87話 思い出の味
「これでいいですか?」
「おお! これだこの感じ、本当に懐かしい……」
ドン・キホーテさんは私の持つ皿を見つめている。そして皿を手渡すとフォーク等使わないで手で持ち上げてガツガツと食べ始めた。
「旨い、旨い、旨い。この味、この風味、この香り。あの時の味と全く変わっておらん」
「師匠、俺も一つ食べてもいいか?」
「ん? そうだな。一つだけだぞ。クロエさんも食べても良い、一つだけな」
「いいんですか?」
「わざわざ持ってきてくれたのだ。それくらいせねば礼を欠くだろう」
「ではありがたく」
私は台所に戻ってフリッツさんと私の分を切り分ける。その量は二人で足してドン・キホーテさんの分量になるくらいにした。あれだけ美味しそうにしていたのに沢山とるのは良くない気がしたからだ。
私は戻ってフリッツさんに差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
私とフリッツさんは側にあった椅子に座りカボチャのパイを食べる。
「この味は……」
「なるほど……」
私は正直そこまで美味しいと思わなかった。そしてフリッツさんも同じだったようで、微妙な顔をしている。
しかし、ドン・キホーテさんは本当においしそうに食べているのでそんなことは言えなかった。
私たちはそれでもそこに宿った何かを感じるように食事を続ける。
「よし! これで儂は完全に回復した!」
カボチャのパイを食べきったドン・キホーテさんがそう言ってベッドから立ち上がる。しかし、大けがから回復はしていないのか少しふらついていた。
「おっとと」
「師匠! 無理はするな!」
「そうですよ! 今はゆっくりと体を休めないと!」
「ええい煩い! 年寄り扱いをするな!」
「年寄りじゃなくて怪我人の扱いをしているんだよ!」
「今はとにかく休んでください!」
私たちは彼をベッドに寝かせる。それでも彼は不服そうな顔をしていた。
「ちゃんと元気になってからにしてください!」
「そうだ。俺達はこれから魔物をケルベロスを倒しに行ってくる。この村を護るから少し待っていてくれ」
「ケルベロス……?」
「この村が今魔物に囲まれているのは知っているだろう? というか偵察に行ってきてくれたんだろう?」
ドン・キホーテさんは暫く考えた後に思い出した。とでも言うように右手で拳を作って左手で叩いていた。
「そうだ、そうだったな。少しど忘れしとったわ」
「師匠。しっかりしてくれよ」
「仕方あるまい。暫くは動けなかったのだからな」
「誰が看護に来てくれたんだ?」
「覚えておらん。慣れない偵察から帰り、出来る限りのことをギルに話して、それ以降は眠りについておったからな。目を覚ましたのも最近だ」
「そうだったのか」
「それで、お前達はどうやってここに来たのだ? もうあらかた倒したのか?」
フリッツさんは首を振ってそれを否定する。
「ダラスの街で依頼を出してきたんだ。そして集まった冒険者を束ねてここに来た」
「何と……ギルのやつめ流石にそれくらいはやりおったか」
「それもあるけど、クロエが助けてくれたのも大きかった。彼女のお陰で多くの人が助けに来てくれたんだ」
「フリッツさんのお陰でもありますよ」
「ほんの少しな」
「どちらにしろ大丈夫なのだな? Aランクパーティはどれ程来た? 2か? 3か?」
「Aランクは来てない。Bランクが数人とそれ以外はCランクとDランクだったはずだ。騎士も来てくれたけど、Aランクの実力者は居ないって言ってた気がする」
「何だと……それで数はどれ程来た? 100か? 200か?」
「そんなに来れなかった。他の所でも魔物や魔族が活性かしているらしくて、総勢合わせても50人と少ししか来ていない」
「……」
「師匠?」
「それはまずいことになった」
「どうしてだ? これだけ居ればケルベロスといっても何とか勝てるんじゃないのか?」
「厳しいと言わざるを得ん」
「どうしてだ」
「ギルから話を聞いていないのか? ケルベロスは2体いる」
「そんな……」
「嘘でしょう……?」
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