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「……っ!!」
無数の剣撃が、空間を切り刻むように、一人の女性へと飛び掛かる。
瞬間、俺は後悔していた。
俺は、彼女へと届かない手を伸ばす。
数の絶望が4人を襲う。
そう、ここは史上最強のダンジョン。
それを、経験も満たない俺たちは、攻略しようとしていたのだ。
◇◆◇◆◇
「何このダンジョンの文集…… かなり危ないダンジョンなの?」
3部屋分のベットと部屋中の煤をはたき、寝床の掃除を終えた俺は、文集を読んでいた。
たまたま、ドアの空いていたので、開けると十五畳くらいの広さの書物庫を見つけたのだ。
そして今、ダンジョン書という文集を開いている。
この屋敷のダンジョンを参考にして書いたものらしく、物語としては、物凄い出来になっている。
しかしダンジョンの地図が、ここに書かれてあるなんて驚きだ。
参考にまでと拝借することにするか。しかし主人公が、やけに俺にそっくりだな。
なんて思いながら、読み終えたダンジョン書を持ちながら、この屋敷についての歴史の本を読む。
数分するとアメリア達が帰ってきた。
「佑!ごはんにしましょう」
書物庫の二階から、玄関の方にいるアメリア達が見える。
どうやら外で食べるらしい、本を直し、ダンジョンの書と一緒に、一階へと行こうとした。
書物庫に出る、その時だった。
後方からガタガタと物音が聞こえる。まるで小さい檻の中で、凶暴な獣が暴れているような音。
空中は冷え切り、絶大な存在感が俺を見ている。
まるで、ここら一帯の空間を、統べているような……
――恐るおそる、後方を確認する。
「ちょっと! ここをあ……ないか! 佐部佑!」
右手の棚から一つとびぬけて大きい本が、凄まじい勢いで揺れている。
声の主は、あの本からだろうか。張り詰めた空気とは違い、間抜けな男の声が聞こえる。
俺は全速力で逃げた。
そりゃそうだ、俺はお化け屋敷に入れないほど、お化けが嫌いなのだ。
いや別に幽霊が嫌いとかではなく、ドッキリ系が苦手なだけだよ。
ダッシュでアメリア達がいる外へと走る。
外へと着いた、アメリアとユウが朝食の料理をしていた。
「佑そんなに急いで、どうしたんですか!」
「ほ、本がッ…… 喋って……」
ぜえぜえと息をしながら、アメリアにありのままを伝える。
「本↑がしゃべるわけないでしょ」
プーゲラチョと言わんばかりに、ユウは俺をバカにしてきた。
これお前の屋敷だろうが、なんでお前は知らないんだ。
「気になりますね…… すこし私が行ってきます」
どうやらアメリアは怖いものが好きなようで、ワクワクしているように聞こえる。
「待って、俺も一緒に行くよ。確か俺の名前を言っていたから、何かがあるのかもしれない」
幽霊は苦手なんだが、ここはアメリアを一人にするわけにはいかない。
確かにあの本は「佐部佑」と俺の本名を言っていた。だからというかここで、ひくわけにもいかない。
アメリアと共に二階の書物庫へと着いた。
彼女はいまだにワクワクしているようで、勢いよくドアを開ける。
すると一人のおっさんが、全裸で横たわっていた。
すぐそばには、あの揺れていた大きな本が落ちている。
この本からおっさんが出てきた痕跡がある。
「きゃっあ!!」
アメリアは、全裸のおっさんを見ると、恥じらうように顔を隠している。
彼女は、何か怖いもの見たさにワクワクしていると、全裸のおっさんを見てしまったのだ。
俺もゾッとしたけど、アメリアは、マジものの怖いものに出くわしてしまったんだな……
そのままにしているのもできない。
気絶していたおっさんを、下まで引っ張り、荷物車で寝かす。
「この↑おっさん、どうするん?」
ユウは汚物を見るように、全裸のイカツイおっさんを見ていた。
おっさんが死んでしまうのもアレなので使っていない布を体にかけてあげていた。
顔にも布が被せてあり、お葬式のようでなんとも言えない俺だ。
「とりあえず起きるまで様子を見よう。それよりもお腹すいたよ、おか、アメリア」
お母さんと言ってしまいそうだった……
小学生の頃に、先生にお母さんと言ってしまって、クラスの皆に笑われた過去を思い出す。
あの世界にいる、母さんたちは元気なんだろうか。もう会えないとなると悲しくなるな……
「これから朝食を作りますよ。手伝ってもらえませんか?」
「いいよお」
すっかりアメリアが、俺の保護者のようだ。
さっと食事を終えると全裸のおっさんが起きた。
「ふぁーフィックション!! ここは?」
なんてクシャミなんだよ。
こんなイカツイ顔は、どこかで見たことがあるような……
「転生の時のおっさんじゃないか!? どうしたんだよおっさん」
やっと思い出した。転生の時にお世話になったおじさんだ。
「よっこら、しょういちっと。前にも一度会っただろう、名前はアスクレーピオス……
アスクって呼んでくれ。それより佐部佑、君に一つ、言わなければならないことがあるんだ」
アスクは、おっさん臭く座ると、真剣な顔で言う。
「もしかして、あの時の神様ですか?」
アメリアが聞いてきた。彼女もアスクのことを知っているらしい。
「アメリアさんか、よかった無事に二人そろって、旅をしているんだね。アメリアさんも一緒に聞いてほしい」
仲間外れになったユウが端に座ると、不機嫌な顔で俺たちの会話を聞く。
「今の君たちの旅の目的は分からない、だけど今は魔王を倒してほしい」
我が子に言い聞かせるように彼は言う。
彼は続ける。
「堕神の中の一人、タロ・マーティ…… 奴が魔王の背後にいて、この世界を手に入れようと、企んでいるんだ」
「それが真の黒幕というやつ?」
この時ばかりは、俺は察しが良かった。
「そうだよ、奴が黒幕で間違いない…… まずはこの世界の事と、事の発端、奴の狙いについて話そう。
僕たち神は、ほどほどに世界干渉の力を、この世界、そしてもう一つの世界で調和をしているんだ。
人々を幸せ過ぎないように、不幸を調節したり、世界が崩壊しそうになると、佑君の世界から英雄をこの世界に呼んだり」
アスクが言う。ふむふむと3人がうなずく。
「とにかく、全てはバランスでできているんだ。このバランスというのがとても大事なんだよ。
それが、壊れてしまった…… それは佑君が、あの世界に生を受けた瞬間でもある。
僕は、恐らく原因は他にあると見ている。気にしないでくれ、断言はできないけど君のせいではない」
ユウが俺の方をにらんできた。いやいや俺のせいではないって言ってるじゃん。
「奴の真の狙いはワールドクロス。ここの世界と、佑君が住んでいた世界を衝突させようとしている。
そんなことになると、ここの世界、佑君の世界の人たちが争い始め、沢山の命が散るだろう」
ギャグ多めの作品だったのに、いきなり急展開かよ。何これ俺どうすんの?
「戦いと恐怖、絶望…… それら全てに埋め尽くされると、タロ・マーティの占拠が始まる
それを止めるべく、僕は行動しているんだ。だけど僕は医学の神、世界には直接的に、干渉することができない。
だけど物や人を別世界へ動かすことはできる」
そんな自信満々に言われても…… 結局は魔王と戦うことになるのか……
「佑君、君は、あの世界一の英雄気質だ。それはあの世界の歴史に名を馳せた、英雄達すらも軽く凌駕するくらいだ。
君なら神に、いや運命すら倒すことができる。僕に協力してほしい、どうかこの通りだ」
彼は俺に土下座をした。
「……。そんな壮大なことを、突然に言われたら納得も理解もできないよ」
アスクの言葉を信じて、俺が世界を救えるなんて思わない。
というよりも突然すぎる。もうちょっと異世界ライフを楽しみたいのに。
俺は続ける。
「他にもお偉い神様が、何かできたかもしれないよね?」
おそらく全知全能の神がいるだろうと思う。
初めて会った時は、「ゼウスに借りがある」とか言っていたはずだ。
「ここで彼に借りを返すことになると、君が高校時代に戻れなくなる……」
この人律儀すぎるだろう…… 世界の命運がかかってるなら、俺ぐらいどうってことないのに……
「ん、待て↑……? じゃあなんで、佑は、この世界に呼ばれたん? 佑を呼ばずとも↓、偉い神様に頼めばよかったのに」
ここぞとばかりに、ユウが重要な質問をする。
たしかに俺を呼ばずとも、ゼウスやらなんやらに頼めばいいじゃないか……
ユウって頭がいいな。うん。
「彼は『問題が起きたなら、そこで対処しろ』って言うほど、徹底して僕たち、そしてこの世界に干渉をしないんだ
だから最高の英雄気質である佑君を、この世界に転生させた。僕たちの尻拭いをさせてしまってすまない佑君。」
職務放棄もいいところだな。
「別にいいよ、こうして転生したおかげで、俺はアメリアに会えたんだ。逆に感謝してるくらいだからな
だからというか、もうあの世界には戻らなくてもいいと思ってるよ。ここでアメリアと、幸せに暮らそうと考えるんだ」
なんてカッコいいことを言ってみた。アメリアの反応が気になり、アメリアをちらっと見る。
「佑…… ///」
アメリアが顔を真っ赤にして隠している。
か、かわいい。
「アスク、転生特典のお願いがあっただろ、他の願いを叶えさせてくれよ。俺たち3人に、この世界で一番強い武器をくれ」
機転が利いていた俺は、次のようなことを頼んだ。
もう、あの世界に戻れないとかどうでもいいんだ。
俺はアメリアとこの世界で幸せに暮らすんだ。
「わかった。そう言うと思って準備していたよ」
穏やかな表情でアスクはうなずいた。
そして、正面に手をかざす。
すると巨大な門が彼の目の前から飛び出してきた。まるでどこかの遺跡のような門だ。
「これはレプリカすぎない。だけど性能としては、本物と大して変わらないだろう」
巨大な門が開く、そしていつの間にか門は消え、俺らの前に光輝いた武器が浮かんでいた。
眩しく、どのような形をしているか、全くと分からない。これはカッコいい武器キボンヌ。
「アメリアさんにはエクスカリバーの剣、佑君には伝説の盾、ユウさんにはカドゥケウスの杖」
アメリアは黄金に輝いた剣を持っていた。
ユウはどこかの魔法ファンタジー映画に出てきそうな杖を持っていた。
そして俺は…… ん? 何だこれは…………
お鍋の蓋であった。
「おい! 何だよこれ! 今頃、銅のお鍋って田舎に行かないと見れないよ! それよりも、なんで俺がお鍋の蓋なんだ!」
ふざけるな、なんだこれは!
「あ、時間が切れてしまった! じゃあ魔王討伐よろしく頼むね!」
と言うと、アスクは嵐のように彼は消えてしまった。
言うだけ言われた俺たちは、途方に暮れていた。
「変な↓神様ね、とりあえず今日は遅いから寝て↑、明日にダンジョン行こう」
「そうですね」
「そうだな」




