拐われたお姫様
あえて拐われて一網打尽。
悪鬼完食を目論んだハティ。
ゴブリンは最弱の種族の1つだが、一定数以上増えてから行う『繁殖』の能力が厄介。
初期の掃討を怠ると、その能力で数を爆発的に増やしてしまう。
でもハティの闇喰らいの力があれば数は問題じゃない。
能力と正体さえバレなければ良い。
そう思ってた。
────でも、問題が起こった。
「フランどのが、拐われてしまった」
雇われた斥候の男が言った。
黒衣に身を包んだ険しい顔のおじさん。
彼が言うにはフランがブルー・ゴブリンに拐われたらしい。
ハティを探しに出ていってしまったフランの姿がどこを探しても見当たらない。
そしてフランが最後に目撃された先で、ゴブリンの足跡をおじさんが確認している。
「なんでそうなるんだ」
俺は次々と起こる問題に頭を抱える。
東の街から少し離れた山あいにある、依頼のあった町へと赴いた俺達。
現地でフランの雇った斥候と後衛のボウガン使いと合流。
依頼主の町長から話を聞いて。
岩山にある洞窟を根城としているブルー・ゴブリン討伐のために用意を進めていた。
ちゃんと準備さえすればそれほど難しくもないクエスト。
4日ほどで準備を整えるはずが、まさかの着いた初日から──いや今すぐにでもゴブリンの巣に乗り込まなきゃいけなくなった。
「『繁殖』される前に助け出さなくてはなりませんわ。その行為を考えるだけでもおぞましいですが、何よりフランさんの命がかかっています」
ボウガン使いのお姉さんが言った。
魔物は闇から発生し、生物のように生殖能力はない。
だけどゴブリンだけは違った。
自分達の余剰分の闇を人間の内部に注入。
自然発生するだけでなく、闇を凝縮させることで意図的に新しい個体を作り出す。
そして生まれたゴブリンは母体となった人間の腹を破って出てくる。
そうなればその人物はもちろん死んでしまう。
「うう……ハティちゃんがごめんなさい」
スコルが泣きそうな声で言った。
その隣には空腹でダウンしてるハティ。
空腹でハティが物陰で気を失ってる間に。
彼女を心配して探していたフランが町の外れへと迷い込み、そこでブルー・ゴブリンに拐われたらしい。
「最近は町の近辺でもゴブリンの姿が確認されて、町民達は町の中心部から出ないようにしていたらしいわ」
「そしていよいよ、数の増えたゴブリンどもが町に入ってくるかも知れないからギルドに依頼した」
お姉さんとおじさんが言った。
「嬢ちゃんは危機感が無さすぎだ。小さな子供でもゴブリンが出たって聞いたらもっと慎重に動くぜ」
アイゼンさんが呆れて頭を掻く。
「さて、どうするか……」
俺はどう動くのが最善か考える。
最初は俺1人で乗り込むのも考えた。
俺の魔物を生む力ならゴブリンにその能力も数でも圧倒できる。
でも問題は俺が生み出した魔物がどこまで対象を識別できるか。
フランがすでに闇を植え付けられていた場合、その内部の闇目掛けてフランに襲いかかる可能性だって考えられた。
魔物を使うことに危険性があるなら、人数が多い方が有利か。
さらに闇に侵されていた場合、俺の闇の操作で取り除くこともできると思うけど不安もあった。
ここは闇だけを喰らって他にダメージを与えないハティの闇喰らいの力が欲しい。
「ちょっと失礼します」
俺はハティを連れて別の部屋へ。
スコルがその後ろを、とことことついてくる。
俺は扉を閉めると鍵をかけて。
次いで周囲の闇に意識を広げて掌握。
この町はまだ魔物が生まれるほどではないけど、やはり闇払いが久しく行われていないのか闇に包まれていた。
俺はその闇を集めて、それをハティの口に押し込む。
「……ん、薄味だけど悪くない」
もごもごと口を動かし、闇を咀嚼してハティが目を覚ました。
「今からゴブリンの巣にいく。フランが闇を植え付けられてるかもしれないし、何より人手が要る。きてくれ」
俺はまだぼんやりとした様子のハティに言った。
「それって、いっぱい食べられる?」
「好きなだけ」
「そっか」
ハティはお腹をさすると、並んだ鋭い牙を剥いてにやりと笑う。




