第9話 新しい仲間が加わる
ラメセスと交戦するということは、エルフの剣聖と戦うということになる。
エルフの剣聖と戦うということは、この時点で作中トップクラスのキャラと戦うということだ。
そして俺は悪役レッド・モルドロス。
観客的には俺に負けて欲しいところだろう。
それでも、俺は観客を喜ばせるつもりはない。たとえ転生したキャラが主人公でなかったとしても、俺にとっては主人公だからだ。
レッドとして息を吹き返して18年。
もう俺はレッド・モルドロス以外の何者でもない。
――だから俺は、ラメセスに勝ちたい。
平凡で何の取り柄もなかった。
誰かの言う通りに勉強をして、働き、自分がどうしたいとか、自分がどうありたいとか……そんな自分の理想なんて考えたこともなかった。
学院で努力を重ね、今までの自分とは違う、自分の意志で人生を歩めるような自分になれたんじゃないかって、少し思う。
だから、それを証明したい。
強くなったんだぞ、って。なぜなら俺はレッド・モルドロスであるだけではなく、桐生英介でもあるのだから。
「聞いたよ、君はダスケンデール学院の歴史上、最強の生徒なんだってね」
美しい剣を握るラメセスが言った。
「そういうことはないかなーと」
「謙遜しているんだね」
「いや、買い被りすぎだと思いますけど」
謙遜しているつもりはなかった。
とはいえ、ギルドでも思ったけど、やっぱり俺の名前って結構広がっているらしい。
罪な男だぜ。
「君の鍛えられた剣技を見せてもらうことにするよ」
ラメセスが踏み込んだ。
すぐさま剣が振り下ろされる。
俺は後ろに飛んで相手と距離を取った。
こうして向かい合うだけでわかる。
ラメセスの力は、俺がこれまで対峙してきたどんな相手よりも強く、磨かれている。
そりゃあ、相手は長寿の種族。何年も何十年も鍛錬を重ねてきたわけだし、ぽっと出の俺が容易く勝てるものじゃないこともわかっている。
それに、相手はそのエルフでありながら、剣聖だ。
剣を好んで使わない種族でありながら、彼は剣に人生をかけている。
そう、ラメセスは剣で魔王を倒すことを望んでいた。
結果的には主人公がラメセスの剣で代わりに倒す、なんていう感動的なのかよくわからないことになるわけだけど、彼の願いは剣での魔王討伐――冒険者として生きていこうと思っている俺とは違い、もっと偉大で、崇高な目標を定めている。
「何を考えているんだい?」
ラメセスが次の攻撃に移った。
俺も剣ですぐに防ぐ。
ふたりの剣がぶつかり、火花が散った。
ラメセスの剣を押す力が、直に伝わってくる。
俺のかかとが地面にめり込む。
――ッ!
なんて威力!
脚力で分散しようとしても、かかる負荷は一向に軽くならない。
再び後ろに飛び、攻撃を流す。
こうでもしないと、俺のアキレス腱が切れる。
でも、さっきの攻撃は無駄ではなかった。ひとつ、はっきりしたことがある。
純粋な力の勝負、そして剣術の勝負では確実に相手に分がある。とすれば、俺はその勝負に持ち込ませるわけにはいかない。
火事場の馬鹿力がどうとか言う人もいる。
何かの試合とか、絶対に負けられない状況とか……そういう時に自分の持っている以上の力が出ると、言う人がいる。
でも、それは違うと思う。
火事場の馬鹿力も、結局は自分の努力で手に入れた力だ。
ただ、100パーセントの力を発揮できているというだけ。持っている以上の力が急に湧き出てくるなんて、そんな都合のいい話なんてあるはずもない。
前世でろくに努力もしなこなかった男が、努力で何かを得られるようになった。
それだけでも、十分な成長に値するんじゃないだろうか。
そして俺は今、新しい世界で、トップクラスのキャラと交戦している!
あまりにかっこいい状況すぎて、女子はみんな惚れてしまうはずだっ!
罪な男だからな、俺は。
「――グッ」
剣と剣による美の争い。
どちらの剣術が美しいか。
ラメセスと剣技を競い合う。
シャロットは大声で何か応援してくれているらしい。でも、途中で「結婚」とか「愛の一撃」とか聞こえてくるのは……うん、気のせいということにしておこう。
俺としては、これ以上ラメセスと剣で渡り合える自信はなかった。
こっちが息を切らしているのに比べ、ラメセスはまだ余裕。気を抜いているような様子はないものの、体力的にはまだまだいけそうだ。
なら、ここは剣技以外で努力の成果を発揮しないと。
剣を構える腕が悲鳴を上げ、防げるはずの攻撃もかわすようになった。
距離を取りながら、押し込まれないように踏ん張っているつもりでも、ラメセスはそんなことお見通しだと言わんばかりに攻めてくる。
「剣技ならBランクの力量を遥かに超えているようだね」
ラメセスが感心するように呟いた。
その言葉に嘘はない。
開始1分ってところか。
ようやくラメセスにも疲れが見えてきた。
お互いに全力の対決だ。全力で50メートルを走ると、凄く疲れるだろ? それはたった7秒とか8秒くらいの話だ。
この戦いは、その全力に加え、増えていく切り傷、剣の重みというスペシャル特典までついている。
それを1分以上続けていれば、流石のエルフも疲れるわけだ。
正直もう体力は限界だった。
俺はチート能力なんてものは持っていない。努力で手にしたものも、純粋にヒューマンという域を超えないだけの、素朴な強さだ。
努力と努力のぶつかり合い。
素直に能力だけで勝てるはずもない。
相手は、俺の何倍もの時間努力し続けてきたのだから。
この状況で、ラメセスが持っていなくて、俺が持っているものがいくつかある。
当然それは仲間であるシャロットも入るけど、俺が言いたいのはそういうことじゃない。
――情報だ。
俺は彼のことをよく知っている。
よーく知っている。
好きな食べ物はアスパラガスで、得意料理はアスパラガスの肉巻き。
兄弟はおらず一人っ子で、超がつくほどの努力家だ。
エルフの誇りはあれど他種族を見下すことはしない。周囲に優しく、自分の目標に忠実だ。
そして弱点。
完璧なように思えるラメセスにも、弱点がある。
それは――。
「うぁぁあああああああ!!」
「やめてくれぇぇぇええええ!」
大声だった。
エルフの鋭い耳に、いきなりの大音量は刺激が強い。
セコいって?
いやいや、俺の弱点が脇の下だと知らない相手が悪い。
まあ、ラメセスも今後この弱点を解決する方法を編み出すわけだけど、それは物語の進行と共にわかっていくはずだ。
動転して尖ったエルフの耳をおさえるラメセス。
俺はというと、その隙に無防備な腹を剣で殴り、そのまま彼の首元に当てた。
「俺の勝ちだ」
そう宣言する。
すると、ラメセスは大声で笑い出した。腹から、心から。
剣を地面に置き、降参の意志を示す。
「こんな面白いヒューマンには出会ったことがない。降参だ、レッド・モルドロス。頼みなんだけど、僕も君のパーティーに入れてくれないかい?」
《次回10話 架空の婚約を祝福される》




