今日から僕は 113
「そうですよね。これは戦争なんですよね」
真剣な、どこか陰のある目つきのシャムに、誠は少しばかり狼狽しながら答える。
「まあ法律的な見かたからすりゃあ戦争じゃないとはいえるが、どっちにしろ命のやり取りする事になるのは間違いねえけどな。まあアタシは人が食えりゃあ文句はねえ」
要の視線。
それに狂気じみた口元の笑み。
誠は以前、彼の救出作戦のおり垣間見た、殺戮マシンとしての彼女を思い出して絶句する。
「シャム。その甘さが命取りにならんように気をつけな。神前!アタシはとりあえずハンガー寄ってくがどうする?」
「素直じゃないのは要ちゃんも一緒だね!」
記憶と言うものがあるのが不思議になるほどの急な展開で陽気になっていたシャムが要に絡んだ。
「そりゃなんだ?誰と一緒なんだ?」
「カウラちゃんと!」
「おい、チンチクリン!あんな、つり眼洗濯板堅物女と一緒にするんじゃねえ!」
「じゃあ要はタレ眼おっぱい凶暴女だね」
「言うじゃねえか!こっち来い!折檻してやる!」
要はヘッドロックでシャムの頭を極めながら歩き始めた。
「痛いよう!」
あれほど冷酷な表情を持ち合わせている二人が次の瞬間にはこんな馬鹿な遊びに興じている。
実戦に慣れるということはこういうことなのか、誠はそう思っていた。
「とりあえず僕は仮眠を取るんで私室に帰ってもいいですか?」
「薄情モノは帰れ!」
じたばたと暴れるシャムをヘッドロックで極めながら要はそうはき捨てるように言った。
誠はとりあえずその場を離れた。
エレベーターの前では金色の短めの髪が人目を引くマリアが一人でエレベーターを待っていた。
「どうした?西園寺やベルガーやクラウゼと一緒じゃないのか?」
「一人です」
「そうか」
正直、誠は間が持たなかった。
きつめの美女と言う事ではカウラと似た所があるが、どこと無く人を寄せ付けないようなオーラはマリア特有のものだった。
「二日後には我々は戦場だ。思うところがあればするべきことはして、言うべきことは言っておくべきだな。戦場ではいつだって不可抗力と言うものが働くものだ」
「はあ」
真剣な視線を送る青い瞳が誠を射抜く。
そして次の瞬間にはにこやかな笑みが広がっていた。
「神前。君には私としてはかなり期待しているんだ。事実、シン大尉が第二小隊の隊長をしていた時よりも西園寺はかなり穏やかになったし、ベルガーも角が取れてきた」
「そうなんですか」
エレベーターの扉が開き、マリアが先頭で乗り込んだ。




