9話 フリッツ
それから30分もかからずに解体は終わっていた。彼から借りたナイフは切れ味が鋭く、最初の方は力加減を間違えて想定よりも深く切りすぎてしまったくらいだ。謝ったら彼は笑って許してくれた。それで何度か調整したら今までの時よりも遥かに早く進み、あっと言う間に終わってしまったのだ。
「こんなに早く解体出来るとは思ってなかったよ」
「いえいえ、えーっと私だけの力じゃないですよ。貴方が早かったからです」
そういうと彼は思い出したかのように話し出す。
「そう言えば自己紹介をしていなかったな。俺の名前はフリッツ、近くのリッター村で冒険者をしている」
「フリッツさんですね。私はクロエと言います。神官と名乗ってはいますが回復魔法は使えないんですが」
聖女はこの世に1人しかいないが、神官はかなりいるので名乗っても不審には思われない。
「ん? そんなハズは」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。それよりも行こうか」
「はい」
こうして私たちは出発した。
険しい森の中を進むが、フリッツさんが先頭を歩いてくれて、歩くのに邪魔な枝や葉を切り落としてくれる。そのお陰で楽に歩くことが出来た。
「そう言えばそのリッター村はここからどれくらいなんですか?」
「そうだな……このペースで行ったら4日くらいか」
「ああ、やっぱりそれだけ遠いんですね」
「仕方ない。こっちにまで来ないと修行にならないしな」
「修行?」
「ああ、これでも冒険者をやっているからな。それなりに強くはなりたいのさ」
「グリズリーベアを一発で倒せるんですから、かなりの高ランクじゃないんですか?」
どれだけ低く見積もってもBランクはあるだろう。もしかしたらAランク、下手をしたらSランクと言われてしまうかもしれないと思って答えを待った。
「俺はCランクだよ。だからもっと強くなれるようにこんな場所まで来ているのさ」
「Cランク? 昇級試験は受けないんですか?」
「ちょっと事情があってランクは上げていないんだ」
「そうなんですか……勿体ない。あれだけの剣の腕があれば城でも雇って貰えそうなのに」
「……」
そう言うと会話が途切れてしまう。フリッツさんから放たれる空気もどことなく重い。もしかしたら何かいけないことを言ってしまったのかもしれない。
「城とかは興味がないんだ。取りあえず今は強くなりたい」
「どうしてですか?」
「大事なものを守りたいから。どんな敵に襲われても奪われないですむように」
そう言う彼の背中はどことなく哀愁を漂わせている。
「凄いですね。それだけ目標があって」
「君はしたいことはないのかい?」
「私は……今のところありません。少し前に目的も無くなっちゃったばかりですから」
「ならまた新しい目的を見つけないとな」
そう言ってフリッツさんはわざわざ振り向いて微笑んでくれる。
「ありがとうございます」
そんな会話をしながら道を進む。
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