ゲーム初心者、パーティを組む
翌日、水紀はスキル上げや調合素材の採取、それに食べ歩きを満喫した。現実世界でもありふれたパンやシチュー以外にもファンタジー世界ならではの食材を使った食べ物は新鮮味があった。丼物まであったのは驚いたけど。食べ物にもポーション調合のように変化があり、使った食材の傾向やランクによってしばらくの間強化効果がかかるらしい。
料理を売っていたプレイヤー曰く、肉系は筋力、野菜系は器用さ、穀類は耐久力が上がる傾向にあるらしい。そして、お菓子類は知力が上がるんだとか。甘いものを食べて集中力が増す的なものなのかな?製作は器用さが重要らしいので手頃な値段のスープを買った。
さらに翌日、いつもポーションを作るときに使っている井戸のそばのスペースで調合道具を広げる。素材は昨日のスキル上げの際にたくさん集めたので今日はあるだけ調合してしまおう。
スライミーオイルをまとめて<最下級錬金溶剤>にする。ログアウトしている間に攻略サイトを見たところ、装備の素材となると強度などの問題があるみたいだけど、調合に関しては素材を作る部分はまとめて大量に作っても比率さえ守れば問題はないらしい。
というわけで、製作の過程の半分をすっ飛ばして<最下級錬金溶剤>をまとめて作ったところで、ヴィーから連絡が来た。
『防具できたよー。都合のいい時取りに来て』
空いた時間で作ると言っていたのでもう少し時間がかかると思っていたんだけど早かった。今すぐ取りにとは言われていないからポーションを作ってからでも大丈夫かな?
急ぎつつもミスをしないようにポーションを仕上げていく。今回のものは手持ちにいくらか残してお店に売っちゃおう。インベントリに余裕はまだまだあるけど沢山あっても使いきれないもんね。
使い終わった調合道具をしまってヴィーに会いにいく。ヴィーは変わらず露店に立っていた。
「ヴィーさん、連絡ありがとうございます」
そう声をかけるとヴィーは振り向き、小さく手を振ってくれる。
「約束のもの、ちゃんとできてるよ。はいこれ」
ヴィーは露店の机にオーダー通りの装備品を並べる。
「『ここで装備していくかい?』」
そしていたずらっぽく有名な某ゲームのセリフを言う
「は、はい!つけます!」
一つづつ慎重に装備していく。自分で素材を集めて作ってもらった初めての装備に心が浮つくのを感じる。毛皮以外はヴィーの持ち出しなのは隅に置いておくことにする。
新装備を身に着けて自分の身体を確認する。なんだか冒険者って感じが増した気がする。
「どう?何かおかしいところある?」
装備におかしなところはない。けど装備の名前におかしなところがあった。<+4>と末尾についている。
「あの、<+4>ってなんですか?」
「あーそれ?せっかくだから強化しといたよ!ちょっとだけど防御力上がるし」
「えっ。そんなことまでよかったんですか?」
強化。それだけアイテムなり費用なりかかったんじゃないかと心配になる。
「いいよ、気にしないで!そんな手間じゃないから!」
「ヴィーさん、ありがとうございます!」
ふかぶか~とお礼を言う。
「その代わりといっちゃなんだけど、次の装備を作るときもよろしくね!たくさん搾り取ってあげるから!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
そう怪しい笑顔を向けられて少し身がすくむ。獲物を見る目してるよ……。
そう話していると、ヴィーにプレイヤーが声をかけ、依頼の話を持ち掛けてくる。邪魔しちゃいけないね。
「あ、じゃあお客さん来たみたいなのでこのあたりで失礼しますね」
お客さんと話していたヴィーはこっちをちらっと見て手を振ってくれる。
「またね!」
もう一度お礼をしてから離れてベルトに投げナイフとポーションを装填する。何度かナイフを取る動作の確認をしてから今日のプランを考える。今日はどうしようか。またスライムとプレインラビットを倒すか、せっかくの新装備だし、試しに近くの森に入ってみようかな。
そう思っていると、お姉ちゃんからメッセージが届く。
『ミィちゃん今暇してる?よかったら狩りに行ってみない?私のフレにも紹介したいし』
パーティのお誘い。他のプレイヤーとまとまって特定の目的のために行動するシステムをパーティと呼ぶ。おまけに姉のフレンドと。
『あんまり強くないけど大丈夫?』
先にプレイしている姉とそのフレンドならスキルも育っているはず。
『ミィちゃん前衛じゃないから大丈夫だよ!タンクいるから無理に前に出る必要もないし』
大丈夫らしい。
『わかった。どこに行けばいい?』
『噴水広場!待ってる!』
特に考えず歩いていた足を噴水広場に向ける。すぐに到着すると姉が大きく手を振っているのが見えた。その周りに3人の男女がいてこっちを見ている。姉のフレンドっぽい。
「ミィちゃん、こっちこっち!」
「おまたせ。えっと、お姉ちゃんのフレンドさん?」
メイスと盾を持った金髪のお兄さん、両手剣を背中に背負った赤髪のお兄さん、腰に装飾のついた本を提げた緑髪のお姉さんを見回して頭を下げる。
「よっ。シズの妹さんだよな?俺はリック、タンク役は任せてくれ」
「近接アタッカーのヴァイスだ。よろしく」
「こんにちは。ヒーラー兼魔法アタッカーのクロエだよ。よろしくね」
金髪お兄さんはリックと言う名前で、タンク役。赤髪お兄さんはヴァイスで近接アタッカー。緑髪お姉さんはクロエでヒーラー。
「お姉ちゃんは?」
「あたし?弓だよ~。遠隔アタッカーだね」
バランスよさそう。
「ミノリ……さんは片手剣なのか?」
呼び捨てにするか考えて遠慮がちにさん付けでリックが聞いてくる。
「呼び捨てでいいですよ。ぼくは片手剣と投擲です」
できたての防具に差した投げナイフを指さす
「投擲。いないわけじゃないけど珍しいな」
「PvP勢だと時々使ってるのは見るな。中距離からけん制ができる強みがある」
リックとヴァイスが投擲について語り合い始めた。マイナーなんだ……
「じゃあ俺が注意を引いている敵の削りをしたり、遊撃って感じに動いてもらえると助かる」
「わかりました」
「あと、このゲーム味方にも攻撃当たるから、範囲魔法撃つときは下がってね」
クロエがちょっと怖いことを言ってきた。味方の攻撃でやられたい人はいない。
簡単な立ち回りの打ち合わせをしたところで聞いてみることにした。
「今から挑む敵ってどんなのと戦うんですか?」
「インスタンスバトルのボスだ。そいつの落とす素材が武器の材料に使えるからそれを取りに行くんだ」
リックがそう答える。パーティリーダーはリックでいいっぽい。
「入ってすぐボス戦だから楽にしていいよ。罠とかもないし」
ボス戦なのに楽にしろというのも変な話だけど、まあボスだけ気をつけてればいいのかな?
「よし、それじゃあ行くか!」
リックの号令でパーティが街の外、平原の向こうの森に向かう。ぼくにとっては初めてのエリアだけどお姉ちゃんたちは慣れているからか気楽に世間話している。
街道に沿って平原を抜けて森に入ると日光が遮られたかのように温度が少し下がったように感じた。VRなのにそこまで細かいのかと感動しながらついて行くと、お姉ちゃんが声をかけてきた。
「ミィちゃんここ来るの初めて?このゲーム変なところまで細かいよね。あとダンジョン以外にも森の中はモンスターとか、採取できる素材もあるから調合やるならよく来ることになると思うよ」
新素材は気になるし、モンスター素材があればまたヴィーさんに装備を作ってもらうこともできるかな?
そのまま森の小道を進んでくと、いくつかのパーティがたむろしている開けた空間に出た。空中に光の玉のようなものが浮いているのが見える。
「あの光の玉って?」
「あれがインスタンスバトルの開始地点。パーティリーダーがあれに触るとワープしてバトルフィールドにいける仕組みになってるの」
「そうなんだ。じゃああの人たちは休憩したりしてるんだね」
「よし、じゃあ作戦会議しよう。というかミノリへの説明か。ボスはサイクロプスっていう5mぐらいの巨人で、そこまで素早くはないけどデカいなりに強いやつだ。特に前面は危ないから基本的に近づくんじゃないぞ。俺が注意を引くから後ろから攻撃してくれ。シズとクロエは後ろから上半身に攻撃、ヴァイスが脚を狙うからミノリはそこに追撃する作戦で行く。暴れだしたらとにかく距離を取れば殴られることはないはずだから」
街での打ち合わせ通り、遊撃という事でいいらしい。
「わかりました」
「よし。じゃあもう一度装備とアイテムを確認したら行くか」
それぞれチェックを終えて、光の玉の周りに集まる。
「入るぞ」
リックが確認してから光の玉に触れると、システムウィンドウが出てきた。
『サイクロプス討伐戦に参加しますか? [YES] [NO]』
YESを押すと、周囲のほかのプレイヤーが消えて、代わりに正面に何かの動物の死骸を掴んで食べている巨人が現れた。その巨人は食事に夢中でまだ気づいていないらしい。
「よし。俺が最初に注意を引くから、それを合図に戦闘開始だ」
各々が武器を構え、開戦に備える─初のボス戦が始まる。
忙しくてかなり長期間投稿が開いてしまいましたごめんなさい!
それなりのペースで再開していきたいと思いますので気長にお待ちいただければと思います。




