王国騎士への誘い
「光の属性適正者、だと……?」
俺の剣を見てレズモンドが言った。
だけどもちろん違う。
俺は光と対をなす。
そして光よりも希少な。
世界でただ1人の、闇の属性適正者だ。
この光の刃の発動条件は大まかに2つ。
周囲が闇に飲まれていること。
そして、強い輝きがあることだ。
俺は剣身に高濃度かつ薄く闇の層を。
そしてその上にさらに、闇を操作して闇の存在しない無の層を重ねていた。
光と闇は視覚的にも相殺しあう。
闇の濃度が高まると光があっても暗かったり遠くまで光が届かないのと同じ。
闇がなければそこにある光はより強く輝く。
今俺の刃に纏って見える光はレズモンドの炎の輝きだ。
「まぁ、驚きましたわ。まさかレズモンドの剣が折れるなんて。しかもあなた、光の属性適正でしたの? あの凄く希少な」
リーネ=ヒルデガルド王女が言った。
そう言って俺を物欲しそうに見る。
「……ふふ。いいわ、この花は全て差し上げましょう」
王女は握っていた花を投げ捨てた。
もう彼女の興味は花にはないようだ。
「代わりに。貴方、私のものになりませんこと?」
そう言って俺に手を差し出す。
「王国騎士の栄誉に興味はございませんかしら? この私の護衛となって、この国の栄えある未来を守る大役を務めるチャンスを与えてあげましょう」
その突飛な申し出を聞いて、従者達の顔にわずかに困惑と呆れが浮かんだ。
「王女殿下、あまり勝手をされては」
「お黙りなさい、レスモンド。貴方は私の意向に逆らうおつもり?」
「はは、滅相もございません。王女殿下がお望みなら。彼を推薦する際には自分が彼の実力を団長や他の団員達に証言いたしましょう」
レズモンドは真顔から一変。
王女の一声で態度を変えて。
にこにこと愛想笑いを浮かべて答えた。
見るからに白々しい態度。
だけどリーネ=ヒルデガルド王女はそれを見てにやりと笑う。
「よろしい。そして貴方のそういうところが私は好きよ」
「恐れ入ります。王女殿下様」
わざとらしい会釈をするレズモンド。
どうやら気心の知れた仲のようだ。
レズモンドは折れた剣を鞘に納めた。
「あなた名前は?」
リーネ=ヒルデガルド王女が俺に訊いた。
「リヒトです」
「そう。で、貴方────」
この王女。
改めて訊いておいて、結局名前を呼ぶつもりはないらしい。
「返事はまだかしら」
腕を組んで俺を見つめた。
一拍の間をあけてため息を漏らす。
「不敬よ。私から誘いを受けて2つ返事で承諾しないなんて。貴方のような下民にこの私が声をかけて差し上げたのよ? 泣いて喜んで私に下僕としての忠誠を誓ってしかるべきなの」
王国騎士への誘いはとてつもなく魅力的だ。
思い描いていた予定を一気に先へと進める事ができる。
第1王女の後ろ楯が得られれば国王との謁見の機会も増えるし、信頼も得やすいはず。
だけど言ってる事が無茶苦茶過ぎる。
困ってる人がいるのに花を独占しようとしたり。
俺に王国騎士をけしかけて実質、処刑をさせようとしたり。
レズモンドはかなりの実力者だ。
騎士団でもヴィルヘルム様以外にここまでの手練れを見たことはない。
俺じゃなければ──いや、騎士団にいた頃の俺でもおそらく殺されてた。
大した理由もなく思い付きで人を殺させるような人間に仕えたいなんて誰が思うだろうか。
それに今ここでこの申し出を受けるのは、俺に協力してくれてるフランへの裏切りな気がした。
「…………ふむ」
レズモンドは俺の葛藤を察したのか。
王女に見えないよう体の陰で。
親指と人差し指を輪っかにしてジェスチャー。
“金払いは良いぞ”と告げてくる。
ジェスチャーに気付いた俺に、こくりとうなずくレズモンド。
いや、金の問題じゃないんだけど。
首を縦に振らない俺にレズモンドは首をかしげた。
曇りのない瞳で俺を見て。
だって金が全てだろう? と目で問いかけてくる。
この人、仮にも騎士でありながら誇りや矜持なんて欠片もない。
「さて。いい加減、答えを聞かせてもらいましようか」
苛立たしげに。
だけと断られるなんて微塵も思ってない顔で。
王女は俺の答えを待っている。




