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仕組まれた罠

「大丈夫か? 棄権(きけん)しても構わんぞ」


 試験官が俺に言った。


「えーと、できる限り頑張ってみるので。無理だと思ったら助けを呼ぶので助けてもらえると」


「……せいぜい死なんようにな」


 試験官はそう言うと合図をした。

(おり)の扉が開き、中から新たにトラゴンが出てくる。


 俺は背負ったクレイモアを構えた。

ドラゴンに向かって駆け出す。


 俺の接近に気付いたドラゴンが爪を振るった。

俺はそれをかわし、すれ違い様に斬りつける。


 甲高い音と共に刃が弾かれたが、俺はそのまま走り抜けた。

すぐに剣を構え、関節を覆う鱗の隙間を狙って再び斬擊。

切っ先が鱗と鱗の境へと滑り込み、わずかな傷を与える。


 傷を受けて激昂(げっこう)したドラゴンが俺目掛けて攻撃。

迫る影と気配だけで俺はそれを察知すると、振り下ろされる爪を大きく剣を振っていなした。

地面を叩きつけた腕を駆け上がって跳んで。

俺を睨むその目を狙って銀の一閃を放つ。


 けたたましい咆哮(ほうこう)を上げて(もだ)えるドラゴン。

片目を潰されたドラゴンはその大きな口を開けた。

喉奥から膨れ上がる炎。


 本当ならこのまま追撃。

無防備な口の中から剣を突き上げ、頭を貫いて終わりだ。

だけど試験ではこの辺までにしておこう。


 俺はドラゴンのブレスを前に試験官の方を見た。

助けを求めようとすると、俺が声を発するよりも早く動く。


 俺の前へと(おど)り出た試験官が盾を構えた。

属性を(まと)わせ、盾を中心に水流の壁が現れる。


 能力の範囲とその発動速度が結構速い。

騎士団なら副団長クラスの能力だろうか。


 ドラゴンの放ったブレスは水流の壁に阻まれて俺と試験官には届かない。


 試験官はスピアを握る手に力を込めた。

切っ先に水流が渦巻き、巨大な穂先(ほさき)となる。


 試験官はブレスが途切れたのと同時に駆け出した。

足元から水流の柱を立ち上らせ、その勢いを利用して高く跳躍。

ドラゴンの眉間(みけん)目掛けて属性の(まと)った槍を突き出す。


「────」


 その時。

俺は不気味な声を、聞いた。

()いで凄まじい威圧感。

それはどこかフェンリルの眼差しに似ていて。

でもフェンリルの殺意と敵意に溢れたものよりも、もっと冷たく狡猾(こうかつ)な視線。


 俺がその視線をたどると、客席のすみに立つ男と目が合った。

従者を複数引き連れた、おそらく高い身分の貴族。

絹のような美しいブロンドの長い髪。

その顔はフードの陰になってよく見えなかったが、陰から覗く金色の瞳が俺を見据えている。


「……?!」


 俺はおかしな気配を感じて男から視線を切った。

試験官の対峙するドラゴンから。

さらに他のおりにいるドラゴン。

アイゼンさんの倒したドラゴンの中からもそれを感じる。


「危ない!」


 俺は試験官に向かって叫んだ。


 炎を吐き終えたドラゴンの喉奥から這い出す深い闇。

真っ黒なスライムのようなそれが膨れ上がる。


「!」


 試験官はスピアの切っ先から水流を放った。

突如現れた何かへの牽制(けんせい)と同時に、その勢いで後ろへと下がって距離をとる。


 異変に気付いた客席から悲鳴が上がった。

次々と膨れ上がる闇色の何かを前に、混乱が闘技場に広がっていく。


 ドラゴンの中に仕込まれていた?

でも一体、なんのために。

誰が────


 俺は再びあの男を見た。

確信はないが直感があの男の仕業だと告げている。


「ここは危険です。ロキ様」


 謎の男は従者に促されるままに闘技場をあとにする。

追いかけたいけどこの場を放っておくわけにもいかない。


「なんだこいつは。見たことがねぇ」


 警戒しながら試験官が言った。

おそらくかなりの場数を踏んでる試験官も見たことがない魔物。


 俺だってこの種の魔物は見たことがない。

最初はブラック・スライムかその派生かと思ったけど、魔物はドラゴンの全身を包んで取り込んで。

下半身が4脚のドラゴン、上半身が魔法を操るソーサラーに似た半人半龍の人型へと変わる。


「おい、避難の誘導と救援を任せた。なんとか俺達であいつらをおさえる」


 試験官が受付嬢さんに言った。


 だが、あわあわと慌てた様子の受付嬢さんは恐怖に震えるばかりで身動きが取れない。


「お姉さん!」


 フランがお姉さんの手を握った。

フランと一緒に受付嬢さんが避難の誘導を始める。


「リヒトん!」


 フランが俺を呼んだ。


「無茶しないでね! 絶対だよ!」


 俺はクレイモアを握っていない方の手を上げてフランに答えて。

クレイモアを構えなおして魔物に向き直った。


 (おり)の中の魔物も容易く(おり)を破壊して外に。

俺達は得体の知れない4体の魔物と対峙(たいじ)する。


「無能どもと若造は下がってろ」


 アイゼンさんが言った。


「そうもいかないよ」


 俺は前へと進み出たアイゼンの隣に並ぶ。


 相手は強い。

アイゼンさん一人じゃ間違いなく返り討ちにされてしまう。


「足は引っ張るなよ」


「アイゼンさんこそ気を付けてくださいね」


「あ? 俺が足を引っ張るって?」


「そうは言ってません。単純に心配しただけです!」


 俺はアイゼンさんの協調性のなさに、内心大きなため息をついた。


 そして俺が闇使いだとバレずにどこまでやれるか。


 俺は静かに闇を刃先に集中。

1ミリにも満たない極薄の闇の刃を形作った。

さらに全身に密着するよう闇を這わせ、身体能力を底上げする。


 傍目(はため)には気付かれないよう最新の注意を払った闇の操作。

だけどその分出せる力は普段の半分にも満たない。


それでも。


「やるしかない」


 動いたのはほぼ同時だった。

俺とアイゼンさん、試験官が魔物へと向かっていく。

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