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勝利の瞬間を狙います

決戦の日が、とうとう訪れた。


空は曇天、重く垂れこめた雲が、この日の重みを象徴しているようだ。冷たい風が吹き抜け、兵士たちは甲冑の隙間を埋めるように身を縮めている。

俺は進軍する隊列の前を歩きながら、心の中で呟いた。


(ここまで来た……絶対に負けられない。)


だが、この勝負には「見えない刃」がすでに振るわれている。


俺はこの日のために、周到に準備をしてきた。

まず攻め込む1週間前、敵国の兵糧を保管していた袋を、それを管理していた指揮官の屋敷の倉庫、大商人の支店、そして大商人の自宅の倉庫にそれぞれ忍ばせた。


そして5日前、敵国の騎士団に密書を送った。

《指揮官と大商人が兵糧を横領している。倉庫を調べれば証拠が出るはずだ》と。


さらに同時に、騎士団内に「不正の噂」を巧妙に流し込む。


結果は狙い通りだった。倉庫を調べると、兵糧の袋はもみ殻にすり替わっており、指揮官と大商人の屋敷からは決定的な証拠が見つかった。

彼らは即座に投獄、国中が揺れ動いた。


さらに追い打ちをかけるように、謎の「不正リスト」を流しておいた。そこには、貴族たちの名がズラリと並んでいる。王宮は疑心暗鬼に陥り、敵国の秩序は、完全に崩れた。


これは俺と、国王、将軍、そして実行部隊だけが知る極秘作戦だった。

味方のほとんどは、この勝負が“普通の戦争”だと信じている。


(……最後の一手が決まれば、勝ちはほぼ確定だ。)


そのころ、敵国の朝。

スパイたちは静かに、兵舎の厨房に忍び込んでいた。命令は単純。

「コショウと“メチャゲリーナ”をすり替えろ」


この作戦が成功すれば、敵軍は戦場にすら立てなくなる――。


突撃前、俺は兵士たちの前に立ち、深く息を吸い込んだ。

緊張と期待、恐怖と覚悟、全てが入り混じった空気が張りつめている。


「いいか、必ず生き残れ。」


声を張り上げると、兵士たちの目が一斉にこちらを向く。


「どんな危機的状況に陥っても、冷静に状況を見ろ。相手の弱点を探せ。混乱の中にこそ必ずある。

そして、徹底的に活用しろ。」


俺は一人ひとりの顔を見渡す。

若い兵士、年老いた兵士、緊張で顔色を失った者もいる。


「もう一度言う。必ず生き残れ。

“国のために死ぬ”なんて思うな。お前たちは国の宝だ。

お前が死ねば国が死ぬ。それくらいの覚悟を持て!」


「イエスサー!」


兵士たちの声が、大地を揺らすように響いた。さっきまでの緊張が、見事に吹き飛んでいる。士気がみなぎっているのが分かった。


将軍が肩を叩きながら笑った。


「まったく……お前はいつも整理整頓で語りやがるな。極端すぎるとは思うが……オレはお前という人間が好きだ。一緒に勝とう。」


「はっ。」


俺たちは、ついに進軍を開始した。


しかし――敵軍は驚くほど無抵抗だった。


進軍してすぐ、味方の内通者が城門を開け、俺たちは難なく街へ侵入できた。

街の中は、異様な光景だった。


あちこちに排泄物が散乱し、重苦しい臭気が立ち込めている。道端には、顔を青ざめさせた兵士たちが蹲っていた。


剣も、鎧も、満足に身に着けていない。いや、着ける余裕がない。全員が腹を押さえ、脂汗を流し、地獄のような形相をしていた。


(……メチャゲリーナ、大成功だな。)


俺は兵士たちに向かって声を張った。


「見てみろ! これが奴らの現状だ。

国も軍も、混乱の極みにある。対して我々は――どうだ?」


背筋を伸ばし、拳を握りしめた。


「全てが整理され、秩序を保っている。この差が、勝敗を決めるんだ!」


兵士たちが歓声を上げる。


街は、ほぼ無傷で我々のものとなった。


……ただ、唯一の問題があった。


あまりに臭い。


思わず俺は、ため息をつきながら呟いた。


「勝ったはいいが……少し臭うな。」


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