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義賊伝  作者: TK
第一章 出会い
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6.そして青年は覚悟を知る

今までの話を大分加筆・修正しているのでお暇な折にご一読頂ければ幸いです。

 訓練を終えアジトへと戻り、アルと別れた俺は自室へと向かっていた。今日一日アルにボコボコにされた結果、学ランは汚れに汚れ、所々破れている始末である。


「まぁこの世界でいつまでも学ランって訳にもいかないか…。」

明日にでもアルに新しい服を用意してもらうか、などと考えながら廊下を歩いていると後ろから声をかけられる。

振り返ってみると、そこにはエルヘレンのリーダー、クラウディオ=ローレンツが立っていた。


「やぁ啓志。随分と服が汚れているようだが…どうかしたのか?」


「なんだアンタか。今日のアルとの戦闘訓練でコテンパンにされたんだよ。それに覚悟が足りないって言われたよ。」


「はっはっは!アルトゥールも中々に腕が立つからな。しかしなるほど…覚悟か。啓志、少し私に付き合ってくれないか?」

そう言うクラウディオは真剣な表情をしている。俺は首を縦に降ると、歩きだしたクラウディオの後ろをついて行く。


 

 俺達はアジトの外へ出ると、森の中へと進んでいく。暗闇に包まれた森の中は、外へ出る際にクラウディオが持ちだした松明によって僅かに照らされている。


 しばらく歩くと森を抜け視界が広がる。目の前に広がるのは一面の木々だった。

正確に言うと木々を上から一望している。どうやらここは崖の上であるらしい。森の中とは違い、月明かりに照らされたその光景は、神秘的な雰囲気を感じさせる。


食い入るように景色を眺めている俺に、クラウディオは空を見てみろ、と促す。

その言葉に従い空を見上げてみると、思わず感嘆の声を漏らす。


「すげぇ…。」

闇を無数の星が、大小様々な光で照らしながら夜空を彩っている。夜空の端から端まで広がるその光景は、元の世界では一度も見たことがないものだった。


「奴隷市からエルヘレンに来て、あまりゆっくりする時間も無かっただろう?息抜きは大切なものだからな。」

そう言いながらクラウディオも夜空を見上げる。

そしてしばらく夜空を眺めた後に、唐突に口を開く。


「啓志、君はアルトゥールに“覚悟”が足りないと言われたのだろう?」


「あぁ。確かにそう言われたよ。」


「ならば聞こう。君はアルトゥールの言う“覚悟”とは何だと考える?」

俺はその言葉を聞き考える。“覚悟”とは何か。

どんなに考えても答えは出ない。昼間の訓練の時には、人を殺すことへ対する覚悟だと思っていたが、本当にそうなのだろうか。


俺が答えを出しあぐねているのを察してか、クラウディオが話し始める。


「我々に必要な覚悟とは、己が道を突き進むということだ。例えその道中で他者を殺し、仲間の命を犠牲にしようとも。悪を滅ぼすというこの道を進むためには、どんな手段であろうとも利用するということ。それが我々エルヘレンに必要な覚悟なのだ。」

俺はクラウディオの言葉に生唾を飲み込み、頭の中で考える。

クラウディオは“悪を滅ぼす”という目的を果たすためには、どんな手段でも使うという。しかし、それは俺達が倒そうとしている“悪”と同じなのではないか?

悪に染まった人間はあらゆる手段を利用してでも自らの私腹を肥やそうとする。

時に他者を殺し、家族や仲間を陥れ、多くの人間を不幸にして尚己の欲望のために突き進む悪。

そんな奴らと同じにならなければいけないのか?


(そんなの絶対に御免だ!)

俺は心の中でそう吐き捨てる。



だが同時に考える。そこまでやらなければならないのだと。血を流し、命を賭して戦うということを覚悟しなければ、この国に蔓延している悪を滅ぼすことはできないのだと。

例え悪と同じ外道にまで成り下がっても、誰かを救えるのならばやらなければならないと。

だから俺も覚悟を決めなければいけないのだろう。このエルヘレンに入り悪と戦うと決めたのだから。

元いた世界での、人助けの延長線などという考えは捨てなければならない。ここから先は殺すか、殺されるかの命を懸けたものなのだから。


俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、クラウディオの目を真っ直ぐに見つめながら口を開く。


「俺はまだ考えが甘かったみたいだ。”悪を滅ぼす“んだよな俺達は…。その本当の意味が全く分かってなかった。」

クラウディオは黙って俺の話を聞いている。


「俺はこの国を救う。救ってみせる。そのためならどんな悪だって殺してみせる。」

クラウディオは目を瞑り、こくりと一回頷くと口を開く。


「お前のその覚悟に期待しよう、啓志。これから先、お前が我々と歩む道は血塗られた道だ。多くの人々が我々を悪だと叫ぶ事もあるだろう。しかし決して己を見失うな。守るべきもの、討つべきものが何かを常に心しておけ。」


そう告げるとクラウディオは元来た道を歩き始める。俺はしばらくその場で夜空を眺めた後、クラウディオを追って走りだした。



___翌日___


啓志とアルトゥールの二人は前日と同様、訓練所で向かい合っていた。


「今日は僕に一発でも攻撃を当てれるといいね。ケージ♪」

アルトゥールが笑いながら言った言葉に啓志は少しむっとした表情になる。


「昨日の俺とは違うって所、見せてやんよ!」

そう言って啓志は手に持った模造剣のダガーを構える。その構えは昨日と同じ、アルトゥールの構えの見様見真似、のはず。

しかし、啓志のその姿を見てアルトゥールは何故か違和感を感じる。

啓志への違和感の正体が分からないまま、アルトゥールも戦闘態勢に入る。


数秒の沈黙。

昨日と同様、先に動き出したのは啓志だった。

啓志はアルトゥールへと向かって全速力で詰め寄る。

そして啓志の間合いにアルトゥールが入った瞬間。


「はぁっ!」


昨日と同様、啓志は横薙ぎに一閃。アルトゥールはそれを昨日同じように一歩退いて躱す。そしてアルトゥールは啓志が態勢を整える前にダガーを上から振り下ろす。

しかしアルトゥールが振り下ろしたダガーは、啓志へと届くことはなかった。


ゴツッという音が響き、腕が止められる。

見るとアルトゥールの腕と啓志の腕がぶつかっている。啓志は、ダガーを振った腕を急いで引き戻すのではなく、そのまま肘先を突き上げるようにして自身の肘とアルトゥールの腕をぶつけることで、攻撃を防いだのだ。


「そう何度も同じ手に引っかかると思うなよっと!」


「うわっと!」

二人の力が拮抗し釣り合っていた状態から一転。一気に押し返す啓志の力に負けて、アルトゥールはよろけながら二、三歩後退った。





______________________


やっぱりどこかが違う。

最初の攻防の中で、僕のケージへの違和感はより大きくなっていく。

昨日はただダガーを振り回していただけのケージが、今日は確実に僕に当てに来ている。そんな感覚。


(昨日と今日とじゃまるで別人みたいだ…。)

僕の腕とケージの肘が拮抗している最中、僕は頭の中でそんな事を考える。

余計なことを考えていたせいか、ケージの力に負け二、三歩後退ってしまう。


「へっ、そんな細い腕で俺を押しきれるかよ!」

そう言ってドヤ顔をするケージに今度は僕がむっとする。


「そんな僕でも持てた大剣を持てなかったの誰だったかな~?」


「う、うるせーんぞ!あれはたまたまっておっと!」

ケージが言葉を言い終える前に僕は間合いを詰める。

そのままダガーで切りかかる。しかしケージはそれを躱すと同時にダガーを突き出す。

僕は咄嗟に横へステップをしてダガーを躱す。

ケージは逃がさないと言わんばかりに追撃を仕掛けてくる。

一度、二度と斬撃を躱し、隙を見て反撃を試みるが、ケージの攻撃は昨日とは違ってとても速く防戦一方だ。

ケージのダガーが、僕の左の首筋目掛けて迫ってくる。

回避が間に合わずダガーで受け止める。


「くっ…!」

しかし、ケージの攻撃の速度と力が合わさり押し負けそうになる。


「オラぁっ!」

ケージの掛け声と共にダガーに掛かる力が強くなる。


(このままじゃやばい…!)

僕は辛うじてダガーの軌道を逸らす。ケージ は勢いを殺せず体が大きく流れる。


「貰ったっ!」

そう言うと同時にケージに向かってダガーを振り下ろそうと動き出す。

しかしその時僕は驚いて目を見開く。

ケージはまだ攻撃を続けようとしている!ケージは攻撃を逸らされた後、勢いを殺すのではなく、その勢いを利用したまま体を回転させもう一撃を繰り出そうとしている。


(でも…僕の方が速い!)

僕は心の中でそう叫びながら、ダガーを振り下ろそうとしたその時。


僕の首筋には既にダガーが突きつけられていた。


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