第15話『〈空小隊〉の挑戦』
前回、第1部のブックマークが久々に増えていることに気がついたので、この場をお借りしまして、ありがとうございます!
それでは本編どうぞ。
〈空小隊〉は、概ね順調に探索を進めていた。
情報通りの、上向きに、つまり上層に続く階段を見つけ、徐々にペースをあげていった。
そうして彼らは、1時間足らずで既に第4階層まで登りつめていた。柚葉が予測にあげた、1番低い最高階層である。
ただ、彼らにとって、一つだけ誤算があった。
それはとても単純なことだった。
「ガーゴイルが、こんなに多いなんて、聞いてないわ、よっ!」
「そりゃそうだろ、おっ!」
「『めっちゃ湧くから気をつけろよ』としか聞いたことないもんね__〈水散弾〉!」
ガーゴイルの攻撃を空が躱し、勢いがついて止まれないガーゴイルに、陸が強烈な打撃を加える。
吹き飛ばされたガーゴイルは、背後から来ていた仲間たちを巻き込み、まるでボーリングのピンのように跳ね飛んだ。
そして密集した状態で隙だらけになった彼らを、海の魔術が容赦なく貫いていく。
「ふぅ、しんどいわね」
「愚痴ってる暇はないよ。先を急ごう」
「わかってるわよ」
窘めるような海の口調に、空は不満げに唇を尖らせながらも、指示に従う。間違ったことは言っていない、むしろ正しいことを言っているのだから。
海が先程言ったように、確かに〈空小隊〉は、遺跡について若干の知識を得ていた。
将真たちが、まだ学生による遺跡探索が試験段階であった時に行っているという話を聞いたからだ。
その時に、具体的な数は聞けなかったが、とにかくすごい数だという話だけは聞いていた。
確かにこれは、具体的な数の示し用がない。
どこかにガーゴイルが湧くシステムがあって、それさえ止めれば全滅させるだけで事足りるのだろうが__現状は、終わりの見えない戦いであった。
無限に湧き続けるのである。もう既に、100以上は倒しているが、そこからは数えるのも面倒になって数えていない。
だが、同時に今は、奇跡的な余裕が生まれていた。
ガーゴイルの数が減っているのだ。
普通なら、倒したそばから新しいガーゴイルが襲ってくる、の繰り返しでそれこそ、とても終わりの見える戦いではない。
それが今回は、3人の実力と、それぞれが広範囲に効果的な魔術が使えるので、その魔術を何度も使っていれば、次のガーゴイルが産まれる前には、少なからずの隙ができるわけである。
とはいえ、数十メートルも駆け抜ければ、流石に再び、ガーゴイルが大群で押し寄せてくるのだが。
何せ、下からも上からも、そして現階層の壁や地面、天井からも湧いてくるのだから、本当に際限がない。
空が得意とする〈クリティカル・レイ〉も、集団戦闘ではあまり役に立たない。せいぜいが、少し強い魔術程度のものまで落ちぶれるのが目に見えていた。
「そろそろ、上の階層に行きたいわね!」
「そうだね、こいつらをあと1回蹴散らしたら、行けないかな?」
「階段が見えれば、そろそろだろうぜぇ!」
などと、会話をしながらガーゴイルを次々打ち倒していくと、ついに5階層へと続く階段を視界に捉えた。
『あった!』
「よし、それじゃあ少し飛ばすわよ!」
「おいおい、温存しなくていいのかよ?」
「まあいいかな。少しくらいは問題ないよ」
海はそう言うと、飛び出した空のあとを追いかけていく。珍しく及び腰だった陸は、頭をブンブンと振るい、両頬を手で叩くと、気合の入った表情でそのあとを追いかける。
「〈ウインド・スピア〉!」
「〈ガイアランス〉!」
「〈水散弾〉!」
範囲の広い攻撃的な魔術で、ガーゴイルの群れを蹴散らしながら駆け抜け、そして階段へと足をかける。
階段でも変わらず、ガーゴイルは出現したが、それも構わず、〈空小隊〉は進み続ける。
そして、ガーゴイルの数を見て行けると思った空が、ポーチから瓶をひとつ取り出して蓋を開ける。
保持しておいた、〈クリティカル・レイ〉1つ目である。
「行っくわよー!」
狙いを定めて、空は光の球を投げ飛ばした。
光の球は、狙い通りにガーゴイルたちの頭や心臓を撃ち抜いて落としていく。
階段に湧いていたガーゴイルの数は、そこまで多くはなかった。最後に、〈クリティカル・レイ〉が弾け飛ぶと、周囲のガーゴイルを巻き込み撃退。
油断はできず、階段も駆け上がらなければ行けないくらい余裕はなかったが、それでも階段を登る間においては、再びガーゴイルとの戦闘になることはなかった。
そして、ついに〈空小隊〉は、5階層へと辿り着く。
「よし、到着!」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「はっ、何でも来いってんだ!」
3人は、その部屋の様子をしっかりと観察し始める。普通ならそんな余裕はないのだが、周囲に敵対反応も感じない以上、状況の確認が優先であった。
この5階層は、下の階層とは違い、少し広めのドームのようになっていた。
そして、床から天井へと伸びる、いくつもの石柱は、まるでこの部屋を支える骨組みのようでもあった。
壁もよく見ると、今までのような洞窟じみた様子ではなく、神殿のような荘厳な建物の中のようでもあった。そして部屋の薄暗さが、不気味さも醸し出していた。
さらに、3人は遅まきながら、部屋の中央に立つ人影に気がつく。
その見た目は、紛れもなく少女のものだったが、それ故にこの場所とは明らかに場違いで、将真たちから話を聞いていた空たちはその招待に即座に気がつくことが出来た。
「こいつが……」
「5階層以降へと続く遺跡の門番」
「〈脳〉ね」
「__ようこそ、勇敢な魔導師たち。この先を通りたくば、私を倒していきなさい」
言われるまでもない。
空たちは、すぐに臨戦態勢に入る。さらに空は、ポーチの中から瓶を3つほど取り出して蓋を開けた。
(ここで〈脳〉が出るってことは、聞いてる通りならまだ上がある)
つまり、ここで残り全ての〈クリティカル・レイ〉を使い切ってしまうというのは、明らかに愚行だ。
だが、〈脳〉がそう容易く破れる相手とは思えない。
だから、消費を3個までに抑えるという、空の決意の表れでもあった。
そして、戦闘を開始しようとしたところで、空たちの出鼻をくじくように、背後からガーゴイルの群れがなだれ込んできた。
「……海。足止め頼める?」
「うーん……、あまり長時間は無理だけど、やれるだけやってみるよ」
「お願い。陸は私と、あいつを追い込むわよ!」
「出来ることなら、倒しちゃいたいんだがな!」
言うが早いか、ガーゴイルの群れを海に任せて、空と陸は〈脳〉に向かって飛び出す。
するとようやく、戦闘の意思を見せた〈脳〉は、その両手を地面に付ける。
直後、2人の足元の地面だけが隆起し、まるで蛇のように、それも高速でのたうち回るように動き回る。
その場に磔になってしまった2人は、そのまま壁と隆起した地面に、勢い良く挟まれる結果となった。
「ぐぇっ!」
「ごふっ!」
その衝撃に呻き声をあげながら、陸は〈脳〉を睨めつけるような目で見ていた。
(この魔術、俺の〈アースランス〉に酷似してやがる。先端が尖ってないところを見ると、刺突攻撃じゃなく、打撃攻撃か!)
幸い、この程度の力で叩きつけられて戦闘不能になるほどやわではない。
再び2人に襲い来る石柱に、陸はすぐさま反撃する。
「__〈アースランス〉!」
陸の手によって隆起した、突起のある石柱は、襲い来る石柱の面に直撃し、それを貫いた。
それだけにとどまらず、陸の攻撃は〈脳〉に襲いかかる。
「ふっ!」
〈脳〉は再び両手を地面につけると、今度は地面が隆起して、壁を生み出した。
薄く脆い壁ならまだしも、遺跡の地肌は相当頑丈であり、物理攻撃では容易く壊せない。
陸の攻撃は、残念ながらその壁に阻まれて砕け散った。
だが、もちろん陸の魔術も決して弱くはない。
今の一撃で、壁にはいくつか脆い部分が発生していた。
それに気がついた陸が、空の方を振り向いて叫ぶ。
「今だ、空!」
「……そういう事ね!」
陸の意図に気がついた空は、取り出していた3つの〈クリティカル・レイ〉のうち、ひとつを掴んで投げ飛ばす。
そしてそれは、狙い通りに脆弱部に直撃し、容易く貫通した。更に、〈クリティカル・レイ〉は追い打ちをかけるように、壁の向こう側__〈脳〉がいるであろうところで炸裂する。
「よしっ!」
「決まった!」
「決まってないよ、油断しない!」
ガッツポーズを握る2人の背後で、ガーゴイルを足止めしながら海が警告を叫ぶ。
その直後、天井から幾つもの石柱が飛び出してきた。ただし、先程とは違って鋭利な先端は、間違いなく殺意を持った一撃であるのだと理解せざるを得ない。
「やばっ」
「うげっ……!」
自分たちに向かってくる攻撃に対して危機感を覚えながらも、2人はすぐさま全力回避。
攻撃は、2人に当たらず地面へと突き刺さったが、その余波で2人はたたらを踏んでよろめいた。
「あっぶなー……」
「ガーゴイルも増えてきてる。そろそろ抑えるのもきついかな」
「……なら、〈脳〉だけでも隔離するか?」
「出来るの?」
「まあ、俺達も巻き添えになるけどな__〈アースウォール〉!」
バンッ、と地面に両手をつけると、後退してきた海と、その海を追うガーゴイルの群れとの間に、壁が生まれてガーゴイルの進軍を阻んだ。
それだけではなく、〈脳〉の背後からも、そして左右からも。〈脳〉と〈空小隊〉を囲むように出現した壁は、徐々に丸みを帯びて閉じていく。
結果、ホールのような空間の中に、〈脳〉を閉じ込めることに成功した。〈空小隊〉も共に、ではあるが。
「なるほど、そういうことか……。でもこれなら」
「相手は一体! 確かにあいつ強いけど、邪魔が入らなければ、十分行ける!」
言うが早いか、空はその場から駆け出した。
風属性の使い手は動き出しが早い、などという噂があるくらいだから、流石と思いながらも、陸は空の後を追い、海はその場で〈水散弾〉の準備を始めていた。
そして勿論、空も闇雲に突っ込んでいった訳では無い。
〈脳〉の魔術により、襲い来る石柱。
それを空は、紙一重で避けていた。
近接戦闘に秀でている訳では無い空だが、目に見える攻撃においては、相当な回避能力を持っている。〈クリティカル・レイ〉を強力な魔術たらしめる、彼女の正確無比な見切りの副産物である。
空の接近から逃げようとする〈脳〉だったが、その背後に幾つもの石柱が現れて、逃げ道が絶たれるだけでなく、攻撃を受ける事となっていた。
これは勿論、陸の仕業だ。
「逃がすかよ!」
「ナイス、陸!」
海が賞賛を口にすると、同時に彼は、〈水散弾〉を放っていた。
動きを制限された〈脳〉は、これを回避出来ずに、まともに受ける羽目になった。
やはり体を貫かれても、血の一滴すら散ることがないのは、擬似生命体であるがゆえなのだろうが、僅かに拭いきれない不安を振り切って、空は〈脳〉の懐へと潜り込む。
その手には、光の球が掴まれていた。
「この至近距離なら、敢えて狙うまでもなく当たるわ。喰らいなさい!」
空は叫ぶと、狙い違わず〈脳〉の心臓付近に魔術を叩き込む。
それを確認すると、その後に来るであろう被害にそなえて、少し離れて待機した。
するとやがて、〈脳〉の体がひび割れ、その隙間から光が漏れだし__爆発四散した。
〈脳〉が消滅する際、
「__プロセスの達成を確認。奥への道が開きました」
という、無機質な声を聞き取ると、3人は少しの間、ほうけて突っ立っていた。
そして、発動していた魔術が溶けて、ガーゴイルもいなくなった静かな部屋で、ようやく現実に意識が追いつき、
『かっ……、勝ったぁぁぁ……』
3人は盛大なため息をついて、ホッとしてたように、情けなく地面に座り込んだ。




