伏線 1
増川は和志が何を伝えようとしているのか、掴みかねているようだ。
和志は言葉を尽くして、その「一週間」がどういうものであるか、どういう意味を持っているかを詳しく話していく。
「はい。増川さんの仰ることもわかります。頭が変になった。そう思われても仕方ありません」
和志は話の途中、何度も言葉の意味や、内容の確認を強いられた。
和志は時に言葉につっかえながらも、何とか話の内容を掴んでもらおうとする。
「はい。そうです。8月24日。今から5日後です。その時を境に僕らの時間は1週間前に後戻りするんです」
朝美は期待と不安が入り混じりながら、和志と増川のやり取りを見守る。
すると徐々に和志の表情が晴れやかになっていく。初めは半信半疑だった増川も、和志の懸命さに、ある種の信憑性を見出したようだ。
和志は加えて、不破克彦自身が政府の内通者であることなど、政治的な話をも伝えようとしたが、それを朝美は止める。
「和志。今一度に説明されても、増川さんも混乱するだけ。事実私達もそうだったでしょう? 逆に私達が疑われる可能性もあるわ」
その言葉を聞いた和志は、一度拳を振り下ろして悔しがるも、何とか納得して、ただ一つこう増川に伝える。
「今日午後の会見で、高橋首相は『犯人は国政内にいる可能性がある』と言います。これは一言一句変わりがありません。それを見届けていただけたなら、僕の話も信じてもらえるでしょう」
増川は雲を掴むような話を、何とか信じようとしてくれているようだ。携帯からの増川の快活な声が朝美にも聴こえた。
「分かった。和志。その会見をしっかり見てみるよ。その時、君の言っていることが、本当かどうかも分かる」
「ありがとうございます。増川さん。この事はどうか内密にしておいてください」
和志は、そう丁重に礼を言うと通話を切る。和志はやや疲れがあったものの、満足げにソファに腰を降ろす。
「増川さん、初めは本気にしなかったけど、何とか信じてくれたらしい。いや、あの会見を見れば信じざるを得ないだろう」
「何とか初めの伏線ははれたわね。和志」
朝美も手応えがあるようだ。和志は朝美が煎れていた、冷え切ったコーヒーを口にする。
「その後、増川さんは俺達に連絡してくるはずだ。そこで不破さんの裏切りを伝える。どこまで信じてくれるか、分からない。だがやれることはやろう」
和志のその力強い言葉に、朝美も頷く。
「どう展開していくか、ね。私達の介入で少しずつ違った1週間が始まるのだから」
「ああ、そうだ」
和志はそう言って満足そうに天井を仰ぎ見る。屋外では鳩の長閑な鳴き声が響いていた。




