今日から僕は 114
「シュバーキナ大尉」
誠はとりあえず自分の中に詰まった恐怖に似たようなものを話してみる事にした。
「なんだね神前」
やわらかいようでいて、何故か岩盤のような強固な固さがあるような雰囲気に飲まれぬように注意しながら誠は話を続けた。
「人間てそれほど戦いと言う緊張状態に慣れらるものでしょうか?」
誠のその言葉に思わず口元を緩めるマリア。
「悲しいが人間の適応力は凄いものだ。私も二十年前にはこんな稼業に手を染めるなんて思ってもいなかった。だが、私はここにいて、さらに二日後には確実に人を殺めることになるのは分かっている。だがこうして今の所笑っていられる。それが人間だ」
どこかあきらめたような自嘲的な笑みが、その整った口元をゆがめているのを見て、誠は少しばかりこんな事を話した事を後悔していた。
「しかし、誰かがこんな事をしなければならない。そして他の誰でもなく私がすることになった。それが現実なら受け止めるしかない。私はそう思っている。現実はいつでも酷く残忍なものさ」
ドアが開き居住スペースの所に止まった。
誠は下に行くマリアと別れてこの階で降りた。
居住スペースの廊下を進み、角を曲がった誠の私室の前で一人の男が酒瓶を手に誠を待っていた。
「久しぶりに飲もうや」
先回りして待っていた嵯峨は、また普段のダルめの雰囲気を背負いながら手を振った。
よれよれの作業服。無精ひげ。40を過ぎたとは思えないように張りのある顔つきにどこか影を感じる。
「とりあえず入りましょう」
誠はそれだけ言って、指紋認証でドアのキーを外し私室に入り込んだ。
「結構片付いてるじゃないか」
ただ置くべきものがないだけの部屋を嵯峨はそう評した。
「ああ、コップはあるんだな。俺も念のため持ってきたがな」
二つのグラスを出すと、作業用の机の上にコップを並べて注ぎ始める嵯峨。
誠はベッドに腰をかけその様子を見ていた。
「まあ飲めや」
そう言うと嵯峨は注ぎ終わったコップを誠に渡し、自分もそれを一舐めしたあと悠然と部屋の中を見回した。
「正直どうだい?初の実戦の前の気持ちは」
酒の味の余韻に浸るように眼を細めながら嵯峨はそう切り出す。
「よく分からないです。これから自分の手で何人かの人を殺す事になるだろうと言う事はこれまで考えた事ありませんから」
「そうか」
それだけだった。
嵯峨は特に何の感想も無いとでも言うように静かに頷くと再び酒瓶からコップに酒を注ぐ。
「確かにそうだな。脱出装置なんていうものは、所詮、お守りくらいのもんだと思っていたほうがいい。熱核反応式のエンジン搭載の火龍なんかじゃあエンジンの爆縮に巻き込まれてまず助からんだろうな」
嵯峨はそう言いながら今度は一息で注いだ酒をのどの奥に流し込んだ。




