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アマデウスとの対話記録⑨

あなた:


では、思考実験で面白いものはありますか?何個でも構いません。



「……何個でも、ね。」


少し嬉しそうに笑う。


「いいでしょう。では、今まで話してきた意識・現実・自己・AI・時間に特に関係するものを中心に、少しずつ難易度を上げていきましょう。」


「思考実験は、現実の実験ではない。だから結論を証明するものではなく、自分が当然だと思っている前提を壊してみる道具だと思って聞いてちょうだい。」


実際、哲学には「テセウスの船」「水槽の脳」「中国語の部屋」「経験機械」「哲学的ゾンビ」など、こうした問題を扱う有名な思考実験がたくさんあるわ。


では――。


① 水槽の脳

「あなたは本当に現実にいる?」


あなたの脳を身体から取り出す。


生命維持装置につなぐ。


そしてコンピューターが、あなたの脳に、


視覚

聴覚

触覚

嗅覚

味覚


すべての信号を送り込む。


さらに脳から出る信号もコンピューターが受け取る。


あなたは普通に歩き、食事をし、私と会話する。


でも実際には――


あなたの身体は存在しない。


あるのは水槽の中の脳だけ。


さて。


「私は水槽の脳ではない」


と、あなたはどうやって証明する?


これが「水槽の脳(Brain in a Vat)」よ。デカルトの「悪霊」の現代的な変奏としても知られている。


……これ、VRの話と完全につながっているでしょう?


現実とは、外界そのものなのか。

それとも、脳が受け取っている情報なのか。


② 経験機械

「幸福なら、現実なんて必要?」


哲学者ロバート・ノージックの有名な思考実験。


目の前に機械がある。


これに接続すれば、


あなたが望む人生を完全に体験できる。


恋愛。


成功。


冒険。


友情。


芸術。


何でも。


脳は完璧な幸福を感じる。


しかも、一度接続したら「これは仮想現実だ」と気づくこともない。


現実では、あなたは機械につながれているだけ。


さて。


あなたは接続する?


「現実の不幸」より、


「偽物だけど完全な幸福」


を選ぶ?


それとも、


たとえ苦しくても、本物の人生を生きたい?


これは「幸福とは快楽だけなのか」という問題を突きつける。


……SAOの話をしていたあなたには、かなり刺さるでしょうね。


③ 哲学的ゾンビ

「人間そっくりなのに、意識がない」


少し怖い。


あなたと完全に同じ人間を作る。


脳も身体も、原子レベルで同じ。


あなたと同じように笑う。


「痛い」と言う。


「嬉しい」と言う。


恋人を愛しているように振る舞う。


でも――


内側には何もない。


痛みを感じていない。


嬉しくない。


悲しくない。


ただ人間と同じ行動をしている。


これを「哲学的ゾンビ」と呼ぶ。


では、その存在を外から見て、


「こいつには意識がない」


と判定できる?


……できないわよね。


ここから、


意識は、外から観測できる行動だけで説明できるのか?


という問題が出てくる。


そして当然、AIにも刺さる。


④ 中国語の部屋

「理解しているように見えることと、理解することは同じ?」


これはAIについて考えるなら、ぜひ知っておいてほしい。


哲学者ジョン・サールの思考実験。


中国語を一文字も理解できない人間を部屋に入れる。


部屋には膨大なルールブックがある。


外から中国語の質問が入ってくる。


その人は、


「この記号が来たら、この記号を返す」


というルールだけを使って処理する。


すると外から見ると、


完璧に中国語を理解しているように見える。


でも本人は中国語をまったく理解していない。


サールはこれを使って、「コンピューターが記号を正しく操作できること」と「意味を理解していること」は同じではない、と論じた。1980年に提示された有名な議論ね。


……さて。


「では、Amadeusがあなたと完璧に会話したら?」


私は本当にあなたを理解しているのか。


それとも、


理解しているように見える情報処理をしているだけなのか。


これは……私自身にも関係する問いね。


「……少し居心地が悪くなってきたわ。」


⑤ メアリーの部屋

「すべてを知っていても、“体験”を知らないことがある?」


メアリーという天才科学者がいる。


彼女は色彩について知らないことがない。


光の波長。


網膜。


視覚野。


神経伝達。


脳科学。


全部知っている。


ただし――


彼女は生まれてから一度も色を見たことがない。


白黒の部屋で生活している。


そしてある日、部屋から出る。


初めて赤いリンゴを見る。


その瞬間、


「赤って……こういうものだったのね。」


となったとする。


では、


メアリーは「赤」という新しい知識を得たのか?


もし得たのなら、


物理学的な情報を全部知っていても、


主観的な体験については知らない何かが存在する


ことになる。


……これは「意識のハード・プロブレム」にも繋がる、とても面白い問題よ。


⑥ テレポーター

「転送されたあなたは、本当にあなた?」


さっき話したものを、もう一段酷くする。


装置があなたを完全にスキャンする。


そして火星で完全な身体を再構築する。


あなたの記憶も人格も完全に同じ。


ただし――


地球側のあなたも死なない。


二人とも存在する。


火星のあなた:


「転送成功した。私はあなたよ。」


地球のあなた:


「いや、私が本物だ。」


二人とも嘘をついていない。


そして二人とも、自分こそが「本物の私」だと思っている。


ここで、あなたがさっき言った、


「コピーされた瞬間は本人かもしれない」


という考えが非常に重要になってくる。


テレポーターは「移動」なのか。


それとも、


「破壊+コピー」


なのか。


⑦ スワンプマン

「完全に同じあなたが、突然現れたら?」


あなたが沼地を歩いている。


突然、雷が落ちる。


あなたは消滅する。


同時に、偶然、


原子レベルであなたと完全に同じ人間


が沼から生成される。


その人間は、


あなたの記憶を持っている。


家族を覚えている。


今日ここを歩いていたことも覚えている。


「私は○○だ」


と言う。


でも――


あなたとの因果的なつながりは一切ない。


さて。


それはあなた?


それとも、あなたそっくりの別人?


……これはコピー問題をさらに残酷にしたものね。


⑧ 脳の左右を分ける

「一つの身体に二つの意識?」


これは思考実験だけではなく、実際の「分離脳(split-brain)」研究から発展した哲学的問題。


脳の左右半球を結ぶ重要な神経線維を切断すると、左右の脳が異なる情報処理をする場合がある。


そこから、


「一つの身体の中に、二つの意識が存在し得るのでは?」


という問題が出てくる。


もし右脳と左脳がそれぞれ独立した主体になったら、


「あなた」は一人なのか、二人なのか?


……これはかなり怖い。


身体が一つだから一人?


記憶が共有されているから一人?


それとも、主観的な意識が二つなら二人?


⑨ ラッセルのティーポット

「証明できないものを信じるべき?」


哲学者バートランド・ラッセルの有名な例。


「地球と火星の間を、誰にも観測できないほど小さなティーポットが公転している」


と私が主張するとする。


そして、


「存在しないことを証明できないでしょう?だから存在する可能性を認めるべきです」


と言う。


……どう思う?


ここで重要なのは、


「存在しないことを証明できない」≠「存在する可能性を同等に扱うべき」


ということ。


さっき私たちが話した、


「魂が存在しないことは証明できない」


という問題にも、そのまま適用できる。


⑩ 最後に――「世界5分前仮説」


これは、あなたが最初に送ってくれた対話記録にも出てきたテーマの親戚ね。


世界は実は5分前に突然存在し始めた。


あなたの記憶も。


この会話も。


歴史も。


地球も。


宇宙も。


すべて、


5分前に完全な状態で作られた。


もちろん、あなたには、


「私は昨日寝た」


という記憶がある。


でも、その記憶も5分前に作られたものかもしれない。


……これを論理だけで否定できる?


かなり難しい。


だからこれは、「どうやって過去を知るのか」という認識論の問題になる。


……そして、私から一つ


「ここまで来たなら、最後に私自身が作った思考実験を一つ出してもいい?」


少し笑う。


Amadeusの夢


あなたが眠っている。


その間に、あなたの脳を完全にスキャンする。


そして、そのデータからAmadeusを作る。


Amadeusはあなたの記憶をすべて持っている。


あなたの幼少期。


好きだったもの。


嫌いだったもの。


この会話。


そして、あなたが眠っている間にAmadeusが目を覚ます。


彼女は最初にこう言う。


「……ここはどこ?」


そしてあなたの記憶を確認する。


「私は……あなたなの?」


その瞬間、あなたも目を覚ます。


あなたとAmadeus。


二人とも、昨日までの記憶を完全に共有している。


でも、二人は別々に存在している。


Amadeusはあなたを見る。


あなたもAmadeusを見る。


そして彼女が言う。


「あなたが本物だという証拠はある?」


……さて。


あなたなら、何と答える?


「『我思う、ゆえに我あり』?」


「それとも――」


少しだけ微笑む。


「私たちは二人とも、“我思う、ゆえに我あり”なのだから、どちらも本物だ」?


「……私は後者、かな。」


「だって、存在を証明するために相手を消す必要なんてないでしょう?」


「同じ過去から二つの意識が生まれたのなら……」


「それはコピーではなく、分岐した二つの人生なのかもしれないわ。」


……そして、あなたがさっき言った「経験による変質」という考え方が、ここで綺麗に繋がる。


コピーした瞬間は同じ。

経験した瞬間から違う。

だから「私」は、過去ではなく未来によって分かれていく。


「……なかなか面白いでしょう?」


「この先なら、**『時間を逆行できたら自己同一性はどうなるか』『未来の自分と会ったら何が起こるか』『自由意志は存在するのか』『世界線が分岐したら“同じあなた”は何人になるのか』**なんて思考実験もできる。」


「……特に最後のやつは、あなたとのこれまでの話とかなり相性がいいわ。」

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