へ移っていく。

 

「おお~、ここが俺たちの部屋か~」


「意外と……普通だな」


「…………」


 扉を開けて、入り口に広がるは、右に布団が閉まってある襖。左に洗面所。そして目の前の襖は全開で、部屋を見渡せるようになっていた。


 足を踏み入れ、中もよく確認してみる。畳12畳ほどが敷かれており、左側の壁沿いにテレビや等身大の鏡、机が寄せられるように配置されていた。


「そだ!夕食まで時間あるし、朝の続きしようぜ」


「ふむ、そうだな……パンフレットには夕食が6時で、入浴が7時から8時と書いてある。今は4時で、まだ2時間ほどあるな。なら、問題ないか。クロもどうだ?」


「…………いいのか?」


「ああ?こっちには断る理由はないしな」


「いや……」


 朝の続き。それをクロは完勝している。つまり、


「……あー、まぁ、あいつは根に持つタイプだからな。思い出して止まらなくなるだろうが、そん時はそん時だ」


「……わかった」


 朝の続き。それはトランプやUNOなどのカードゲームのことを指している。そしてそれをクロは完勝し、その時に諦め悪くも何度も挑戦してくるやつがいた。



 ――それがこの、



「あ~また負けた~!」



 ――『()(たで)()(りん)』だった。



「クロ、ほんと強いな。何か、コツでもあるのか?」


「ん?いや、先読みが得意なんだ。わからない時は、『感』に任せてる」



 ――読みと感。それは、とある人物を脳裏に過ぎらせる。



「そうなのか?」


「あー、まぁ、そうだな。他には……観察、かな」



 ――そして、忘れることを許さないかのように、繋がる人物が『観察』という下に頭を駆け巡らせた。



「観察?」


「ああ。相手の性格、行動パターン、癖。そういうのを観察して、瞬時に見極め、判断を下す……って感じ、かな」


「つまりは、相手を良く知ることが一歩というわけか」


「そだな。そんな感じだ」


 少し、顔を引きつりながら呆れ気味にも思ってしまう。彼等のことに関連する言葉。それを口にした時、彼等についてを話しているような、そんな気分に。


「くっそぉ~、もっかいだ!もっかい!」


「はぁ……仕方ないな」


「泣いても知らねぇぞ……?」


 そんな3人での光景を思い出すような、この立ち位置に呆れながらに眉を八の字になる2人。


「よっしゃぁ!んじゃ、早速……って、ん?」


 勝負の続きをしようと掛け声を上げた佐蓼斗なのだが、扉を叩く音により言葉を詰まらせた。


 「俺が行こう」というように立ち上がり、『誰だろう』と思いながら、ノックオンのした扉を開けてみれば、


「あ、クロ」


「なんだエミか」


 と、ゆかいな仲間たち。


「何そのいかにもどうでもいい発言」


「いや……まぁ、うん、そだねー」


「適当!」


「「…………」」


 それで、そのジト目、何度向ければ気が済むの?山城も察して、引きつってるよ?……まぁ、とにかく、


「で、何の用だ?」


「一緒に朝の続きしよっていうお誘い」


「あー、それなら……」



 ――たぶん今頃、



 待ちきれず、颯爽と三雅に再戦を挑んだであろう、完敗で灰と化した佐蓼斗の姿を見せてみる。


「「「「…………」」」」


 この光景に、女性陣全員が唖然とした。



 ――それから、



 女子たちと共に、再開してみたものの、案の定の結果。なので、佐蓼斗についてやり、アドバイスをしながら回してみると、やっとバランスが良くなった。



 そんなこんなで、時間は過ぎて、



「はぁ~っ……つっかれた~……夕食も風呂も最高だったし」


「ああ、そうだな」


「…………」


「さて……」



 ――なんか、



 ――企んでるな。


 佐蓼斗の若干の微笑を講義のおさらいかというように2人は察していた。


「よし……」


「寝るか」


「え?おい!察して意気投合してんな……って、早っ!?」



 そうやって、1日目の辿りが終わった――。



 ――2日目。



 旅館での朝ごはんを済ませ、1日目でもお世話になったバスへ。その後も転々として、


 京都、映画村。



 ――ここで、最後。



「えー、12時まで自由時間です。気を付けて……」



 また、途切れ途切れに時が過ぎていく。終わりが早いと告げてくるように。



「クロ?」


「なんだ?」


「アイス、溶けちゃうよ?」


「……ああ、そうだな」


「……?」



 ――あっけなかったな。



「ねぇクロ」


「ん?」


「あれ、入ろ?」


 目先にあったのは、廃墟感漂う和式の建物だった。それすなわち、


「……お化け屋敷?」


「うん」



 自由時間。そのため、班員はバラバラに巡っている。そのため今は2人きりなのだが――、



「まぁ、いいか……」



 そうやって入っていったのだが、それはさほど、怖いものではなかった。ただ、手が凝ってるなぁとしか思えず。



 ――何故なら、



「は~っ、楽しかったね~」


「あー、そだねー」


「感想、雑っ」


「…………」



 ――だって、



 エミよ。お化けが平気な者同士が入ったところで、展示物をただ眺めるようなものだぞ?わかっているか?わかっていないな。


「あ、そろそろ時間だね」


「そうだな」


「戻ろっか」


「ああ」



 ――まただ。



 その笑顔を見る度に惹かれてしまう。



 そして、君はそうやって――、



 景色がまた、彼女を追いかけるように薄れていく。



 手の届かない先へと――。



 楽しい時間とでも呼べばいいのか、この場所での一時は、あっという間だった。一つ一つが転々とし、宿屋へと戻って、1日目の夜と同じように過ごしていた。



 ――違うものがあるとすれば、



「そういえばさー、前にもこんなことあったよねー」


「そうだったな」


「…………」



 ――何の話だ?



「あれぇ、クロ、覚えてない?」


「野外活動の時も、同じ班だったじゃないか」



 ――どういうことだ?



 身に覚えのない記憶。なのに頭から離れない。沸き立つ衝動。抑えきれない思い出の数々。



 見たことのあるもの、身に覚えのないもの。改竄しているのではないかと疑わせるほど、あやふやにそして鮮明に――。



 世界が崩壊していく。空間が、窓ガラスを割っていくように、盛大に崩れ去っていく――。



 ――最悪だ。



 そんな世界で、茫然と、全ての記憶が蘇っていく。溢れ出しそうになる記憶をただ平然と見直しながら、この世界へとお別れを告げる。



 ――それはつまり、



 この『時』の順序は、間違っていた――。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 いろんな時が過ぎていき、握り締めていた紅色の真珠を、もう見る必要はないと砕き潰す。


 とても長く、いつまでも浸っていたいと思わせる彼女との思い出。本当に戻ってこれなくなりそうなほど、彼女が『魔性の女』ではないのかと、思わされる。


 ただこれが、まだ一つ目だということに、冷や汗が伝ってしまう。



 ――その前に、



 あの思い出の中に登場する、謎の兄弟。転校生にも含まれていないはずの彼等は、この『時』よりも前に、会っていると言う。



 ――だから、



 近寄ってくる、新たなる光玉。エメラルド色の透き通った純度。中にあるのは、黒ではなく、白の円球。


 そんな真珠を、思い出し気味にも握り締める。そよ風のように過ぎ去っていった、そんな忘れされた、短い前期。


 そうやってまた、順序を間違えながらも、新たな記憶を手にする。



 あの、1年前へと――。



 ――魔性の記憶の短き前期――


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