不正は草むらのごとし
玉座の間は、深い沈黙に包まれていた。
冬の冷たい風が、隙間からわずかに吹き込み、燭台の炎がかすかに揺れる。
その中心で、王は重くうなだれていた。背筋はまだ凛としていたが、どこかに陰りがある。
王は玉座の影で、苦悶の表情を浮かべた。
「……しかし、なぜこの国には、こうも不正がはびこるのじゃ。
わしの目が節穴だったのか……祖先に顔向けできぬわい……」
その言葉は重く、部屋全体に沈むように響いた。
俺はしばし黙っていたが、決意を固め、静かに前へ出た。
石畳が靴音を吸い、玉座のすぐそばで膝をつく。
王の目をまっすぐに見据えて、ゆっくりと言葉を発した。
「恐れながら――王よ。それは誤りにございます」
王は驚きと戸惑いの入り混じった目で俺を見た。
「なに?どういうことじゃ?」
俺はわずかに顎を動かし、広間の外に視線を向けた。
窓の外、庭園の一角に、手入れの行き届かない草むらがあるのが見える。
「あの草むらが見えますでしょうか」
王は首をひねりつつ、視線をたどる。
「……見えるが、それが何じゃ?」
俺は静かに微笑み、指先をそっと草むらへ向けた。
「あの草むらの中に、何があると思われますか?」
王は少し苛立ったように顔をしかめた。
「そんなもの、わかるわけなかろう。草が茂っておるからじゃ」
俺はうなずいた。
「まさに、それにございます」
王の瞳がわずかに鋭くなった。
「……ふむ、我が国と似ておる、というのか」
「左様にございます。国とは本来、単純で、見渡しやすいものにございます。
しかし年月を経るごとに、制度は複雑化し、法は積み重なり、やがて枝葉は生い茂る。
そうして――誰も、全体を見通せなくなるのです。
それが“草むら”でございます」
王は手にした帳簿を強く握りしめ、苦くうなった。
「不正は……その中に潜むか」
「はい。王も、役人も、民も――
誰の目にも見えぬ場所こそ、不正の温床となるのです。
善意の者すら、見えぬことで判断を誤り、悪意ある者は、見えぬことを利用する」
王の眉間に深い皺が刻まれた。
「では、どうすればよいのじゃ……?」
俺は静かに、確信を持って言った。
「二つにございます。
一つは、制度そのものを“刈り込み”、本来の簡素な形に戻すこと。
そしてもう一つは、“見えるようにする”こと――
つまり、草むらを刈り、地面を露わにするのです」
王はしばらく黙していたが、やがて立ち上がり、窓際まで歩み寄った。
夜風が薄いカーテンを揺らし、外の草むらが月光に照らされる。
「整理整頓とは……草刈りなのか」
その背中は、少しだけ軽くなって見えた。
俺は、深く礼をしてうなずいた。
「はい。秩序とは、風通しの良さから生まれます。
見えぬものを、見えるように。隠されたものを、陽の下に――
それがこの国を強くする道にございます」
王は窓の外を見つめたまま、長く深い息を吐き出した。
「……おぬしの言葉、胸に刻もう。
この国の草むらも、すべて刈り払わねばならんな」
月が静かに輝く夜、二人は無言のまま、風の音に耳を澄ませた。
そこには確かに――新しい未来への決意が芽吹いていた。




