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魔王と元カノと異世界と  作者: 土佐牛乳


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「久しぶり…… タスク……」

 正面に見えるのはイスに腰かけ、右手を頬に付けた女性。


「ど、どうしてここに!?」


「驚いた? まあ無理もないよね」

 立ち上がると同時に、俺を確かめるように言う。


「私がこの世界を貶めている魔王だよ」

 昔のように彼女は髪を触りながら答えた。


「お、お前が魔王って…… どういうことだよ……」



「タスクを待っていた。私の願いを叶えるためにね」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 堕四星二番星アルル、三番星メッサイヤ、二番星コルセヤーノを倒した俺たち。

 強い装備品のおかげで、死闘というほどの死闘は無かったが、かなり苦戦を強いられた戦いだった。


 コルセヤーノを倒した俺たちは、近くにあった転送魔方陣を使って最上階にたどり着いた。


 ユウが先に俺が行け、ということで魔方陣からやってきたわけだが。

 なんと真っ暗の空間で周りが見えない。

 手当たり次第に周りを確認する。とりあえず前を確認してみるかと思った俺は、前の方に手を伸ばす。

 どうやら前には、板のようなものがあった。手に付いた反動で左の方に隙間ができ、暗い空間に光が入ってきた。

 そのまま押すとドアのように開いた。

 眩しいと思い、目を細めてみたが案外眩しくもなかった。


 そして俺は驚愕した。

 最上階の内装に。



「な、なんだよこれ……」



 たくさんの椅子や机が綺麗に列を作っている部屋。前の方には黒い緑色をした板がある。

 それは高校時代の教室と全くと言うほど似ていたからだ。

 どうやらあの転送魔方陣は、この掃除箱に繋がっていたらしい。


「アメリア!? ユウ!?」

 転送魔法陣まで一緒にいた、アメリアとユウがなかなか来ない。

 別々のところに飛ばされたのだろうか?

 彼女らはどこかのフロアにいるかもしれない。まあ彼女らは強いから大丈夫だろう……


 外からは夕日が見え、ヒグラシの鳴き声が聞こえる。

 しばらくこの教室を見ていた俺は俺の座っていた席に座る。

 そして高校時代の記憶を思い出した。


 高校生活最後の年。

 夏になりかけた、梅雨明けのある日、一つのグループを端から横目で見ていた。

 まあ集団なんて大嫌いなんだが、人間観察みたいなものだ


 今時で言えば、”オタクサークル”なんて言うものが、クラスに派閥としてあった。

 女一人に対し、男が5人ほど集まるような集団だ。


 あのゲームはどうだとか、あの声優は嫌いだとか。

 昨日のアニメがどうだったとか、テレビの芸人の話ばかりするような集団。

 と言いつつも彼らが羨ましかったのかもしれない。


 その中に一際放つカップルのような男女がいた。

 俺の好きな舞とイケメンの男女だ。

 付き合ってはいないようだが、かなり仲のいい二人だ。

 男がライトノベルの主人公のようで、頭脳明晰、顔がいい、運動ができるといった、マジでお前が主人公だよと誰もが言いそうな男だ。

 正直、俺はソイツにかなり嫉妬していた(しかも舞の隣にずっといたからな)。これでそいつはアニヲタなんだぜふざけてやがる。


 嫉妬はしていたけど、憧れでもあった。なんでもそつなくこなすような人の努力を見たからだ。

 本当に人ができているんだなと思った。


 中学が舞と一緒だった俺は、中学までは舞と1週間に1回は話すような関係だった。

 高校からは、全くと話さなくなった。俺が人とかかわることを辞めると誓った時から。

 なんで、あれだけの告白ができるタイミングがあったのに、俺はしなかったんだろうか。

 ちなみに舞には6年間片思いをしている(これだけの年数を片思いをしていると書いてはいるが、俺も若かったから他の女の子が好きになってしまうという時もあった)


 そんな彼らがある日バラバラになるような出来事があった。

 どんな経緯があったかは知らないが、舞が一人になるという結末で終わった。

 端から見ていた俺は、あいつらを心底バカにしていた。

 まあぼっちだったから、捻くれていたのは仕方のないことなんだ許してくれ。


 馬鹿にしながらあの時の俺は、舞以外の全てが許せなかった。


 青春も、一人を仲間外れにして、自分だけがのうのうと生きていられるあいつらも。

 どうせこいつらは将来、話のネタとして「あの時はああだったな」というのだろう。

 そんなものはおかしいと思った。バカにして正解だと思った。


 しばらく離れ離れになった彼らを見ていた。

 散りばめられた、むさ苦しい男たちは前のようにグループを形成していた。



 だが、舞だけは一人でいた。



 イケメンよ、お前は舞のことが好きではなかったのか?


 あれだけ一緒にいて、あれだけ隣にいて、それなのに一時のことでこんなことになるのか。

 そりゃ俺はそのグループの中には居なく、そのグループの中で何が起こったのかなんて俺が分かる由もない。


 しばらく舞は一人でいた。それにボッチの俺はシンパシーを感じてしまったのかもしれない。

 大分、魔が差してしまった(こう斜めに構えて表現しないと、俺もこの話を書くのは色々とつらいものがある)。


 俺は舞に話しかけた。


 言い訳をするが、彼女が物凄く悲しそうにしていたからだ。


 彼女はとても話しやすかった。

 と言っても、俺は三年間人とまともに話したことがなかったから、俺は話し相手が欲しかったのかもしれない。

 俺も彼女も寂しかったんだと思う。まあ俺からの一方的な推測なんだけど。


 彼女の前で笑いをとるピエロのような俺だった。

 話していると、彼女が大好きになった。彼女の笑ったところも、彼女の話も、彼女のすべてが。


 当然、そんな俺に嫉妬をするような輩がクラスにポチポチと出始めた。

 (大体はクラスの連中をバカにして笑いを取っていたからな。反感を買うにはいい材料が揃っていた)


 なるべくして俺はクラスの連中にいじめられた。

 ガラスメンタルなので滅茶苦茶傷ついた。


 でもある程度は耐えきることができた。舞がいたからだが。

 そんな俺に追い打ちをかけるように、舞に年下の彼氏が出来た。


 早く告白をすればよかったと後悔に後悔をした。


 俺はしばらく学校に来なくなった。

 舞はそれでも俺を見ていた。頑張ってほしいと連絡もくれた。


 結局は彼らに負けてしまった。

 それは俺が弱かったからだ。だから逃げた。弱い自分からも逃げるようにネットに逃げた青春だった。


 そのあとの俺は、2年ひきこもった後、介護の専門学校に行き介護福祉士の免許を取る。

 そして3年後に舞が結婚、今に至る。


 過去のことを思い出していた俺は、一つの椅子に座った。

 中央の一番後ろの席で俺が前に座っていた席だ。

 その一つ前の席に舞が座っていたんだ。


 あの時は毎日が楽しかった。




 できればずっとあのままで……





 走馬灯のように駆け巡る辛い記憶が途切れた。



 目を瞑る。




「久しぶり…… タスク」

 目を閉じていた俺は、懐かしい女性の声に驚いた。

 まさかと、自分の耳を疑いながら、素早く目を開ける。


 正面に見えるのはイスに腰かけ、右手を頬に付けた制服姿の女性。



 舞だった。



「ま、舞どうしてここに!?」

 彼女は、昔のように俺の前の席についていた。

 まるで元からそこにいたように。


 彼女の外見はあの頃と変わらない。

 少しばかりぶかぶかに見える制服姿も、かなり似合っている薄化粧も、ストレートロングと、ストレートショートの中間のような髪も。


「驚いた? まあ無理もないよね」

 昔のように彼女は髪を触りながら答えた。


「それよりもなんでこ、こうに」

 訳の分からないところで噛んでしまった。

 舞は優しく笑っていた。あの頃と変わらないねと。




私がこの世界を貶めている魔王だよ」


「お、お前が魔王って…… どういうことだよ……」

 俺を包み込むように彼女は言った。



「タスクを待ってたんだよ。私の願いを叶えるためにね」



 言い終わると制服姿だった彼女は、魔王のような禍々しいドレスへと変わっていった。

 彼女の周囲を凄まじい魔力が纏っている。


 はじけ飛ぶような凄まじい魔力が俺に飛んできた。

 魔力、いや吹き荒れる感情を変換したような暴風。

 凄まじい激流のような暴風に流され、そのまま俺は壁に張り付けになった。

 俺は恐怖する――変わり果てた彼女の姿に――ここまでするような彼女の行動に。


 暴風を一身に受けながら、苦し紛れに彼女にこう言い放った。


「なんだよそれッ――願いってなん……だよ」


 台風のような、とてつもない魔力に押しつぶされそうだ。


 彼女は椅子から立ち上がると、ゆっくりと俺の方へと近づいてきた。

 一歩歩くごとに強さが増していく、目の前30センチくらいまで近づくと彼女は俺の顎を、右手で上げる。


「私は学生時代に戻りたいの…… 戻ってタスクとまた一からやり直したい」


 魔力の暴風は止み、彼女は強く俺を抱きしめた。


 その願いは…… 俺が異世界ここに来た理由と同じだ。

 あの時の俺は舞が結婚することが、心の奥底では嫌だったんだ。


 でもこうなることは当たり前だ。俺は彼女に高校を卒業してから彼女に何もしていない。

 どうしようもない俺は彼女を忘れようと頑張った。別な人を好きになろうとした。

 それは逃げだったんだ。舞から逃げる口実を作っていたにすぎない。


 こんな自分が嫌になった。


 何も変わっていない。こんな自分が。


「本当は私が結婚なんてしてほしくなかった――そうでしょ?タスク。ずっと私のことを想っていた。わかるの私にはわかる。だってタスクは私のものなんだから」


 濁流のように彼女は言う。


「でも、なんであの時みたいに私を助けてくれなかったの? なんで? なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?」


 彼女は俺を離す。


「結婚して10年も束縛されてた…… 家からも出してもらえなかった。怖かった――辛かった――悲しかった――もういやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」

 彼女は、何かを怖がるように両手で耳を塞ぎ、ただ叫ぶ。


「舞…… ここにはもう彼はいないんだよ」

 彼女の顔を見て肩を掴み優しく言う。


「だからッ」


 突然と気づいたように彼女は俺を見た。

 瞬間彼女の顔が見えた。目は瞳孔が開き、俺を捕食するような顔だ。

 舞は抜く手も見せず俺の首を掴んだ。


「ガッハッ…… や、やめろ」

 不意を突かれた、苦しい、息ができない。

 彼女の憎しみがこの首を絞めている腕から伝わってくる。


 彼女の右手から”何か”が伸びた。

 得体の知れない、黒い何かが、鋭く、いや太い。


 舞は俺をゆっくりと上にあげると、”何か”を刺すように構える。


「タスク、タスクタスクタスクタスクタスク」


 ”何か”が俺のちょうどヘソ辺りを貫いた。

 そして、みぞおち、右バラ、左肺、胃、大腸、肺、全てを刺す。


 一言一言が重く――絶望が、痛みが刺さる。


 血と肉片が混じりあった赤い物体が舞にふりかかる。


「ガッハッ―― ヴッオェ…… あああああああああああああああああ」


 初めて腹を貫かれた感覚を味わった。痛いという痛覚は無く、ただ熱い、熱いのだ。

 出血多量で頭に血が回っていないのか視界はぼやけてきた。


 どうして俺がこんなことをされなきゃいけない。

 意味が分からない。なんでなんだよ。 


「5年をこの世界で過ごし、ここでタスクを殺して”あの頃”に戻る、それがタロ・マーティとの契約」


 俺を遊び終わったおもちゃのように投げると、すっと何も無かったように彼女は元の舞へと戻った。


「これは仕方のないことなの…… 許して。そして二人でやり直そう」


 かすかな意識の中、彼女が俺を拾い上げ、また抱きしめいているということだけは分かった。


「アメッ――リア……」

 無意識下のなか俺は、アメリアを口に出していた。

 大切な人だったのに想いだせない。


「タスクを殺した! どうして戻らないの? 戻って早く」

 もうこれが誰の声なのかもわからない。

 誰かが与えた衝撃で完全に意識が途絶えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 真紅の月が屋根のように、この世界を覆いかぶさっている。


 朱殷の光が二人を照らす、魔王城の屋上にて、アメリアは一人の男と対峙していた。

 顔を覆うようなフード、大柄な体の男と。


「貴方…… ですか」

 アメリアはか細く大柄の男に聞く。


 彼女は自分の心に驚いていた。それはまだ彼を諦めきれていない感情があったからだ。

 この前には、何も思うことはなく、彼と戦うことができたのに――彼がそばに居なくなり、嘆き、深く悲しんで、タスクのことが大切になったにも関わらず。


「久しぶりだなアメリア…… 今度こそ貴様を殺す」 

 大柄の男は、憎しみの籠った声音でアメリアにそう言い放った。


「担当直入に言います。貴方はマイによって操られています。それでも貴方は戦いますか?」

 アメリアは下を向きながら、彼に聞く。

 彼女は淡い期待をしていた。昔の優しい彼に戻ってくれるのではないかと。

 私のことをまだ想っているのではないかと。


「たわけが…… それでも僕は舞の力に――貴様を倒す」

 壊れたテレビのように変わる彼の人格。

 バーサーカーと化した彼の中に、元の人格はあった。

 彼は本望として舞の力になりたいと思っている。

 それにアメリアは気づく、でも彼女はそんなものは認めたくはなかった。


「貴方は利用されているんです。彼女に!」

 彼女は足掻く、説得むなしくも彼に訴えたかったのだ。

 アメリアの傍からいなくなった時に、言いたかったことを。


 伝えた瞬間、アメリアは嫌悪した。

 タスクに好意を寄せているにも関わらず、まだ彼を諦めていない自分に。

 こんな自分だから彼も逃げてしまったのかもしれないと。

 この前までは、タスクとずっと一緒にいたいと思っていたが、彼を目の前にして変わってしまう自分が嫌になっていた。


「知るか――僕はマイの力になりたい」


 男はきっぱりと彼女に告げた。

 事実を突きつけられ、あっけにとられた彼女には戦闘意欲が無い。ただ呆然としていた。


「僕は彼女の願いのた、め――我はマイ様に忠誠を誓った」

 剣を彼女に向け、諭すように彼は言う。


「私は…… 私はッ……」

 。誰かが背中を押してくれないか。

 こんな時に他人に頼る自分が心底嫌になるアメリアだった。


「戯言はいい、参るぞ――の為に!」

   

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