パート14:疲れた英雄の沈黙と監視カメラ
倉庫は忌まわしい場所から、カイトは、個人的な感情の爆発というよりも、この王国の目に見えない社会契約を破った男のパニックとして飛び出していった。私は彼がレジへと向かうのを見た。彼の背中は張り詰め、首筋は硬直し、まるで私よりもさらにきつい目に見えないコルセットが彼を締めつけているかのようだった。彼の頬の赤みはゆっくりと消え去り、その後に疲労の深い影を残した。
ティアラの共鳴と真実の機械
私は、カロリーメイトとカップヌードルの棚の間で、一瞬立ち止まった。この短い孤立の時間を使い、攻城戦の後に要塞を検査するのと同じ緻密さで、内的な検査を行った。パーカーを撫でつけると、私の腰の生地にカイトの手の温もりの痕跡が残っているのを感じた。それは単なる物理的な痕跡だったが、その持続性は私を警戒させた。
私の手は、紅玉のティアラを保管しているポケットへと滑り込んだ。鼓動は落ち着いていたが、消えてはいなかった。それは一定の微細な振動であり、まるで瓶に閉じ込められた昆虫の羽音のように、かろうじて聞こえる音だった。不活性な魔力結晶は、接近によるストレスと価値観の衝突に反応していた。次元の差によって封印されたアストレアの魔法は、東京のルールへの絶え間ない違反によって、ロック解除の兆候を示しているようだった。
私はこの新しい認識を携えて倉庫を後にした。ティアラは、私の解放への道が、衝突と逸脱にあることを示唆していた。
レジのエリアに近づくと、カイトは私に背を向けており、不必要なほどの激しさでタッチパネルの画面を拭いていた。鏡のように反射するモニターに映る彼の横顔は、感情がなく、張り詰めていた。彼は、仮想の銀河を構築できるほどの強力なツールである彼の精神が、ガラス磨きという行為と、アイコンタクトの回避という作業に溺れていることに気づいた。彼は、強制された親密さの記憶を、清掃という名の宗教の下に埋葬しようとしていた。
私の視線は、この王国のより深い理解を求め、天井へと上がった。そこに、戦略的な四隅に設置されているのは監視カメラだった。小さく、暗く、感情のない球体。瞬きをしないガラスの目であった。
— なんと効率的な専制システムかしら —私は、その衝撃を和らげるために、皮肉を込めて呟いた。
アストレアでは、服従は直接的な脅威(剣や魔法)と個人的な監視(スパイや従者)によって達成されていた。しかし、ここでは、規律は文書化の約束によって維持されていた。住民たちは、即座の物理的な罰を恐れてではなく、将来的に匿名の官僚機構によって記録され、アーカイブされ、判断されることを恐れて、完全に正しい行動をとっていたのだ。これらのカメラは、この世界の真の皇帝が政府ではなく、記録と世論であることを証明していた。
この分析は、私に新たな警戒心を与えた。私のあらゆる動きは、何千もの目に見えない目がすべての間違いを記録していることを知りながら、宮廷舞踏会と同じ正確さで実行されなければならない。
湿度のプロトコルと不在の英雄
私は、ポテトチップスとビスケットの袋が積み重ねられた棚へと近づいた。カイトは相変わらず背を向けていた。彼の背中は、無言の防衛線を発していた。
— プログラマー —私は、彼が切望する距離を強調するため、形式的な声で呼びかけた—。 戦術的な矛盾を検出したわ。この地下の店舗の湿度は、製品の食感を維持するには最適ではない。乾燥食品に対する湿気制御のプロトコルは存在しないの?
カイトは、苛立ちと疲労が混じったような、鈍い呻き声を上げた。彼は振り返らず、カウンターを軽く叩いた。
— 環境湿度だよ、公爵令嬢。ここは東京だ。プロトコルはない。俺はただのカイトだ。ここで俺をそう呼んでくれ —彼の声は、無理に単調であった。
私の称号を拒否する彼の態度は、彼の距離コードの再確認であった。彼は、仮想世界を創造するオタクである彼の個人的な生活と、疲れた労働者である彼の専門的な生活を混ぜることを望んでいなかった。この区分けしようとする試みは、倉庫が解放してしまったロマンチックな緊張を封印しようとする彼の必死の努力であった。
私は、言葉による対立は無益だと判断した。今は肉体的な行動の時である。私は清掃ロッカーからモップを取った。金色のペンやフェンシングのサーベルを握ることに慣れた私の指が、冷たいプラスチックの柄を握りしめた。肉体的な屈辱を感じながらも、その単純な作業が、私の心を長期的な戦略のために解放した。
私は、ゆっくりと、系統的な動きで床を拭きながら、カイトを観察した。彼はカウンターに突っ伏し、携帯電話を漫然と操作していた。彼の顔には、疲れた英雄の沈黙が反映されていた。彼はデジタル世界を創造する力を持っているにもかかわらず、現実世界の抑圧的な平凡さに疲弊していた。この疲労こそが彼の弱点であり、私の使命への突破口であった。
シフトの終了が近づき、最後の客が去ると、ティアラの微細な振動は持続していた。それは、私の亡命が、実は私自身の力の触媒であるという絶え間ないリマインダーであった。