56話 一方勇者はその頃⑥
その日の晩。勇者パーティの場合。
周囲は草原。見晴らしはかなりよく、近くには小川もあった。キャンプには最適な場所に見える。ただし、そこでキャンプをしている勇者パーティの雰囲気は最悪に近かった。
4人で一つの火を囲っているが、今までのように魔法使いサラと付与術師ディーナは勇者ランドの隣にいない。ちゃんと1人1方になるようにして、火を囲っている。
「サラ、いい加減変わりなさいよ。何で私がルーカスと見張りをしなきゃいけないのよ」
文句をいい始めたのはディーナだった。彼女は今までランドと一緒のテントで寝続けていた。
しかし、盗賊のハブルールが死んでからはずっと剣士ルーカスと夜の見張りをしていたことで、ランドと同じテントに入る機会は無くなってしまっていた。そのことへの不満に日々ぐちぐちと言っていた。
それを説得するのはサラだ。
「それについてなら話し合ったでしょ? 前衛と後衛で別れてやるって」
「でもずっと一緒になる必要はないでしょう?」
「あんたが見張りの能力が低いのが分かってるんだから、大人しくルーカスに助けて貰いなさい」
「あれはあの時の成績が悪かっただけだって言ったでしょう? 今やればアンタより上に行けるわ!」
「そんなことしてる暇ないこと位分からないの? 今争ってる場合じゃないのよ?」
「だったらアンタが代わればいいじゃない!」
「だからそれはダメって言ってるでしょう? ちゃんと成績で決めたんだから」
「あんたね……」
サラは説得をしているようだが、その顔はディーナに大して勝ち誇った顔をしており、傍目に見ると煽っているようにしか見えない。
それを止められるランドはただ黙ってどこかに思いを馳せている。ハブルールの事を大切な仲間であり、友人と思っていたことから精神的なダメージが大きく何も手につかなくなっていた。そう言った周りのことに何かするという事が出来ない状態を、サラが甲斐甲斐しく介抱している。そんな状態が以前から続いていた。一応、見張り自体はこなしているので多少は問題がなかった。
ルーカスの方はいつものことと無視を決め込んでいたが、それはそれでまた空気が悪くなる原因でもあった。
だが、この日ばかりは毎晩毎晩同じ話を続ける二人に、ルーカスが苛立っていたのも手伝って今日は違った展開を見せる。
「お前らいい加減にしろ。ここはまだ敵地なんだぞ。この前のように首だけになりたいのか」
ビクン。ランドの体が震える。
ルーカスはこれまでハブルールの話を極力しないように務めてきていたが、今回はわざとその話を出して行く。これによってランドを現実に引き戻して、二人を仲裁させようというルーカスの拙い作戦であった。
だが、ランドには未だにハブルールの死が強く刻まれており、その傷は癒えない。立ち直る所ではなかった。
「ちょっとルーカス。ランドは今心に傷を負っているのよ? もうちょっと考えられないわけ?」
「ホント、そう言う所ってなってないわよね」
「お前らが不毛な話しかせんからだろうが。それに俺達は戦場にいるんだぞ? 昨日笑っていた奴が、今日何も言わなくなっていることなんて幾らでもある」
「だからって傭兵で戦場を駆け回ってきたアンタとランドは違うのよ」
「そうよ、ランドは本当に優しいんだから。あんたと違ってね」
ルーカスは諦めて口を閉ざす。そこで彼は思う。彼らはいつもランドを甘やかしてばかり、もしそれを少しでも指摘しようものなら鬼のような形相で非難してくる。
普段は仲の悪い二人もそこに何か言おうとするたびに、団結して非難してくるのだから質が悪い。こんな状態で一緒に居たいと思うものか。
その点、ルーカスは思い返すとクロエはよくやっていたと思った。衝突しそうな時があっても上手い事調整をしていたし、そもそも二人には何もさせたり決定させないようにしていたはずだ。
(俺には出来ん芸当だ)
彼は物心着いた辺りからずっと剣を振ってきていた。そしてそのまま戦場に出てきて敵を斬ることしかしてこなかったのだ。だから戦場の攻撃時や守り時等もふわっとした雰囲気でしか知らなかったし、知ろうとしなかった。
全ての些事を投げられていたのがクロエだったのだ。
その彼女も今はいない。
その日の晩も食事に文句を言いつつ更けていくのだった。
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