10話 ケルベロス
それから休憩で食事をする。私はさっき食べていたのでほとんど食べなかったが、フリッツさんはかなりの量を食べていた。やはり剣士というか、戦う人はそれくらい食べるのだろう。ランドや他の2人もよく食べていたのを思い出す。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
私たちはまたリッター村へ向かって歩き出す。途中、フリッツさんに止められて足を止める。彼は木々の間からその先を見て固まっていた。
「どうしました?」
「しっ」
「……」
彼は口に指を当てて黙るように言っていた。私は素直にそれに従うと、彼は私の耳に小声で囁く。
「そこから覗いてみて」
そう言って彼は目の前の木々の間から覗くように言ってくる。私は疑問に思いながらもそこから見ると言葉を失った。
「っ!」
「ガフガフガフ」
そこには地獄の番犬と呼ばれるケルベロスが何かを食っている。視線を少し落とすと、食われているのははグリズリーベアでケルベロスには怪我一つした様子がない。それだけの実力差があるのだ。
ケルベロスとは真っ黒な体に3つの頭を持つ魔物で、体長は4ⅿもある。その牙や爪は鋭く、あっと言う間に人を切り裂くAランクの魔物だ。実物を見たのは初めてだけど特徴的だから分かる。
フリッツさんが強いのは知っている。だけど、地獄の門番と呼ばれるあのケルベロスが相手であれば厳しいと思う。ここに勇者パーティがいたとしてもどうやって逃げるかを考えている所だ。
スッ
彼に服を引っ張っぱられ、私は素直に体を引く。音を立てないようにゆっくりゆっくりと下がっていく、足の裏に枝などが当たった時はそっと足を変えて気を付ける。
そして少しそこから離れた時に
パキッ
音がした。
私が音をした方を見ると肩が枝に当たって折れてしまっていた。
「ガアアアアファアアアアア!!!!」
「逃げるぞ!」
フリッツさんが私の手を取って走り出す。私は為すがままについて行くしか出来なかった。
私は後ろを振り返ることはしなかったが、奴が近づいてくるのはわかる。叫び声が時折聞こえるし、なんな息遣いまで聞こえている気がした。
「クロエ! 戦うぞ!」
「ええ!? 勝てるんですか!?」
「戦わなきゃ死ぬだけだ! いいか!」
「わ、分かりました!」
「よし! いい子だ!」
彼はそう言って振り返り剣を抜きはなった。
「少し離れていろ!」
「はい!」
私は離れて振り返る。そこにはすでにフリッツさんとケルベロスが対峙していた。対峙していたというよりはフリッツさんは剣を使ってケルベロスの牙を受け止めている。
「はあ!」
彼が気迫とともにケルベロスを吹き飛ばす。
「嘘!」
「せい!」
ケルベロスと互角に戦っている? そんな。私は信じられない目を彼に向けた。
しかし彼はそんなことを知るかとばかりに私が息つく暇もなくケルベロスに切りかかる。
「ガッファアアアアアア!!!」
だがケルベロスも流石でその攻撃を爪で受け流したり弾いたりしている。その動きは流石でそれぞれの頭の器用に連携していて致命的な隙を作らせないようにしていた。
「支援します! プロテクト!」
私は自慢の防御魔法を彼にかける。私が出来ることはこれくらいしかない。だから少しでも彼の力になってくれればと思って唱える。
「助かる!」
彼は戦っている時でも礼を言ってくる。私も何か返そうとした時に、彼が奴の左の頭に噛みつかれた。
「そんな」
「ガファファファファファ!!!」
ケルベロスはその隙を逃さず、残りの首も彼の体に噛みついていく。嘘! そんな!
そう思って絶望的な感情に支配されそうになった時、ケルベロスの首が3つとも飛んだ。
「え……?」
私は目を疑った。ケルベロスの鋭い牙に噛まれながらもフリッツさんは動いていた。その手に握られた剣はケルベロスの返り血に濡れ、怪しく光っている。
彼は無事だった。私の防御魔法が役に立って、彼が無事だったことに心の底からホッとしていた。
「クロエ。君は何者だ?」
「何者って」
「これだけの防御魔法そうそう使えるような人はいない。それこそ歴代の聖女や賢者でもない限り無理だと思う」
「それは……」
私は言い淀んでしまう。勇者パーティの皆が私のことを良く思っていないのは知っている。そして私も彼らに対して良く思っていない。それでも、彼らと共に旅をしたのだ、だから彼に話すか言い淀んでしまう。
彼は頭を振り、目を手で隠した。
「あーすまん。聞かなかったことにしてくれ。俺の悪い癖だ。自分のことは話さないのに人のことは探ろうとするってな。よく言われんだが気になっちまう。でもこの話はこれで終わりだ。いいか?」
「は、はい」
聞いてこないというのなら渡りに船だ。素直に賛同する。
「それじゃあこいつを解体してもいいか? こいつの素材は高く売れる」
「はい。勿論です」
こうして私たちはケルベロスを解体した。
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