魔将ドラゴン・ソードクライメイト
情報にあった場所にたどり着くと、ムニンは空を見上げた。
「時間はー?」
「今から6日前の正午」
「わかった!」
ムニンは緩やかに瞳を閉じると、次いで大きく目を見開いた。
瞳が小刻みに揺れて。
何度も素早くまばたきを繰り返す。
「……見つけた」
ムニンが言った。
「どうする? このまま過去を遡るか、過去から先に進んでくか選んで」
視線は虚空。
俺には見えない怪鳥の姿を凝視したまま、ムニンが訊いた。
「遡ろう」
俺が答えるとムニンの視線が動いた。
首が右から左へと弧を描いて。
その視界に映すのは過去。
過去の光景をさらに巻き戻し、怪鳥の来た方向へと視線を移す。
「あっち」
俺はムニンの指差す方角を確認すると、2人でその方向に向かった。
借りた馬を走らせる。
「思ったより遠いな」
こまめに休憩を挟みつつ、馬を走らせてもう日も暮れようとしていた。
方向としては山脈の方。
国の中心に向かってる。
夜を明かし、馬を走らせ、また夜を過ごして。
怪鳥の影を追い続ける俺とムニン。
その時、強い風が吹き荒れた。
土地から滲み出していた薄闇が空へと流される。
見上げた先には巨大な影。
逆光で全容は掴めない。
だけどその姿を俺もついに捉えた。
凄まじい速さで俺達の頭上を過ぎ去ったのは件の怪鳥のはず。
俺は馬を走らせた。
だけど距離は開くばかり。
「離されてるよ」
ムニンが言った。
上体をよじって俺に振り返ると、キラキラとした瞳で訴えてくる。
飛ぶ相手に陸路で追うのも不利、か。
俺は周囲の闇に意識を拡げた。
羽ばたきで宙に舞った闇も俺の元へと流れに逆らって集まってくる。
それを見てムニンがはしゃぐ。
おとなしくして欲しい。
俺はムニンを抱えて馬の上に立った。
今も疾走する馬と並走するように、生み出したブラック・ドラゴンが空を飛んで風を切る。
俺はブラックドラゴンに飛び移った。
すぐにムニンをおろしてドラゴンの首にしがみつかせる。
サラサラと流れ落ちる黒い塵。
。
ブラックドラゴンが陽光に焼かれ、その鱗が塵となって剥がれ落ちて。
翼の皮膜も所々に穴が空いていく。
「時間がない。ブラックドラゴン、あいつに追い付け!」
俺が命令するとブラックドラゴンが咆哮を上げた。
羽ばたきを力強く繰り返して上昇と同時に加速。
怪鳥へと迫っていく。
だけどその時に光。
怪鳥が目映い光に包まれた。
その翼から拡がる光のヴェールに触れると、触れた箇所からブラックドラゴンが灰に変わる。
崩れ落ちるブラックドラゴン。
俺は闇を集めてブラックウルフを。
次いでその背に着地すると同時、ムニンと一緒にその背に股がる。
気付くと距離をまた離されていた。
「でも逃がさない」
俺は闇を操り、進行方向の先にオーガ。
そしてオーガの構えた大剣へとブラックウルフを跳躍させて。
その反動とオーガが剣を振る勢いを利用して砲弾のような勢いで跳んだ。
ゴウゴウと風を切り、怪鳥の脇をすり抜けてその前へ。
俺はブラックウルフを瞬時に分解。
粉塵のような闇が拡散すると、周囲の闇を巻き込んで闇が圧縮。
再び竜の体躯を形作る。
俺はブラックドラゴンを操り、身をひるがえさせた。
そして衝撃。
ドラゴンが怪鳥に取り付いた。
その鋭い爪と牙を突き立てる。
『──────!』
甲高い声音で怪鳥が鳴いて。
1つ、2つ……3つ、4つ、5つと翼が再び光を纏い、その身体が加速すると同時に振りきられた。
ブラックドラゴンはその余波で半身が灰となって消し飛ぶ。
「ブラックドラゴンなんかじゃダメだ。より、強力な……!」
空中に投げ出された俺はムニンを抱き寄せた。
ぐるぐると天地が回りながら俺とムニンが落下する最中。
俺は膨大な闇を押し固めて新たな竜を生み出す。
生み出したのは黒い皮膚と深紅の甲殻、鮮やかな翠の角を持つ飛竜。
その身体はブラックドラゴンの倍。
尾を入れると3倍近く。
その4枚の翼の骨格は巨大な手のようで、皮膜には圧縮された闇を使って。
その闇を吐き出すことで加速する。
この竜の名はドラゴン・ソードクライメイト。
後に6魔将と呼ばれる存在の中でも最凶の魔物。
俺はソードクライメイトを駆り、再び光の怪鳥へと迫る。




