合理化は民を切ることか
会議室の空気は、どこか重苦しかった。
国の財政改革――その柱を担ってきた俺だが、近頃、さまざまな陰口が耳に入るようになっていた。
「やりすぎではないか」「冷酷ではないか」――そんな声が、特に貴族階級からささやかれているのだ。
そんなある日のことだった。
王の使者が、やや緊迫した様子で俺の執務室に現れた。
「クレスト殿、陛下がお呼びです」
予感があった。
ただの呼び出しではない――これは、貴族たちの不満がとうとう王の耳に入ったのだろう。
俺は席を立ち、机の奥から一通の巻紙をそっと取り出した。
これは、以前から密かに調べさせていた“念のための切り札”――不正を働く某侯爵の証拠書類だ。
「……やはり備えておくべきだったな」
独りごち、腰の巻物入れに収める。
*
王の謁見室。
高窓から差し込む陽光が、王の額を静かに照らしていた。
その表情は険しく、帳簿を片手にじっと俺を見つめている。
「……おぬしは“整理整頓”と“合理化”と申しておるがな、国というものは、民を養わねばならん。
この道が、かえって民を苦しめることにはならぬか?」
淡々とした口調だが、背後に緊張感が滲んでいる。
――やはり来たか。だが、俺は動じない。
静かに頭を垂れ、落ち着いて答えた。
「まことに、王のお言葉はもっともにございます。
しかしながら、私の行っている“整理整頓”とは、捨てることではございません。
“場所の再配置”にございます」
王の眉がわずかに上がる。
「再配置……?」
俺は一歩前に出て、視線を王に向けた。
「たとえば――王の寝室に、兵士たちの鎧や槍が無造作に置かれていたら、どうなさいますか?」
「な、なんじゃと。そんな物騒な……夜も眠れぬわい」
王が肩をすくめると、俺は頷く。
「まさにそれでございます。
王の御部屋には、王にふさわしいものだけを。
整理整頓とは、ふさわしい場所に、ふさわしいものを配置すること。
それは人にも物にも当てはまります。
結果として人が別の場所へと“移る”ことはあっても、それは“切り捨て”ではなく“適正配置”でございます」
王は目を伏せ、帳簿に視線を落としたまま口を開く。
「……しかし、おぬし、人員整理をしておるではないか。
貴族どもが強く不満を口にしておるぞ」
ついに本題がきた。
俺は一瞬だけ深呼吸し、あらかじめ用意しておいた巻紙をすっと差し出した。
「その件につきましては、こちらをご覧ください」
王は不審そうに受け取り、巻紙を広げる。
次の瞬間――その顔が、驚愕と怒りに染まった。
「これは、アクドイ家の記録ではないか!
賄賂、帳簿の改ざん、私腹の肥やし……許せぬ、なんと卑しき……!
これは人員整理などではない、家ごと粛清すべき案件だろうが……?」
その問いに、俺は一歩引いて深々と頭を下げた。
「そのご決断は、私が下すべきものではございません。
王のお考えひとつでございます」
謁見室の空気が張り詰める。
王はしばし沈黙した後、険しい表情で頷いた。
「……そうか。ならば、そうしよう。礼を申すぞ」
「はっ。光栄にございます」




