双狼の助っ人
半人半龍の魔物──ドラグソーサラー(と、ひとまず呼ぶ)が詠唱を始めた。
人外の言の葉を紡ぐ度に空中に光の流線が走り、魔法陣を形作る。
判然としないが位はおそらくブラック相当以上。
魔法を撃たれたらどれ程の被害が出るか予想もつかなかった。
「魔法陣の完成を阻止しないと」
俺が言った。
だけどこのままじゃ間に合わない。
「仕方ねぇ」
その時、アイゼンが剣を使った。
魔物の素材を核に使った機構剣。
柄にあるダイヤルをひねり、次いで引き金を引く。
先ほどと異なり、噴き出す爆炎は鍔と柄の後方から。
十字に吐き出された紅蓮の炎によってアイゼンが魔物目掛けて飛んだ。
凄まじい加速で魔物に向かっていく。
ドラグソーサラーは迫るアイゼンを追って魔法陣の向きを変えた。
魔物の群れの中心へと飛び込んだアイゼン目掛けて魔法が放たれる。
「これで3発……!」
アイゼンが空中で身をよじりながら剣を振りかぶった。
ダイヤルを再び回し、引き金と共に擊鉄が薬室を打って。
剣の峰から炎が躍り、振り抜いた勢いと炎の加速で軌道を変える。
四方から放たれた魔法を回避し、勢いのままにドラグソーサラーを斬りつけるアイゼン。
その硬質な体表を高速回転する斬擊が走り抜け、黒煙と炎の轍を刻む。
「うまく逃げやがった!」
試験官は緊張の面持ちを浮かべながらもどこか楽しげに言った。
そして衝突する魔法が激しい衝撃波を生む。
アイゼンは衝撃波に煽られたが、闘技場の壁に叩きつけられる間一髪で体勢を変えた。
壁に着地すると、すかさず機構剣を構える。
俺は試験官の張った水流の壁で衝撃波を逃れていた。
後方にいる冒険者志望の人達も守るために広く壁を展開していて、試験官はすぐ攻撃に転じれない。
衝撃波が巻き上げた粉塵に紛れ、俺は一瞬だけ本気を出した。
俺を包む闇が膨れ上がる。
水流の壁が消えると共に。
俺は身体から闇をたなびかせ、ドラグソーサラーの1体へと肉薄した。
龍の脚を斬りつけてその闇を奪い、肥大化した闇の刃を大きく一閃。
巨大な三日月状の斬擊が放たれる。
俺の放った黒の斬擊は3体の魔物に命中。
だが攻撃の威力を十全に引き出すには闇が足りなかった。
フェンリルが生んだ魔物を薙ぎ払った時ほどの力はなく、ドラグソーサラーは反撃のために再び詠唱を始める。
粉塵が、晴れる。
これ以上は俺が闇使いだとバレかねない。
一瞬の葛藤。
だけど逃げ遅れてる客席の人達や他のみんなを守るためにはそんなこと言ってられない。
俺は闇をこのまま纏って戦おうと。
「うぉぉおおお……!」
だけとその時。
雄叫びと共にアイゼンが再び魔物へと飛んだ。
とっさに俺は闇を弱める。
アイゼンは爆炎を噴射して魔物へと取り付き、その切っ先を魔物の胸へと押し付けて。
「爆ぜろ!」
再び点火。
アイゼンの剣の切っ先が凄まじい勢いで突き出した。
でもその強固な鱗を穿つには至らない。
だけどそれを予期していたようにアイゼンはすぐさま引き金を絞った。
2度目の爆炎と共にドラグソーサラーの胸から肉片と飛沫が飛び散り、膝を折って崩れ落ちる。
「これで弾切れだ」
アイゼンが呟いた。
剣から排出された真っ赤な薬莢がカランと床に落ちる。
あの剣の機構には発動回数に限りがあるらしい。
属性適正なしで魔物と渡り合えてたのはあの機構の力。
それが尽きたアイゼンはもう、とてもじゃないが戦えない。
そして魔物はまだ3体残ってる。
反撃の術を失ったアイゼンに魔物が襲いかかった。
大きく振り上げた龍の足がアイゼンを踏み潰そうとする。
アイゼンは横に跳んでかわしたが、その背を狙う魔物の魔法陣が2つ。
すぐに助けにいかないと。
なのに俺の行く手を遮った水流の壁。
俺と後ろの人達を守るために壁を作り、試験官が1人でアイゼンの救助に向かっていた。
「1人は無茶だ!」
俺は試験官に叫んだ。
俺の力なら目の前の壁を破るのは容易い。
でもそれをすると衝撃波に後ろの人達が巻き込まれる。
「『激流槍』!」
試験官は俺の制止を聞かず、なけなしの属性をスピアに込めて魔物へと刺突を放った。
だが効かない。
全力ならともかく、防御のために多くの力を割いた攻撃じゃドラグソーサラーに傷1つつけられない。
試験官はドラグソーサラーの腕で地面へと叩きつけられた。
今にも放たれようとする魔法陣がアイゼンと試験官の2人に向けられる。
2人がやられる!
『────!!』
『……──っ』
その時、2つの咆哮が響いた。
1つは猛々しく、もう1つは弱々しく。
次いで現れたのは2匹の小さな狼。
その姿に俺は見覚えがある。
「ハティ!?」
俺は赤い狼を見て。
「スコル?!」
そして青い狼を見て声をあげた。
ハティはドラグソーサラーへと飛びかかった。
すれ違い様にその喉笛を牙で喰いちぎる。
次いで着地と共に大きく口を開けた。
パクッと閉じる。
同時に、消える。
まるで見えない巨大な口に飲み込まれたように、魔物の上半身が消え去った。
ハティは満足げにペロリと舌なめずりする。
スコルはアイゼンと試験官の前に立った。
怯えるようにその四肢はぷるぷると震えているが、目の前に展開された魔法陣を見上げる。
するとドラグソーサラーの闇によって描かれていた魔法陣が中和され、形を失っていった。
そしてハティが困惑するドラグソーサラーの前脚を一かじり。
そしてまた大きく開いた口をパクッと閉じると、ドラグソーサラーの前脚を中心に下半身が消えた。
体勢を崩した魔物の頭に噛みつき、すぐにその上体も消え失せる。
「普通の範囲攻撃とは違う」
俺はハティの攻撃を見て呟いた。
攻撃の範囲にある床やアイゼンと試験官の2人は無傷。
おそらく攻撃した部位を中心に闇だけを食べている。
ハティは魔物でありながら対闇、そして対魔物に特化してるようだった。
試験官は意識を失ったのか水流の壁も消えた。
俺は全力で駆け抜け、クレイモアを大きく振りかぶると魔物の首をはねる。
ひとまず魔物の掃討は終わった。
見た限り死傷者は無さそうだけど、倒れてる試験官が心配だ。
俺はこちらを見てるハティとスコルに気付いた。
「ありがとう」
2人に小声で言った。
そして身振りでこの場から逃げるように指示。
2人は素早く闘技場から姿を消す。




