今日から僕は 130
西が合図を出すのを確認してハッチを閉める。
装甲板が下げられた密閉空間。
誠の手はシミュレータで慣らした通りにシステムの起動動作を始める。
当然、法術システムの起動も忘れない。
計器はすべて正常。
それを確認すると誠はヘルメットをかぶった。
「神前少尉。状況を報告せよ」
「全システムオールグリーン。エンジンの起動を確認。30秒でウォームアップ完了の予定」
それだけ言うとモニターの端に移るカウラと要の画像を見ていた。
「どうだ?このままカタパルトに乗れば戦場だ。気持ち悪いとか言い出したら背中に風穴開けるからな!」
要はそう言いながら防弾ベストのポケットからフラスコを取り出し口に液体を含んだ。
「西園寺!搭乗中の飲酒は禁止だぞ!」
「飲酒じゃねえよ!気合入れてるだけだ!」
あてつけの様にもう一度フラスコを傾ける要。
苦い顔をしながらそれを見つめるカウラ。
「忙しいとこ悪いが、いいか?」
チェーンガンの装弾を終えたのか、島田が管制室から通信を入れる。
「神前。貴様に伝言だ」
「誰からですか?」
心当たりの無い伝言に少し戸惑いながらたずねる誠。
「まず神前薫ってお前のお袋か?」
「そうですけど?」
誠は不思議に思った。
東和軍幹部候補生試験の時、最後まで反対した母親。
去年の盆も年末も誠は母親がいないことを確認してから実家に荷物や画材、フィギュア作成用の資材などを取りに帰っただけで、会ってはいなかった。
「ただ一言だ。『がんばれ』だそうだ」
「なんだよへたれ。ママのおっぱいでも恋しいのか?」
悪態をつく要。照れる誠。
「それとだ、経理課の菰田からも来てるぞ。まったく人気者だな」
「なんて書いてあるんですか?」
誠は思わぬ人物からの手紙に少し照れながら答える。
「馬鹿だアイツ。これも短いぞ『もどって来い。俺が止めを刺す』だと。嫌だねえ男の嫉妬は」
「カウラ!いい加減アイツ絞めとかないとやばいぞ」
笑いながら要が突っ込みを入れる。
何のことかわからず途方にくれるカウラ。
誠は要につられて笑いをこぼした。
「ベルガー大尉!吉田少佐が作戦要綱を送ったそうですが見れますか?」
島田は先ほどのダレタ雰囲気を切り替えて、仕事用の口調でそう言った。
「大丈夫だ。ちゃんと届いている。西園寺中尉、神前少尉。今そちらに作戦要綱を送ったので地図とタイムスケジュールを開いてくれ」
カウラの声がヘルメットの中に響く。
誠は画面を切り替えた。
ハンガーを映していたモニターに近隣宙間の海図が映し出された。




