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精霊タンの矜持

戦いまであと少し――。

王国の空は、夏の終わりを告げるようにどこか寂しげで、遠くで蝉が最後の力を振り絞るように鳴いている。


俺は、城下町を見下ろす高台のベンチに腰を下ろし、手元の剣の鍔をぼんやりとなぞりながら、ふと声をかけた。


「なあ、精霊タン。なんでさ、お前はそんなに“整理整頓”だけでなんでもできるわけ?」


空気がわずかに揺らぎ、頭の中にいつもの声が響く。


「うーんとね。知識というものはね、何度も何度も咀嚼してようやく、自分の中に吸収されるものなんだ。……これはわかるかな?」


俺は、少し笑って肩をすくめた。


「うーん。わかるような…わからないような…」


精霊タンは、あきれたように笑った気がした。


「たとえば食物でもさ、消化のいいもの、悪いものってあるでしょ。消化の難しい食物なら、よく噛んで、はじめて体内に取り込み、自然と消化される。消化を考えずにどんどん食えば、お腹壊して消化不良になる……知識も同じだよ。」


ふと吹き抜けた風が、砂埃を巻き上げ、街のざわめきが遠くに消えた。

俺は剣を見つめたまま、ゆっくりとうなずいた。


「なるほど。消化の差か……深いな、それ。」


「そうだよ。たとえば剣――これはシンプルな武器だけど、何回も何回も振って、その重さ、その響き、その一挙手一投足を体に染み込ませて初めて“自分のもの”になる。ギターでも楽器でも同じ。使い込んで初めて、わかることがある。」


「たしかに……」

俺は、城壁沿いを歩く兵士たちを眺めながらつぶやいた。

「あいつらも、ただ剣を持ってるだけじゃ意味がないもんな。」


「そういうこと。人はつい、知識は量だって思いがちだけどね。いくら山のように積み上げたところで、それが全部“未消化”なら、ただの飾りさ。逆にね、整理整頓みたいに、一見シンプルな概念でも、それを極限まで掘り下げ、磨き上げれば、きっと世界すら変えられる……僕はそう思う。」


俺はしばし沈黙した。

遠くで市場の鐘が鳴り、夕暮れの影が街路をすべり落ちていく。


「いや~精霊タン……お前、超絶深いな。まるで……日本海溝みたいだよ。」


「はは、まあ僕は悠久の時を経てるからね。整理整頓って単純な概念ひとつ取っても、その奥深さをずっと考えてきた。それが君との差かも……いや、単にヒマだっただけかもしれないけど。」


「そのヒマのおかげで俺は救われてるんだし、感謝してるよ。……つまりまとめると、精霊タンは時間がたくさんあったから、整理整頓を徹底的に考え抜いてきた。剣をひたすら振って鍛錬するのと同じで、思考の“稽古量”が深さに変わったってわけだな。」


「おーすげーじゃん。今の整理……めっちゃ整ってる!」


「へへっ。師匠がいいからな!」


ふたりでクスクス笑うと、遠くの空にひと筋の流れ星が、まるで未来を暗示するように流れていった。

戦いはすぐそこまで迫っている――それでも、今は少しだけ、心が軽かった。


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