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第4王女の帰還

 借りていた部屋を引き払い、俺とフラン、ハティとスコル、そしてムニンは街の出口に向かった。


 ついに東の街を離れる。


 思えばこの街に来てから色々な事が。


「────お待ちしてましたわ、リヒト」


 だけど感傷に(ひた)る暇はなかった。


 本来は往来が激しく喧騒(けんそう)が響く大通りが、今はしんと静まり返っていて。

その真ん中で、待ち構えるように第1王女リーネ=ヒルデガルド・ロア・キングスブライドの姿があった。

その隣に王国騎士のレズモンド。

さらに複数の騎士が物陰から現れて俺達を取り囲む。


 よりにもよって、この街を離れようとした日に。

あまりに運がない。


 リーネ=ヒルデガルド王女はフランと同じ自身の灰色の髪を撫でた。

こちらを見てほくそ笑んで。


「偶然ではございませんのよ。全て筒抜(つつぬ)けでしたの」


「何の用?」


 フランが(たず)ねた。

フードの陰のその顔には焦り。


 リーネ=ヒルデガルド王女はその表情を見透かしたように、フランに嗜虐(しぎゃく)的な笑みを向ける。


「今日はエーファではなく、あくまでリヒトに用がございましたのよ」


 リーネ=ヒルデガルド王女はそう言ってけらけらと笑うけど、言葉とは裏腹に俺達を誰1人として逃がすつもりはなさそうだ。

周囲を固める騎士達がにじり寄ってくる。


「リヒトんに?」


 フランが呟くと、リーネ=ヒルデガルド王女がこくりとうなずく。


「保留していた王国騎士へのお誘い、受けてくださる決心はついたかしら」


 リーネ=ヒルデガルドはいつかの時と同じように、受けて当然、感謝して()びへつらうのが当たり前と言わんばかりの態度。


「────だからそれをやめなさい」


 また何も言ってないのに。

俺の表情を読み解いた王女殿下が言った。

相変わらず断るという選択肢を入れたくなくて、俺に返答の隙を与えない。


「これほどの栄誉を前にどうして断ろうだなんて思えるのかしら。ねぇ、レズモンド」


「同感です。私にも理解できません」


 そう言ってレズモンドはリーネ=ヒルデガルドの陰で金のジェスチャー。

金払いがいいのに断る理由が分からない、と仕草と目で訴えてくる。


 見るとレズモンドが腰に差した剣は真新しく高価なものに変わっていた。

これがレズモンドの言っていた経費の力。

おそらく本人は銅貨1枚すら払わずにその剣を帯びている。


「ね、ね。誰あれ」


 ムニンがリーネ=ヒルデガルド王女に指を向けた。

きょとんとした顔で首をかしげる。


「恐れ多いぞ!」


 側にいた騎士の1人から怒号。

(たずさ)えた槍をムニンに向けた。


「第1王女殿下への無礼。この場で処刑してくれようか」


「子供でも守るべき礼節があろう」


 周囲の騎士達から鋭い眼差しを向けられたムニン。


「無礼? 礼節?」


 フランがムニンを(かば)うように前へ出た。

大きく息を吸うと、意を決して被ったフードを取り去る。


 現れたのは仄かに紫色に光を反射する灰色の髪。

まだあどけなさの残る顔は対峙(たいじ)するリーネ=ヒルデガルドとよく似ていて。

その(りん)とした青い瞳をまっすぐ向ける。


「私は第4王女エーファ=フランシスカ・ロア・キングスブライド! 街の往来を占拠(せんきょ)し、武器を(もっ)て民を取り囲む事のどこに礼節がありますか。第4王女として命じます。その武器を下ろしなさい!」


 フランの言葉に、騎士達にどよめきが広がった。


「そしてリヒトを王国騎士へと推薦するのは私です。ギルドで多くの実績を詰み、何よりも命を狙われた私を救ってくれた。国王陛下への謁見(えっけん)と共に、私がこれを進言する」


(わたくし)がそれを許すとでも?」


「少なくとも今回の件、お姉さまの許可は要りません」


 フランが俺の手を取った。


「リヒトんはお姉様なんかに渡さない」


「それは残念ね。貴女(あなた)の意思に関わりなく、(わたくし)は1度欲しいと決めたものは必ず手に入れる主義ですのよ」


「王位継承権も?」


「もちろんですわ」


 リーネ=ヒルデガルド王女がにやりと笑う。


 そしてあれよあれよと言う間に、俺達は王城のある王都へと半ば連行に近い形で向かって。

フランによる進言で俺の王国騎士への入団テストが行われる運びとなった。


 その前にまずは行方不明となっていたフランが王のもとへ向かい、その無事と帰還を示す。


「本当にエーファ=フランシスカなのだな。よくぞ無事で」


「お久しぶりでございます。国王陛下」


 フランの無事に安堵する国王に向かって、フランは深々とお辞儀をした。


「それでその者が」


 国王は俺へと視線を移した。

値踏みするように俺の爪先から頭のてっぺんまでを観察する。


 俺もフランにならって深々とお辞儀。


「リヒトと申します」


「彼は私を多くの危険から守り、ギルドでの任務を通じて多くの民に貢献してまいりました。私から改めて彼の王国騎士への推薦をさせていただきます」


 俺の全く予期しないタイミングで。

突然。

ついに。

俺は当初の目的だった王国騎士への道を一気に進めることになった。

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