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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第一章:都の小さな怪異

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第十六話「座敷童子の悪戯」

ある日の夕暮れ時、屋敷の厨が騒がしくなった。


料理番の老女、お梅が困り果てた様子で真白の元へ駆け込んできたのだ。


「姫君、お聞きくださいませ!」


お梅の声には、切羽詰まった響きがある。


我が名は玄丸。河童の一家と友達になってから、妖怪というものへの見方が少し変わった黒猫である。


「お梅、どうなさったのです」


真白が本を置いて、お梅の方を向く。我も真白の膝から降りて、お梅を見た。


「それが、厨で妙なことが起きておりまして」


お梅が息を切らしながら話す。


「朝、米櫃を開けたら、米が半分になっておりました。それに、昨日作った漬物も、気がつけば減っておりますし」


「まあ、盗人でも入ったのですか」


真白が心配そうに尋ねる。


「それが、戸締まりはしっかりしておりますし、侵入した形跡もございません。それに」


お梅が声を潜める。


「夜中に、厨で物音がするのです。足音や、笑い声のようなものが」


笑い声、か。


我は耳をぴくりと動かした。妖怪の気配がする。


「真澄に見てもらいましょうか」


真白が提案する。


「いえ、真澄様は今、外出中でございます」


お梅が困った顔をする。


「それでは」


真白が我を見た。


「玄丸、一緒に厨を見に行きましょう」


真白が立ち上がる。我は「にゃあ」と鳴いて頷いた。



厨は、屋敷の奥にある。料理を作るための大きな竈や、食材を保管する棚が並んでいる。


お梅に案内されて厨に入ると、確かに不思議な気配がした。


妖気だ。だが、敵意のあるものではない。むしろ、子供のような無邪気な気配だ。


「ほら、あそこの米櫃をご覧くださいませ」


お梅が指差す。米櫃を開けると、確かに米が減っている。


「それに、あちらの棚も」


棚を見ると、漬物の入った壺が空になっている。


「不思議ですわね」


真白が首を傾げる。


我は周囲を観察した。床に、小さな足跡がある。子供の足跡だ。だが、人間のものとは少し違う。


妖怪の仕業だな。


我は足跡を辿って、厨の奥へと進んだ。


「玄丸、どこへ行くの?」


真白が我の後を追う。


厨の奥には、古い押入れがある。我はその押入れの前で立ち止まった。


この中だ。


我は「にゃあ」と鳴いて、真白に知らせた。


「この中に、何かいるのですか」


真白が押入れの戸に手をかける。


ゆっくりと戸を開けると、中から小さな子供が飛び出してきた。


いや、子供ではない。


赤い着物を着た、髪の長い小さな姿。顔立ちは幼く、五、六歳くらいに見える。だが、その瞳には妖怪特有の輝きがあった。


座敷童子だ。


「きゃっ」


座敷童子が驚いて、真白を見上げる。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


座敷童子が慌てて頭を下げる。


「隠れていたの、ばれちゃった!」


座敷童子の声は、幼い子供そのものだ。


「あなたが、厨の食べ物を食べていたのね」


真白が優しく尋ねる。


「うん……お腹が空いてて……ごめんなさい……」


座敷童子が涙目になる。


「怒らないから、教えて。あなたは誰?」


真白が座敷童子の目線に合わせて、屈む。


「わたし、座敷童子……名前は、わらべ……」


座敷童子、わらべが小さな声で答える。


「わらべは、ずっと前から、この屋敷の近くにいたの。でも、寂しくて……」


わらべの目から、涙がこぼれる。


「それで、この屋敷が優しそうだから、こっそり住まわせてもらおうと思って……」


わらべが真白を見上げる。


「でも、ごめんなさい。勝手にご飯を食べちゃって……」


わらべが泣き出しそうになる。


真白が、わらべの頭を優しく撫でた。


「泣かないで、わらべ」


真白の声が、温かい。


「お腹が空いていたのなら、仕方がないわ」


「でも……」


「でも、これからは勝手に食べないで、ちゃんと言ってね」


真白が微笑む。


「一緒に食べましょう」


わらべの顔が、ぱっと明るくなった。


「本当?わらべ、ここにいてもいいの?」


「ええ、もちろん」


真白が頷く。


「わらべは、これから家族よ」


その言葉に、わらべが飛びついて真白を抱きしめた。


「ありがとう、ありがとう!」


わらべが嬉しそうに笑う。


我は、その様子を見ていた。


座敷童子か。福をもたらす妖怪だと聞く。屋敷に住み着くのは、悪いことではないだろう。



その日から、わらべは正式に屋敷の一員となった。


だが、問題が一つあった。


わらべは、悪戯が大好きなのだ。


「姫君、また漬物が減っております!」


お梅が困った顔で報告に来る。


「わらべ、また勝手に食べたのね」


真白が苦笑する。


「ごめんなさーい!でも美味しかったから!」


わらべが厨から顔を出して、笑う。


「まったく、困った子ね」


真白が呆れながらも、優しく笑う。


わらべの悪戯は、それだけではなかった。


食材を隠したり、調理器具を移動させたり、時には料理の味付けをこっそり変えたり。


お梅は最初、困り果てていた。


「姫君、わらべ様を何とかしていただけませんか」


お梅が真白に訴える。


「料理ができません」


「わらべ」


真白がわらべを呼ぶ。


「はーい」


わらべが現れる。


「お梅の邪魔をしてはだめよ」


「でも、つまらないんだもん」


わらべが頬を膨らませる。


「わらべも、お料理したい!」


わらべの言葉に、お梅が驚く。


「料理を、ですか?」


「うん!わらべ、お料理好きなの!」


わらべが目を輝かせる。


「でも、いつも一人だったから、作れなかった。今は、お梅さんがいるから、一緒に作りたいの!」


わらべの言葉に、お梅の表情が和らいだ。


「そういうことでしたか」


お梅が優しく微笑む。


「では、一緒に作りましょう」


「本当?」


わらべが嬉しそうに跳ねる。


「ええ、本当です。ただし、悪戯はなしですよ」


「はーい!」


わらべが元気よく返事をする。


こうして、わらべとお梅の料理が始まった。



わらべは、思いのほか料理が上手だった。


野菜の切り方も丁寧だし、味付けの感覚も良い。


「わらべ様、お上手ですね」


お梅が感心する。


「えへへ、ありがとう!」


わらべが嬉しそうに笑う。


「でも、まだまだお梅さんには敵わないよ」


「いえいえ、わらべ様の方が才能がおありです」


お梅とわらべが、楽しそうに料理をしている。


我は厨の隅で、その様子を見ていた。


微笑ましい光景だ。


座敷童子と人間が、こうして共存できるのだな。


「玄丸」


わらべが我に気づいて、駆け寄ってきた。


「玄丸も、お料理食べる?」


わらべが小さな皿に、料理を盛りつける。


「はい、どうぞ!」


わらべが皿を我の前に置く。


我は匂いを嗅いだ。魚の煮付けだ。良い匂いがする。


我は少し食べてみた。


美味い。


我は「にゃあ」と鳴いて、わらべに伝えた。


「本当?良かった!」


わらべが嬉しそうに笑う。


「玄丸が美味しいって言ってくれた!」


わらべがお梅に報告する。


「それは良かったですね」


お梅が微笑む。


我は、わらべを見つめた。


この子は、本当に純粋だ。悪戯好きではあるが、悪意はない。ただ、寂しくて、誰かと一緒にいたかっただけだ。


それは、かつての我と似ているかもしれない。



その夜、わらべは厨で眠っていた。


竈の近くで、毛布にくるまって、幸せそうに眠っている。


我は、わらべの傍に座った。


わらべの寝顔は、穏やかだ。


「玄丸……」


わらべが寝言を言う。


「ありがとう……」


わらべが微笑む。


我は、わらべの頭を軽く舐めた。


どういたしまして、わらべ。


お前も、この屋敷の家族だ。


わらべが気持ちよさそうに寝返りを打つ。


我は、そっとその場を離れた。


廊下を歩いていると、お梅とすれ違った。


「玄丸様、わらべ様の様子を見てくださっていたのですね」


お梅が微笑む。


「ありがとうございます」


我は「にゃあ」と鳴いた。


「わらべ様は、良い子です」


お梅が厨の方を見る。


「最初は悪戯に困りましたが、今では可愛くて仕方ありません」


お梅の声が、優しい。


「わらべ様がいてくださると、厨が明るくなります」


お梅がそう言って、厨へと戻っていく。


我は、お梅の背中を見送った。


人と妖怪の共存。


それは、可能なのだ。


理解し合い、受け入れ合えば。


我は、改めてそう思った。


月の光が、廊下を照らしている。穏やかな夜だ。


我は真白の部屋へと戻った。真白は既に眠っている。我は真白の布団の傍で丸くなり、目を閉じた。


今日も、良い一日だった。新しい家族が増えた。わらべとお梅の関係も、きっとこれから深まっていくだろう。


屋敷には、温もりが溢れている。人も、猫も、妖怪も。皆が一緒に暮らす、この場所。


我は、この場所が好きだ。


そして、この場所を守りたいと、心から思う。

【妖怪図鑑】


座敷童子ざしきわらし・わらべ

【分類】家屋妖怪

【危険度】★☆☆☆☆(極低)

【レア度】★★★★☆(珍しい)

【出現場所】古い屋敷、蔵、土間、特に裕福な家を好む


【特徴】

幼い子供の姿をした家屋妖怪。年齢は五歳から十歳程度に見えることが多く、性別は様々。赤い着物を着ていることが多いが、地域によって異なる。

座敷童子が住み着いた家は繁栄し、去った家は衰退すると言われる「福の神」的存在。悪戯好きで、夜中に物音を立てたり、食べ物を勝手に食べたりするが、悪意はなく純粋な好奇心からの行動。

基本的に人間に友好的で、特に優しい人間や子供を好む。寂しがり屋で、誰かと一緒にいることを望む。料理や遊びが好きで、家族の一員として受け入れられると、その家に幸福をもたらす。

今回登場した「わらべ」は、長い間一人で寂しく過ごしてきた座敷童子。藤原家の温かさに惹かれて住み着くことを決意した。


【得意技】

・福徳招来:住み着いた家に幸運をもたらす(無意識に発動)

・物品移動:小さな物を動かしたり隠したりできる

・料理補助:料理を美味しくする不思議な力を持つ

・気配隠蔽:本気で隠れると人間には見つけられない


【弱点】

・戦闘能力はほぼ皆無で、危険から身を守れない

・寂しさに弱く、独りぼっちになることを極度に恐れる

・塩や清めの札に弱い(ただし友好的な家では影響なし)

・悪意のある人間には近づけない


【生態】

夜行性だが、昼間も活動する。食事は人間と同じ物を食べるが、量は少ない。甘いものを特に好む。

基本的に単独で行動するが、家族として受け入れられると、その家の人々と深い絆を結ぶ。子供の遊び相手になったり、料理を手伝ったり、家事を助けたりする。

座敷童子が住み着いた家では、不思議と良いことが続く。商売が繁盛したり、病人が回復したり、家族の仲が良くなったりする。これは座敷童子が持つ「福徳の気」が家全体に広がるためと考えられる。

ただし、座敷童子を粗末に扱ったり、追い出そうとしたりすると、悲しんで去ってしまう。そうなると、その家は次第に衰退していくという。


【玄丸の評価】

「座敷童子、わらべ。純粋で無邪気な存在だ。悪戯は多いが、悪意はない。むしろ、寂しさから来る行動だろう。お梅との関係を見ていると、妖怪と人間の共存は可能なのだと実感する。わらべが持つ福徳の力は、理で説明するのが難しい。おそらく、存在そのものが幸福を呼ぶのだろう。真白も喜んでいるし、わらべを家族として迎えるのは正解だった。これからも、この屋敷に福をもたらしてくれるだろう」


【遭遇時の対処法】

座敷童子を見かけたら、決して怖がったり追い払ったりしてはいけない。優しく接し、家族として受け入れることが最善。食事を分け与え、話しかけ、一緒に過ごす時間を作ると良い。

座敷童子が悪戯をしても怒らず、優しく注意すれば理解してくれる。基本的に善良で従順なため、丁寧に接すれば必ず応えてくれる。


【豆知識】

座敷童子は東北地方に多く伝承されているが、京の都にも存在する。地域によって「座敷わらし」「ざしきぼっこ」など呼び名が異なる。

座敷童子が住み着いた家の子供は、座敷童子の姿が見えることが多い。大人には見えないこともあるが、純粋な心を持つ人には見える。

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