本を市場に売りに行く
小作人のローレル青年が屋敷に来てくれて、ずいぶん孤独感が減った。
ローレル青年は毎日、荒れた畑を一生懸命耕してくれている。
本当に真面目で、いいやつだ。
今日は日曜日。空は晴れ渡り、風も心地よい。
俺はリヤカーに屋敷の本を積んで、広場の市場へと向かった。
屋敷の倉庫には古い学術書から娯楽小説、さらには百科事典までそろっている。
これはいい小遣い稼ぎになるかもしれない、そんな期待を胸に並べていると――
「おー、これはいい本だ。あの辞典まであるのか」
声をかけてきたのは、少し細身で理知的な雰囲気の人物。
中性的で、ぱっと見では男女の区別がつかない。
「いらっしゃい。気になるものがあれば、ぜひ手に取って見てください」
「ありがとうございます。ところで、お見かけしないお顔ですが…」
「ああ、そうですね。ずっと病気がちで屋敷にこもっていたんです。町はずれの青い屋根のボロ屋敷に住んでいるクレストです。今は屋敷の不用品を少しずつ処分しているところです」
「ご丁寧にどうも。私はこの町の学校で教鞭を取っている新米教師のアイビーです」
彼(いや、彼女…?)はわくわくとした表情で本を眺めていたが、次の瞬間、大きなため息をついた。
「どうかされました?」
「いや、素晴らしい本ばかりで、しかも安い…それなのに今月から家賃が上がってしまって、余裕がなくて。残念です」
「どれくらい値上がりしたんですか?」
「5Gから7Gです。給料が15Gですから、自由に本を買うのは難しくて」
「それは大変ですね。お部屋の広さは?」
「だいたい10㎡ほどですね」
「それでしたら、うちの屋敷に空き部屋があります。キッチンとトイレは共同になりますが、4Gでお貸しできますよ」
「そんな…本当にいいんですか?」
「ええ。ただひとつお願いがあります。本の相場について教えていただけませんか?今の価格が安すぎる気がして…」
「構いませんよ。実際、市価の半額以下ですから。でも…読みたい本がたくさんあるのに…」
「それならこうしましょう。この本は、屋敷に持ち帰って読んでください。そして読み終わったものから、値段をつけて販売すればいい。あなたは本が自由に読めるし、私は販売の助けになる。どうです?」
アイビーは目を見開き、しばらく黙り込んだ。
「そんな…まるで天国のような話です。本当にありがとうございます!」
「ではこの本たちを屋敷に運びましょう」
「お供します」
「ついでに部屋も見ていってくださいね」
◆ ◆ ◆
荷物を運び終え、屋敷のキッチンでひと息ついていると――
「はぁ~、やっぱりこういう重い荷物を運ぶと、胸が苦しくなりますね…」
そう言いながら、アイビーがさりげなく胸元を押さえた。
……あ。
「あの……もしかして、失礼ですが、アイビー先生って……」
「あ、はい? ああ、よく言われますが……私、女です」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
「この服だと、わかりづらいですよね~」
「いや、全然気づきませんでした……!」
俺はちょっと赤面して、思わず頭をかいた。
「よろしくお願いします、クレストさん。新しい住まい、楽しみです!」
「ええ、こちらこそ」
アイビーの笑顔は、今日一番の快晴だった。




