101話 新しい出会い
フリッツさんと一緒に並んで森の中を歩いていく。その足は少し前まで重かったとは思えないほど軽やかな気がする。
森の中は空気が美味しい気がした。さっきまで土の中にいたから余計にそう感じる。
「すぅ~、うーん。やっぱり美味しいですね」
「何がだ? ホーンラビットでもいたか?」
「もう、何ですぐ魔物に結びつけちゃうんですか。森の空気がって事ですよ」
「なんだ。そういうことか」
「そうですよ。いっつも食べることばっかりなんですから……」
「悪い悪い」
「いいですよ。それがフリッツさんらしいですからね」
「そうか?」
「そうですよ」
そんな会話をしながら歩いていくと、森を抜けた先には先ほど食材屋のおばあさんの所に止まっていた馬車があった。その馬車の中は食材で半分くらい埋まっている。残りの半分は馬用の干し草だ。
「やっと来たかね」
「お待たせしました」
「いいさ、サッサと馬車に乗りな」
「分かりました」
そう言って私は乗るが、フリッツさんは乗る気配を感じない。
「フリッツさんは乗らないんですか?」
「俺は一応護衛だからな。それに、ケルベロスに従っていた奴らが現れるかもしれない」
「だったら私も」
「それはだめだ。一応、村から他の冒険者が来ないとも限らないからな。見つかりたくはないんだろ?」
「そうですね……」
見つかりたくはない。確かに見つかりたくはないけど、それは怒られないかが心配だったからだ。ただ、あの騎士隊長とかの雰囲気を見ているとそんなに怒ってないのでは? という気持ちにもさせられる。
かと言ってそれを実際に姿を見せてまで確かめようかっていう気持ちにはならない。
「わかったらさっさとそこに入っていてくれ」
「分かりました」
私は干し草の中に入って身を隠す。この状態が後4日も続くのかと思うと少し憂鬱だ。
「チクチクします……」
「それくらい我慢おし、というかわざわざ中にまで入らなくていいんだよ?」
「え? いいんですか?」
「そりゃそうさ。現れたら言うからそれまでは干し草の上に寝ておきな」
「それでもいいんですね……。分かりました」
私は干し草をかき分けて出ると、そこには青い空が拡がっている。さっきまでは土と緑だったのに青い空。世界がドンドンと広がっているようで凄く心地いい。
「いい天気ですね……」
「そうだねえ。本当は草原で寝たいもんさね」
肌を風が通り過ぎて撫でていく。馬車の中に入っていても感じる。歩いていれば、草原の上で寝ていればさぞ気持ちいいことだろう。
「そんなに焦っても仕方ないよね……」
自分にそう言い聞かせる。最近いいことが起き過ぎていてちょっと怖い。
こうやって心地よい風に身を任せることも、空が青いといって見つめることも、勇者パーティーにいた時は出来なかった。それが、今はこんなにも味わえるのだから。
でもケルベロスは恐ろしかった。あれほどの魔物がいるなんて信じられない。しかもあれでAランク、世界にはあれよりも強い魔物がいるのだ。
そんなことを思いながらボーっとしていると、フリッツさんとおばあさんが話しているのが聞こえてくる。
「あれは誰だ?」
「わたしゃ見たことないね。ダラスの人間かい?」
「いや……。ダラスでも見たことは無いと思うが……」
「そうかい。何か困りごとかね?」
「分からん。少し聞いてこようか?」
そんな会話をしているので少しだけ頭を出して見る。
2人が話しているように30ⅿ程先に長身の男性がじっと森の奥を見つめている。しかも石像の様に微動だにしないのが凄い。彼の視線を追ってみると、そこには森があり、木の杭が2本並んで地面に打たれていた。
その長身の男性はフリッツさん達が話すように私も見たことのない感じだった。といってもかなり離れているので多分としか言いようがないけれど。
「あの、私も行きましょうか?」
「俺一人で行ってくる」
「そうですか? 分かりました」
そう言ってフリッツさんはその立っている彼に駆けよっていく。そんな彼は真っ黒の魔術師用のコートを着ている。それ以外の装備は分からないけど、真っ黒なコートは正直ちょっと怖い。
フリッツさんが何か話しかけているが、コートの彼は全く動く気配がない。それどころかフリッツさんに視線すら向けていない様に感じる。特に困っていないのだろうか?
コートの男がこちらを見て、すっと細いその目がクワっと一瞬だけ大きく開かれた。
「え? 何?」
何が何だか分からなかったけど、そのコートの男は口を動かしてフリッツさんに言っている。
フリッツさんがその後コートの彼の話をして、帰ってくる。そして、私とおばあさんに声が聞こえるようにして言う。
「あの男が少し道に迷っているらしい。というか、魔物が出て危険かもしれないから、出来れば一緒に行きたいと言っているんだがいいだろうか?」
「アタシは構わないよ。困ったときはお互い様さね」
「え? でもこの街道の真ん中で道に迷うってどういう……?」
進むか引くかしかないと思うんだけど……。
「あんまり周囲を確認していなかったらしい。それで、ダラスに行きたいがもう道に迷いたくないから一緒にって。それに多少魔法も使えるから役には立つって言ってる。俺もいいと思うんだがどうだ?」
「なるほど、そういう方もいるんですね。分かりました。私も大丈夫です」
「良かった。それじゃあ行くか」
「ああ」
「はい」
私たちはそのコートの男性に近づいていく。
「一緒に行ってもいいぞ」
「(こくり)」
彼はそう言って一つ頷いた。
それから一緒に進み、折角なので話しかけてみる。
「あの、どこの街から来たんですか?」
「……」
「好物とかあります?」
「……」
「ご趣味とかって……」
「……」
やることもなく、なんとなしに声をかけていたのだが、どう足掻いても私に答えてくれない。どうしてなの? 正直心が折れそう。
「それじゃあお名前は何ですか? 私はクロエと言います」
そう言えば自己紹介をしていないと思って話す。今回も返事は帰ってこないかと思ったけど、そんなことはなかった。
「キリル」
「キリルさんですか?」
「そうだ」
おお、少しだけだが話してくれた。でもキリルってあんまり聞かない名前のような気がする。
「珍しい名前ですね。遠い国の出身なんですか?」
「ああ、かなり遠い」
「なんていう国なんですか?」
「……」
うーん。さっきの状態に逆戻りしてしまった。聞いてはいけない質問が結構あるのだろうか。それと、もしかしてかもしれないが、何だか避けられているような気がする……。
「フリッツさんフリッツさん」
「なんだ?」
私はキリルさんと反対側を歩いているフリッツさんを手招きで呼ぶ。彼は普通に来てくれた。
「もしかしてなんですけど、私って嫌われてます?」
「いや? そんな事は無いと思うが……」
フリッツさんは首を傾げながらそう答えてくれた。
「でも話しかけても全然反応してくれないんですけど……」
「女が苦手なんじゃないのか?」
「あーそういう感じですか?」
「フェリさんも確かそうだったろう?」
「確かに……。そういう可能性もありますか」
私はちらりとキリルさんの方を見ると、彼と一瞬だけ視線があった。
彼はその瞬間ばっと目線を逸らしてくる。フェリさんもこんな感じだったしそうなのかもしれない。
そんな事を考えていると、フリッツさんがキリルさんに話しかける。
「そう言えば魔法はどういったのが使えるんだ?」
「大抵のものは」
「得意なのとかあるのか?」
「水が便利でいい」
「あー冒険者でも水属性が使えるってだけでかなり優遇されるからな。いいものを持っている。っ!」
2人でにぎやかにやっていると思っていたら、フリッツさんが森の方を向いて凝視している。何かあったのだろうか?
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