今日から僕は 7
「はあ、とんでもねえ奴らに捕まっちまったのう」
出て行ったアイシャ達の足音が聞こえなくなると、明石は持っていた野球雑誌を投げ出してばつが悪そうにそう言いながら頭をかいた。
「そんなに悪い人たちには見えませんけど……」
とりあえず誠はそう言ってみた。明石は誠の顔をまじまじと見た後、そのまま腰掛けていた自分の机から降りてさらにもう一度誠の顔を覗き込んだ。
「あのなあ、お前、明日幹部候補の時の同期の連中に電話してみいや。ワシにカマ掘られたやろ言われてからかわれるのが落ちじゃ。あの三人組のおかげでワシはすっかり変態扱いされとる。まあそんなこと気にしとったら次の部屋には入れんがのう」
そういうと明石はそう言うと気が向かないとでも言うように伸びをしながら部屋を出た。誠がついてくるのを確認してドアを閉める。そして天を向いてため息をつき、そのまま暗い廊下を歩き始めた。
初夏らしい粘りのある暑さが二人を包む。そんな状況で上官に明らかにやる気の無い態度を取られて誠は戸惑っていた。
「次は……あそこは気が進まんのう」
明石はそういうと電算室と書かれた頑丈そうなセキュリティ付きのドアの前で立ち止まる。
これまでの防犯上はいかがなものかと思いたくもなる安っぽい扉とは違い、重厚な銀色の扉が誠の目の前にあった。これまでの部屋とは構えからして明らかに違った。
「ここの端末を使うわけですか……」
明石に声をかけるが、彼はただ呆然と銀色の扉を見つめるだけで答えようとはしなかった。
「そだよ」
いきなりセキュリティのスピーカーから聞こえてきたのはトウモロコシ畑で会った吉田の声だった。思わず誠は飛びのいていた。その様子を予想していたとでも言うように明石は含み笑いを漏らす。
「おい、新入り。どうだったはじめてケツの……」
こちらの行動をすべて把握してでもいるように、吉田の声がモニターから響く。誠が周りを見渡すと、天井から釣り下がっているいくつかのカメラを見つけることが出来た。おそらくはその画像で二人のやり取りを確認していたに違いなかった。
「下らんこと聞きとうないわ。それよりはよう部屋を開けんか!デクニンギョウ!」
明石が語気を荒げる。気の弱い誠はびくりと震えてその様子を見守っていた。
「そうだなあ、じゃあ『オープンセサミ』って言ってみ」
間の抜けた調子でセキュリティーシステムのスピーカーからの吉田の声が響いている。誠が心配をして明石の顔を見れば、明らかに怒りを押し殺していると言うような表情がそこにあった。
「アホか、そんなことに付き合ってられるか」
そう言う明石の言葉が震えている。こう言う親分肌の人間が怒りの限界を超えるとろくなことにならない。そう言う自己防衛本能には優れている誠が明石の肩に手をかけようとするが、さらにスピーカーからはせせら笑うような吉田の言葉が続いた。
「タコ……開けてほしくないわけ?そこは俺の管轄だ。何ならアイシャが前に書いたお前が鬼畜と化して次々とうちの整備員襲う小説、全銀河に配信してやっても良いんだぜ?」
これはかなりまずいことになった、そう思った誠だが、逆にここまであからさまに馬鹿にされた明石は冷静さを持ち直すことに成功していた。
「わかった『オープンセサミ』!」
明石が叫んだ。何も起こらない。
ここでスピーカーから吉田のせせら笑いでも聞こえたならば、明石の右ストレートがセキュリティーパネルに炸裂することになるだろう。はらはらしながら誠は状況を見ているが、吉田は何を言うわけでもなかった。
「糞人形!なにも起こらんぞ!」
痺れを切らしたのは明石だった。そう言うと明石は頑丈そうな銀の扉を叩き始めた。
「ああそこあいてるぞ、ちゃんと気を利かせといたからな」
せせら笑うよりたちの悪い言葉がスピーカーから流れてきて誠は冷や汗を書いた。明石は顔をゆがませてこの場にいない吉田のことを殴りつけるようにドアを叩いた。
「ならなぜはじめからそう言わん!」
沈黙が薄暗い廊下に滞留する。明石はそのまま遅い吉田の答えを待っていた。ようやく冷静さを取り戻して、ずれたサングラスをかけなおすくらいの余裕は明石にも出来ていた。
「開いてるかどうか聞かなかったオメエが悪いよなあ。新入り君。お前さんの情報を登録するからセキュリティの端末に手をかざしな」
冷静さは取り戻したものの、吉田にこけにされたことの怒りで顔を赤くして震えている明石を置いて誠はセキュリティの黒い端末に手をかざした。
「OK、じゃあごゆっくり」
ゆっくりと電算室のドアが開いた。ひんやりとした空調の聞いたコンピュータルームの風が心地よい。
「あの人形。いつか潰したる!」
冗談なのか本気なのかわからないような言葉を吐き捨てて、誠を導くようにして明石は中を覗き込んだ。




