今日から僕は 131
胡州外惑星系演習場の近辺の海図がモニターに表示される。
笹に竜胆の家紋の艦は保安隊運用艦、重巡洋艦『高雄』。
その進路の先にXマークが見える。
「わかると思うが現在、我々は笹に竜胆のマークのところにある。Xマーク地点に到着次第作戦開始だ。そしてそこから距離五万八千のところが目的地の演習用コロニーだ」
カウラはそう言うとコロニーの印にマークを入れた。
「現在、確認されている戦力は加古級重巡洋艦『那珂』を旗艦とする第六艦隊分岐部隊。『那珂』の他、駆逐艦三、揚陸艦八だ。状況としては近藤シンパが五時間前にすべての艦およびコロニー管理部隊を完全制圧。同調しなかった将兵は旗艦『那珂』に幽閉されている」
「人間の盾かよ。しゃらくせえまねしやがんなあ」
フラスコを傾けながら口を挟む要を無視してカウラは続けた。
「敵機動兵器の主力は火龍54機、疾風13機。それに密輸用と思われるM1が69機だが、パイロットには近藤シンパが少なく、稼動数は30機前後と予想される」
「まあな。海軍は元々大河内公爵の地盤だ。それにパイロットには赤松の旦那の信奉者が多いからな。明らかな命令違反行為に付き合うお人よしは少ねえだろう」
「じゃあ胡州軍部通の西園寺中尉。近藤中佐はどう言う布陣をしくと思う?」
横からほろ酔い加減で茶々を入れる要に愛想をつかして、カウラがそう問いかけた。
しかし、要はフラスコをベストのポケットにしまうとニヤリと笑って海図にラインを引いた。
「この半径が『那珂』の主砲の有効照準ラインだ。このラインに入らなければ主砲はそう簡単には撃てない。当然アタシ等はこの笹に竜胆から出発するわけだから、『高雄』はその外側で待機することになる」
「つまり敵艦の主砲は我々に向くと?」
つい合いの手を入れた誠だが、要の眉間には皺。そして首を振った。
「お前馬鹿だろ?戦艦の主砲でアサルト・モジュール落とせるか!東和軍には教本も無いのか?」
あきれた。そういう顔をして要は話を続けた。
「敵は機動兵器、もしくは無人観測機を使用して『高雄』座標確認、照準誘導による主砲での撃沈を目指すはずだ。こちらがその阻止に向かうことも念頭に入てれるとなると、第一部隊は左舷10時方向下のデブリ、第二部隊はこちらの主砲の使用許可が下りていないと読んで正面を突く」
「さすがに嵯峨大佐の姪だな。吉田少佐の作戦とまったく同じだ。我々は左舷10時方向、距離二万一千のデブリに取り付き、これを死守する。それが作戦目的だ」
カウラはそう言うとゆっくりとヘルメットを被った。
誠はゆっくりと息をする。
切り替えられたモニターには海図に代わってハンガーの中の雑然とした光景が回りに広がる。
ふと足元で紫色のパイロットスーツの女性仕官がわめき散らしているので、思わず音声センサーの感度を上げた。
「馬鹿言ってないでトイレの芳香剤でも何でもいいから持ってきなさいよ!」
明華だった。
整備員が敬礼し全力疾走でハンガーを出て行く。
「あれだな。たぶん叔父貴の機体、明華の姐御が使うんだぜ」
特殊なサイボーグ用の目の辺りを完全に隠すヘルメットを被った要が、見える口元をほころばせながらつぶやいた。
「隊長って出撃時にもタバコ吸うんですか?」
「出撃時だけじゃねえよ。なんか考える時、あのオッサン、コックピットに座るとひらめくんだと。あ、掃除機持った奴が出てきたよ。灰皿がひっくり返ってでもいたのかな」
誠の正面、四式改のコックピットでは整備員達のあわただしいコックピット清掃作業が続いていた。
「すると、第一小隊は待機で出るのは明華の姐御とリアナお姉さんとアイシャとパーラか。姐御が四式。お姉さんは吉田の丙型、アイシャはシャムのクロームナイトでパーラがタコの千手観音か」
「クロームナイト?千手観音?」
誠は思わず繰り返した。
「シャムのは銀色の機体だ。見りゃわかるだろ?クロームメッキっぽいのと遼南帝国騎士団長だからクロームナイト。タコのは肩の装甲に背中の彫り物と同じデザインの千手観音が書いてあるから千手観音。わかったか?」
珍しく要が親切にそう答えた。




