今日から僕は 103
『あっ、言い忘れたけど思念通話のことは他言無用で』
「分かってますよ!」
歯にものが挟まったような感覚に囚われながら、誠は大声でそう叫んだ。
「なに叫んでんだよ!バーカ!」
要は落とされたことが相当悔しいらしく、誠に意味もなく突っかかってくる。
「でも凄いね!神前君。あんなことが出来るなんて。確かあのサーベル。05式導入の時、装備するかどうかで上と隊長が相当もめてたってシン大尉が言ってたけど、それなりのものだと言うことね」
早くあがっていたパーラがそう讃えたが、誠はいまひとつのれなかった。
『実戦でこれが使えるのか?本当は師範代に担がれてるんじゃないのか?』
自分でもこんなマイナス思考はとりたくないのだが、どうしてもそう思ってしまうのが誠のサガだった。
「カウラの奴、結構持ってるな」
戦闘中のモニター画面四つがシミュレーションルームから見える。
すぐさまアイシャのモニターが消え、シミュレーターの一つのハッチが開いた。
「やっぱり専門職はすごいわ!ああ、参ったねえこりゃ」
おどけながらアイシャが出てきた。
「要ちゃん、落とされたんだ」
「悪りいか?たまにはこんなこともあんだよ!」
「別にそこまで言ってないわよ。ただ誠ちゃんの前でいいとこ見せられなくて残念ね、と言うことは言っといた方がいいかな?」
「おい!アイシャ。もう一回言ってみろ。粥しか食えない口にしてやるからな!」
「怖いよう、先生!要ちゃんたらあんなこと言うのよ」
アイシャがよなよなと誠に擦り寄ってくる。
彼女は誠の胸にしがみつくと、今にも涙しそうな表情で誠を見つめた。
「そんな眼で見られると……!」
視界の端に映る要の表情を見つけて、誠ははっとした。
助けを求めるようにパーラの方を向いたが、その顔が『ご愁傷様』と言っているのは明らかだった。
「チキショー」
要のこぶしは誠の顔面ではなく、シミュレーションルームの壁にひびを入れるために用いられることになった。
そして要は不機嫌そうにシミュレーションルームから出て行った。
「怖いわー、誠さん!お願いだから私をあの暴力女から守ってね!」
アイシャには要の破壊活動の元凶だと言う自覚は完全にある。
誠が見つめる潤んだ眼はどう見ても確信犯のそれだった。
「ちょっと神前君!追いかけなくていいの?」
パーラが心配そうに誠を問い詰める。
「でも僕が原因だし、一応、隊長の命令でここにいるわけだし……」
こういう状況はまったく経験したことがない誠は、おずおずと自分でも言い訳だと分かりつつ言葉をつなぐ。
「神前君。最低ね。それとアイシャこんなことばっかりしてると本当に要に襲われるわよ」
「それって禁断の百合ワールドに入るってこと?」
いつものいたずらっぽい笑みを浮かべてアイシャがパーラを見つめた。
「あんたの脳みそ、東和に来てから完全に腐ったわね」
「いいじゃない!楽しいんだから。それに要ちゃん単純だからおなか一杯になれば忘れるわよ」
相変わらずアイシャは誠の胸の中から離れようとはしない。
次第にその距離は狭まっていくので、誠は自分の頬が赤く染まっていくのが自覚できた。




