33話 お楽しみですよ!
私たちが店から出るころには、外はすっかり暗くなっていた。
「おいしかったぁ~。こんなに美味しい料理は初めてかもしれないです」
「行きつけになるのもわかるだろ? 初めて食った時は頬が落ちたと思ったからな」
「大いに納得です。私もまさか2杯も頼むなんて、お腹が苦しいです」
「仕方ない。俺もここに初めてきた時は5杯も食ってヤバくなったからな」
「そんなに食べたんですか? でも食べれるんなら食べたいですね」
「だろ」
私たちは宿への道を歩む。
「やー流石にこれだけの街だと夜になっても明るいですね。前に来た時は夜は出歩かなかったので分からなかったです」
「そうだな。夜には夜のいい雰囲気がある」
「そうですね。違った見方が出来ていいですよねぇ」
「ああ、面白い面もあるけど、酔っ払いとかが増えるし治安も少し悪くなるから、それだけは気を付けておけよ」
「もう道に迷いませんって、フリッツさんも一緒なんですから」
「まぁな。それじゃあさっさと帰るか、また誰かに出会っても面倒だしな」
「出会いませんて」
「どうかな」
「もう」
そんなことを言いながらまっすぐ宿に戻った。実際に変な人に出会わなくて心の中ではホッとしていたのは内緒だ。
宿ではフリッツさんと別れて寝る準備をする。そしてベッドに入るが中々寝付けない。
「流石にあれだけ寝てたらそうなっちゃうか」
夕食に行く前にかなりの時間を寝ちゃったから仕方ない。暇なので最近のことでも振り返ろうかな。
勇者パーティから追放されたのは悲しかった。正直もう私はこの世界に要らない人間なんだって言われたのかと思ったくらいだったから。それでもフリッツさんに会って、旅をするうちに勇者パーティにいなくても。ううん、いない方が私は幸せ何じゃないかってことに気が付いた。それから何をするかは決めてないけれど、本当に巡礼の旅に出るのもいいかもしれない。フリッツさんと適当に話していたけど、正直、今まで旅してきた所はほとんど雑務で見れなかったからだ。だから、今度こそ、本当の旅をしてもいいかもしれないと思う。
でもフリッツさんと別れるのは……。
私は微睡みに沈む。
******
「ふぁ……良く寝た」
次の日の朝。私はすっきりした状態で起きれた。やはりベッドの存在は違う。これがあるだけで倍以上はやる気なども違ってくる。
私は身支度を整えてフリッツさんの部屋に行く。
トントントン
「フリッツさーん」
「開いてるぞ」
「失礼しまーす」
中に入るとフリッツさんが窓を開けて窓枠に頬杖をついて外を見ていた。それだけで彼の横顔は映える。
そんなことを思っていると彼はこちらを向いた。
「どうしたんだ? もう行けるのか?」
「いけるんですが、今確認したら量が足りないかもしれないので、少しお金を貸していただけませんか?」
「ああ、幾らあればいい?」
「銀貨5枚ほどです」
「じゃあ予備の財布を渡しておくか」
フリッツさんは立ち上がり私の手のひらの上にポンと置いてくる。
私は財布の中を見ると倍以上の金額が入っていた。
「こ、こんなに要りませんよ!」
「要らない分は返してくれればいい。それにケルベロスの素材を売るのに必要なんだろ? なら仕方ない。俺はここで見てるけどいいか? それとも心配だからついていった方がいいか?」
「大丈夫ですよ! 子供じゃないんですから!」
「わかったわかった。だったらそんな顔はするな」
「もう……直ぐに帰ってきますから待っててくださいね」
「ああ、何をやるのか楽しみにしているよ」
「その言葉、忘れたとは言わせませんからね?」
「お、おう」
彼の顔が少し引き攣っている。
「それじゃあいってきますね」
「ああ、いってらっしゃい」
私は部屋を出て、目的のお店に向かう。目的地までは間違えないように宿の人に懇切丁寧に教えて貰った。これで間違うなんてことにはならないはずだ。
そして今回はちゃんと安心安全の大通りしか通らなかったことあり、なんの問題もなく店に到着して目的の品たちを買うことが出来た。多少フリッツさんに合うものを考えていたのもあって時間はかかったけど、それでもきっとこれなら大丈夫だろう。私は宿に戻る。
「フリッツさーん!」
「開いてるぞ」
「フリッツさん。今すぐに出掛けましょう。そして人通りのいないところでちょっと!」
「な、何を言ってるんだ?」
「早く例のものを売りたいんでしょう? 私もその気持ちでいっぱいです。だから早く行きましょう!」
「わ、分かった」
フリッツさんはそう言って寝転がっていたベッドから立ち上がって来る。
「ささ、早く行きましょう」
「凄いやる気だけど何かあるのか?」
「ちょっと楽しみだったのでやってみたかったんです!」
「楽しみ?」
「それは行ってからのお楽しみですよ!」
「ほんとにクロエか? 性格が変わったような気がするんだが」
「そんなことないですよ! 早くいきましょう!」
私は彼の手を取ってサッサと下に向かう。
「そんな引っ張るなって! ていうか結構力強いな!」
「そんなことはいいですから早く!」
「分かったって!」
こうして私たちは人気のない裏路地に入り込んで準備をする。
「クロエ……本気か?」
「本気も本気です! これが最高の作戦といっても間違いありません!」
この作戦を考えた時は天才になったんじゃないかと思ったほどだ。そして首を傾げるフリッツさんを余所に私はテキパキと手を動かし続けて、完成した。
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