兵站を崩壊させたわけ 兵站を徹底的に調整します。
王宮で補佐官としての初仕事を命じられた俺は、真っ先に「負け戦」の報告書に目を通した。だが、何度読んでも要領を得ない。
(なぜこんな杜撰な内容で納得できるんだ……?)
疑問を抱いた俺は、現場の兵士たちの話を聞くことにした。
◆ ◆ ◆
「水がなかったんです。川まで行く途中で敵の奇襲を受けて、みんな……」
「食糧が3日も届かず、支給品は腐っていました……。仲間が倒れるのを見るのは、きつかった……」
「矢が……!矢が届いていれば、あの丘は奪えたのに!」
兵士たちは一様に、悔しさと怒りを押し殺しながら口を開いた。その中で、最も多くの声が上がったのは――
「補給がまるでダメだった」
だった。
俺はその足で軍の倉庫に向かった。
◆ ◆ ◆
「これは……」
倉庫に足を踏み入れた瞬間、思わず絶句した。箱が無造作に積まれ、ラベルは剥がれかけ、記録簿は机の上で埃をかぶっている。矢も槍も、どこに何がどれだけあるのか、一目ではわからない有様だった。
おまけにネズミまで走り回っている始末。
そこに、倉庫管理責任者の貴族――ゼニゲーバが悠然と現れた。
「おや、クレスト殿。わざわざお疲れさまですな」
「……この惨状、あなたは見て見ぬふりをしてきたのですか?」
「いやいや。現場は混乱するものです。兵站など戦の“裏方”。多少のズレは仕方ないでしょう?」
俺の拳が震えた。
「“多少のズレ”?……いいか、ゼニゲーバ殿」
俺は棚から壊れた水袋を一つ手に取った。
「これ一つのせいで、前線の兵士が喉を乾かし、命を落とす。あなたが“多少のズレ”と呼んだものが、兵士にとっては“死”なんです」
ゼニゲーバはふっと鼻で笑った。
「戦とはそういうものです。犠牲はつきもの――」
「違う!!」
怒声が倉庫に響き渡った。
「なぜそんなに平気な顔ができる。あなたが整理せずムダにしたのは、この物資だけじゃない。何百もの兵士たちの命をムダにしたんだぞ!」
俺は倉庫の天井を見上げ、深く息を吐いた。
「整理整頓というのは、ただの雑用じゃない。“命をつなぐ”大事な鎖なんだ」
ゼニゲーバはしばらく黙っていたが、やがて不機嫌そうにそっぽを向いた。
「……好きにするがいい。どうせ陛下があなたを信用しているのだろう?」
「はい。好きにさせてもらいます」
俺はその場で命じた。
「倉庫内の物資はすべてリストを作り、配置を見直す。記録簿は正確に付け直し、誰でも一目で在庫がわかるように“可視化”すること。すぐに取り掛かれ!」
「……っ、了解……」
◆ ◆ ◆
後日。兵士たちの間でこんな噂が広がった。
「あの補佐官、倉庫を丸ごとひっくり返したらしいぞ」
「いや、すげぇんだ。あの貴族相手に啖呵切ったんだからな」
「あの人が……“補給”してくれるなら、安心して戦える気がする」
俺は空を見上げ、小さくつぶやく。
「精霊タン、次は兵士たちの心を支える番だな」
「うん、君ならできる。整理整頓は、まだまだ続くんだから」
そして、兵站は確実に整い、戦場の命の鎖はつながり始めたのだった。




