96話 聖女の奥義
「食らえ! 極光剣!」
シュパ!
軽い音が聞こえただけに聞こえ、ドン・キホーテさんの剣からは虹色の剣線がどこまでも伸びていく。しかし、とても軽い音に私は何が起きたのか理解できなかった。
そして、風が吹く。
ずるり。
世界が真っ二つになった。ケルベロスが、木が、地面が、森が。ドン・キホーテさんの剣を振り下ろした先、夜の暗闇もあるが、その範囲がどこまで拡がっているのか分からない。その全てが真っ二つに切り裂かれていた。
戦場の時が止まった。
何が起きたのか分からなかったのか、その圧力に警戒心を抱いたのか、その場にいた者達が全員ドン・キホーテさんのいる方を見ている。数秒して、激昂したケルベロスが咆哮を放つ。
「グアアアアアアアファアアアアアアア!!!」
その咆哮の余波でドン・キホーテさんは地面に倒れ込む。意識も失っているのか微動だにせず崩れ落ちた。
「師匠!」
「よそ見をするな! ぐあっ!」
「隊長さん!」
今度は一人でケルベロスを受け持っていた隊長が飛ばされ、動かなくなった。彼はたった一人でケルベロスを受け持っていたため、かなりの怪我をしていたのだ。本当なら何度か攻撃を受けた時に倒れていてもおかしくは無かったのに、彼は食らいついていた。
そしてその限界が来てしまう。
「隊長さん!」
「俺に任せろ!」
フリッツさんが一人で突撃していく。相手は手負い。その動きは最初に出会った時ほどの敏捷性はない。しかし、フリッツさんも常に動き続け、躱し続けていた為体力は厳しい。
「使うしかないのか」
私はここまで隠していた物を使うしかないのか。使えるかも分からない。実際、勇者ランドには使えなかった。それに、寝ている人の防御魔法も解けてしまう。更に言うと、これを使えば私が聖女であることがバレる。これは聖女しか使えないとされているもの。その効果は絶大で、この国の子供でもお話で聞く物語の中に使われているものだから。
だけど、このままでは厳しい。フリッツさんもかなり被弾が増えてしまっている。このままでは。
集中そして私は詠唱を始める。
「血の川、骨の山、あらゆる災厄、あらゆる悪夢、我はかの者をいかなるものよりも守護し、祈る者。我が血はかの者の為、我が骨はかの者の盾に。セイクリッドパワー!」
私が詠唱を唱え終わると地面に寝ているドン・キホーテさんや隊長にかけていた防御魔法が解ける。この魔法はたった一人を強化する為に他の一切の魔法を使うことはできなくなる。だから2人以上が戦っている間は使うことが出来なかった。それでも、今であれば、誰か一人しか戦っていない今であればその人の為に使うことが出来る。
私が聖女であるとバレることなど些細なこと! 今この時! 村の皆を守れればそれでいい!
すべての魔法が解かれたと同時にフリッツさんを白と赤色の光が身を包む。その光は仄かな色を放っているだけだ。それでも、私は確信していた。これを使えばフリッツさんが必ず勝ってくれると。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




