27話〜救出〜
「なるほど……禁書の完全解除魔法……」
とりあえず俺はユエ王子に全てを話した。4人が石になってしまったこと、禁書を発動するには最低3人は必要なこと……
「……わかった、俺も協力しよう。ツキを失うのは避けたい……し、俺は君たちに協力すると言ったからな。」
よかった、思ったよりすんなり受け入れてくれた。あとはデスティニさんと合流して……
「……エメラルドは、どうする?」
ユエ王子が、部屋の隅のタンスに置かれている緑に輝く宝石に語りかける。そうだ、エド。たとえ皆を助けられたとしても、宝石が全て揃わなければ目標は達成できない。エドも一緒に、説得しないと。
「……キミにとって、ここは敵地なんでしょ?なんでわざわざここまで来たの?そんなに王子の責務が大事?」
エドは人間の姿に戻り、今までの天真爛漫さがなかったかのように真剣に語りかけてくる。答えを間違えてはいけない。でも、ここは正直に答えるしかなかった。
「……もちろん、王子としての責任もある。国を取り戻すために、エドたちを探しているんだから。……でも、俺はそれ以上に、ホシたちを……仲間を失うのが、怖い。」
「……」
エドは、表情を変えずにこちらを見つめ続ける。エドがなにを思ってこの質問をしているのかは、わからない。いつものように『面白いから』かもしれないし、大きな意味はないかもしれない。でも、これがもし、エドの『大切な人』に繋がっているのなら。
「……いなくなっちゃうかもしれないのに。負けが濃厚の国で頑張っても、大切な人はいなくなっちゃうかもしれないのに。」
「……それは、エドの体験談なのか?」
エドは俺たちに、『戦争は、強いところにいた方が大切な人を守れる』と言った。そう断定するということは、そういう経験があったということなのだろう。
「……どうだろうね、ボクに大切な人なんか、いたことないから。」
これも、俺たちに言った言葉だ。しかし、それが本当の言葉なのかはわからない。
「失うかもしれないと止まってるくらいなら、動く。失ったら、今回みたく取り戻す。まだ、ホシたちは……俺だって、諦めてない。」
『諦めないで』
ホシの言葉が、俺の中で何度も再生される。確かにアステール国はボロボロで、俺が死ねば負けの最悪な状態。でも、それでも、仲間と一緒なら。
「……いいよ、キミの勇気に免じて、キミたちに協力してあげる。……大切な人を失うのは、嫌だからね。」
「……エド……」
「あとね、本当はボク、自分の名前覚えてるんだ。大切な人が何度も呼んでくれた、愛おしい名前だから。……だからボクは、まだ生きてる。あの人以外を愛することは、できないから。」
7つの宝石が不老不死から解放されるには、子どもを産むしかない。つまりエドの『大切な人』は、子どもを授かる前に戦争により亡くなった……のだろう。
「よし、じゃあこのローブを被って。強い認識阻害魔法がかかってるからセキュリティにも引っかからないよ。」
「ありがとう」
そのまま部屋を出て、デスティニさんと合流しようとした。
その時。
「……ユエ。」
「「!!?」」
ガチャリと、ノックも無しに扉が開く。まだフードを被れていない。つまり認識阻害魔法は、まだ発動していない。まずい。俺の姿を、誰かに見られたら……
「……姉上……!?」
そこにいたのは、ルシーン国第一王女、ルア。まさか、今の話を聞かれていたのか。
「……ノックもなしに、ごめんなさい。でも、どうしても言いたくて。」
そのまま俺に視線を向け、まっすぐ俺の前に立つ。
「……やっぱり私は、グラマー族のこと、許せない。でも、ツキを失うのは……嫌なの。だから、ユエがあなたに協力していることも、今回のことも私は見なかったことにする。……でも、私はグラマー族を許してない。」
「……」
やはりこれが、現実か。根本から解決しないと、アステール国を戻してもまた戦争が始まる。そしてやはり、負けるのは王が不在のアステール国だ。俺はまだ王子で、王には未熟すぎる。
「……それだけ。でもユエ、あなたと気まずくなるのも嫌なの。だからこのことは、忘れて。」
そう言い残し、扉が静かに閉められる。
「……行こう。姉上は嘘をつく人じゃない。俺たちの関係に、大きな変化は起きないと思うよ。」
「……ああ、」
そうして俺たちはユエ王子の部屋を後にし、デスティニさんと合流した。
「ヨル王子!ユエ王子も……!それに……その子はエメラルドか?」
「そーだよー!君たちの冒険は楽しそうだから、ついていくことにしたー!」
エドはいつもの天真爛漫な調子に戻っていた。きっとこの先、エドの本当の名前を俺たちが知ることはないだろう。だってその名前は、何百年経っても一途に愛する人が、大切にしていたものだろうから。
「とりあえず行こうか。ツキたちがいる座標はわかる?」
「ああ、正確にはわからないけど、大体このあたりだ。ここまで行けば徒歩で進める。」
「わかった。じゃあいくよ。」
ユエ王子が複雑な魔法陣が描かれた紙を地面に置く。アステール国の王宮にもあった、地球さえも超えられる高等魔法陣だ。お値段はとんでもなく、王族しか目にすることはない代物。
「ブルハ・ラール・ユエ!!」
地球への道を通るような、不思議な浮遊感に包まれた。
エドと出会い、食事をしたあたりにワープした。焚き火の跡が残り、自然に還したウサギと鳥の骨にはハエが群がっている。
「えっと……確かこっちに向かい、ジェイルと会いました。」
そして確かこのあたりで……
「……いた……」
石化して灰色となった、ホシたち。姿勢はあの時から変わっておらず、ホシは庇うように両手を広げている。
「……よし、禁書はこれだ。ユエ王子も、いいか?」
「うん。いいよ。」
「は〜、魔法使うのなんて何年ぶりだ?緊張するな……」
デスティニさんが深呼吸をするのを待ち、3人で円になる。まあ確かに、はたから見たら凄いメンツだもんな。これ。他国の王子二人と、一般人一人。緊張するのも無理はない。俺だって、この魔法が成功するのかドキドキしているのに。
「「「ブルハ・ラール」」」
「ヨル」「ユエ」「デスティニ」
パアッとあたりが輝き、視界が真っ白になる。それと同時に、魔力が体の底から抜けていく感覚。
「ヨル王子!もう少し魔力を抑えて!こっちまで魔力が逆流してる!!」
ユエ王子の声にハッと少し意識が戻る。このままでは暴走して二人まで巻き込んでしまう。なんとか魔力を抑え、やり過ごす。複数人で魔法を使う時は、基本的に一番魔力が低いものに合わせる。つまりこの中ではデスティニさんだ。魔力が高い方が難しいという、難儀な魔法なのだ。複数人で使う魔法というのは。
「たぶんもう少しだ!頑張れ!!」
デスティニさんの声が響く。俺はもう魔力を抑えるのに精一杯だ。
「ストップ!!色が戻って来てる!!」
複数人の魔法は終わらせるのも難しい。急に一人がやめてしまうと調和が崩れてしまうので、合わせながらだんだんと魔力を収束させていかなければならない。本当に、最後まで気が抜けない。
光もだんだん収まってきて、あたりが見えるようになってくる。こんなに発光していたのに、なぜユエ王子は色が戻ってきていることに気付いたのか。
☆☆☆☆☆☆
「……戻っ……た……?」
鼻をくすぐる森の匂い。匂いなんてまるで感じなかった精神世界とは大違いだ。しかし状況を理解する前に襲ってきた、何かが体の中を暴れ回る感覚。……魔力だ。記憶を教えられたのが精神世界だったから何も起きなかっただけで、精神世界の記憶を持って現実世界に来たから。
「わ、わ、え?」
炎、水、雷、闇……色々な属性が私の周りを漂っている。私は魔法なんて使おうとしてない。まさかこれが……魔法暴走……!?
「ホシ!これ!」
ヨルから手渡された『何か』に魔力が吸収されていく感覚がある。やっと魔力が収まったと思って手のひらの物を見ると、
「……御守り……?」
高価そうな石で繊細に装飾された、御守りのような形をした物だった。
「ああ。俺が持ってた魔法制御アイテム。持ってるだけで効果があるから、持っておいた方がいい。」
「あ、ありがとう。」
ああ、でも、本当に戻って来れたんだ。私。
「ツキ!無事かい?」
「お兄様!……お兄様も、協力してくれたの?」
「うん。ヨル王子がルシーン国の城まで乗り込んで来たからね。」
敵国の城まで行ったの……!?なんかヨルもヨルで、大冒険してきたんだな……
「あれ?そういえばこの御守り、貰っちゃって大丈夫なの?ヨルの魔力を抑える物じゃ……」
「……この旅で色々特訓したおかげか、多少は自分の力で制御できるようになったんだ。それに、本命は髪の方にかかってるしな。それより、どうして急に暴走を?」
「あ、それは……」
私はヨルに全てを話した。自分が『魔力の高い子ども』だったことや、記憶や祠のことなど……
「なるほど……でもセイによるともうその魔力を制御できるだけの力は備わっているんだろう?じゃあもう練習と慣れあるのみだな。制御のコツなら俺が教えられる。」
「……よ、よろしくお願いします……」
また勉強だ……まあ、これに関しては自分の命にも関わるのでやらないわけにはいかない……
「じゃあ、俺の家にサファイアとオパールも待ってるし一回戻るか。ユエ王子はどうします?」
「……そうだな、城に俺がいないことがバレるとまずいし、もう国に戻るよ。」
ユエ様はツキの方を向き、軽く頭を撫でる。ツキは「もう子どもじゃないんだから」と少し不満そうだったけど、嬉しそうだった。
「じゃあ。俺は君たちに協力を惜しまないから、何かあったら遠慮なく言ってくれ。」
そう言い残し、ユエ様はワープ魔法で自分の国へと帰って行った。
「よーし!じゃあ戻ろー!」
「うわっ!エド!!」
急に出てきたエドに思わず驚いてしまった。だってエドは、ルシーン国に行ってしまったはずじゃ……?
「まあ、色々あってエドもこっちに協力してくれることになった。」
「そ、そうなんだ……」
私たちが石になっている間にヨルは結構色んなことを成してくれたらしい。
「……と、戻るとは言ったが、サファイアやオパールはワープ魔法に応えてくれるのか?魔力はないようだけど……」
デスティニさんのところに置いてあるワープ魔法は転移位置に応えてくれる人がいることが条件だ。しかしそれは、魔力がない人にも適応されるのか……?
「まーやってみるか。ブルハ・ラール・デスティニ。サファイア。」
…………。
何も起きない。失敗のようだ。
「もしかして本当の名前じゃないと反応しないのでは?……ブルハ・ラール・セイ。ルシファー。」
パアッと地面に魔法陣が描かれる。どうやらこれは成功したようだ。急いで魔法陣の中に入り、浮遊感に備える。
「戻ったか。」
気づくと、見知ったデスティニさんの家。目の前にはルシファー様と、後ろで不安そうにウロウロしていたクリス。
「ありがとうございます。ルシファー様。無事、ホシたちを取り戻せました。」
ヨルの言葉に、ルシファー様は何も言わずに微笑む。ああ、なんだか……帰って来たって感じがするなぁ……
「で、でも、次の目的地はどうするんだ?宝石の気配、もうしないけど。」
クリスくんが恐る恐るといった様子で発言する。
「だったら学校に行けばいいよ!そこに宝石たちもいっぱいいたよ!」
エドがいつもの天真爛漫な様子で両手を広げ、こちらに語りかける。
「……昔、エドが通ってたっていう学校?本当に宝石いるの?」
キラが少し疑い深い様子でエドに聞き返すが、エドは変わらず笑顔で続けた。
「そう!結界が張ってあって、魔力がない人には見えない都市なんだよー!でも不思議なことに魔力のないボクにも見えたから、宝石は別なんだろうねー。結界があるから、宝石の気配も途絶えてるんだと思う!」
つまり、今地球にもう宝石の気配がないということは、残りの4つは全てその学校に……?
「まあ宝石はいっぱいいるんだけど、同じところに宝石が密集しすぎてこの人だ!って感じられないんだよねー。『この辺だと思うけど誰だろー』って状態?」
あー、それはつまり学校にいってもまた一人一人探さなきゃいけない感じか……
「ん〜……いや、とりあえずもう寝よ!疲れた!」
キラが適当に話を切り、休息が訪れる。ああ、なんか今日は本当に疲れたし、ベッドに入ったら秒で寝そう。
「よし、じゃあこの話は明日だ!今日はゆっくり寝ろ!風呂も沸かしてやるから待ってろよ!」
「じゃあ僕たちは先にベッドを出しちゃいましょうか。こっちに折りたたみがありますので、組み立てましょう。」
セイと一緒にベッドを組み立て、風呂に入り、ベッドに入る。はあ……生き返る……ネクも私のお腹辺りにやってきて、丸まっている。
「……耳、切れちゃったね。」
ネクの左耳を優しく撫でる。あの時、私を守ってくれたときにできた傷だ。
「別に聴覚に問題はない。こんなもので済むなら、安いものだ。」
プイッとそっぽを向き、また丸まってしまった。……私も、強くなりたい。ネクにこんな怪我をさせないように。守られるだけじゃないように。
次の舞台は、学校だ。




