今日から僕は 148
「隊長でも許大佐にはかなわないんですね」
残された誠はカウラに向かって微笑みかける。
「そうだな。技術部の面々には逆らわない方がいい。アサルト・モジュール乗りなら当然のことだろ?まあ愛機と一緒にスクラップにされたいなら別だが」
カウラはそう言って笑いかけた。
こんな素敵な笑顔も出来るんだ。
誠はその笑みに答えるようにして立ち上がる。
「病人でも無い者が医務室に居るのは感心しないよ。さっさと出てきな!」
そんな光景を目の当たりにして居心地の悪さを感じたのか、ドムは苦々しげにそう言った。
「それではドクター失礼します」
「おうおう!出てけ、出てけ!」
二人は医務室を出て食堂へつながる廊下を歩く。
技術部員がコンロやテーブルを持って走る。警備部員がビールや焼酎を台車に乗せて行きかう。
「何でこんな用意が良いんですか?」
次々と出てくる宴会用品に呆れながら誠がカウラに尋ねた。
「いいんじゃないのか?たまに楽しむのも」
カウラは笑顔を保ったままで、脇をすり抜ける技術部員の不思議そうな視線を見送っていた。
「そう言えば機関班の人は見ないのですが、何ででしょう」
「ああ、あいつ等か?以前、許大佐の逆鱗に触れてな。今でも大佐の前での飲酒は禁止されている。さらに班長の槍田曹長はこういう時は逆さ磔にされる決まりになってる」
「はあ、そうなんですか」
今日は理性を保って脱ぐのはやめよう。そう心に深く誓う誠。
「土鍋、あるだけ持ってこい!そこ!しゃべってる暇あったらテーブル運ぶの手伝え!」
エレベータの所では島田が部下達を指揮していた。
「島田先輩!」
「おう、ちょっと待てよ。とりあえず設営やってるところだから。そこの自販機でジュースでも買ってろ!俺は奢らないがな!」
そう言ってまた作業に戻る島田。
「そうだな、誠。少し休んでいくか?」
カウラが自分の名前の方を呼んでくれた。少しばかりその言葉が頭の中を回転する。
「どうした?」
不思議そうに見つめるカウラ。
「そうですね。ははは、とりあえず座りましょう」
そう言うと頭をかきながら誠はソファーに腰掛けた。
「何を飲む?コーラで良いか?」
「炭酸苦手なんで、コーヒー。出来ればブラックで」
カウラは自分のカードを取り出すとコーヒーを選んだ。ガタガタと音を立てて落ちるコーヒー。
「熱いぞ、気をつけろ」
そう言うとカウラは缶コーヒーを誠に手渡した。




