リスタート 2
翌日、和志は朝から精気に満ち溢れていた。一つ軽い欠伸をして、乱れた髪の毛のまま起きてきた朝美を、早速ソファに座らせると、こう切り出す。
「『時間は繰り返される』。外の世界と繋がれるのはネットと電話だけ。おまけに一週間経てば外の世界は、元の状態に戻る。つまり、どんな情報を、外の世界の人間に伝えても一週間経てばリセットされるということだ」
まだ寝ぼけ眼の朝美は、和志を少し止めてキッチンへと向かう。
「ちょっと待って。まずコーヒーを煎れるわ」
朝美はキッチンでコーヒーを準備する。その間も和志は滑らかにお喋りを続ける。それは最重要ポイントだった。
「この条件下で、次の『麗華の虜囚』を作り、高橋首相の戦争が始まらない時間をスタートさせる。その二つだけでいい。それだけで俺達は自由になり、反戦の目的も遂げられる」
「それ『だけ』で? 一回きりの一週間では難しいわ。一つ、一つ整理していきましょう? 和志」
朝美も事態をよく把握している。和志の口にした、二つの物事を成すのがそう簡単ではないことを知っていた。
朝美が、「まず自分達のペースを整えましょう」と提案するも和志は止まらない。
「いいや。自分達のペース? じっとしていられないよ。一週間が繰り返されるのはいいが、俺達の時間は流れ、年老いて行くんだ。一時も時間は無駄には出来ない」
コーヒーを入れたカップを手にして、居間へと戻ってきた朝美は和志に訊く。
「それで? どうするの?」
和志はある程度のアイデアと方法を、昨夜中に考えていたのだろう。躊躇なく朝美に告げる。
「増川さんだ。増川さんが一つの鍵になる。彼に『繰り返される一週間』の事実を伝える」
コーヒーを口にして、ぼんやりとしていた目も覚めてきたのか、朝美は納得したように身を乗り出す。
増川さん。不破さんが内通者である以上、反戦運動の底辺にいる自分達が頼りに出来るのは、たしかに彼だけだ。
朝美は片目を軽く見開く。
「いいわね。それは。そこからがスタートになるわ」
乗り気になった朝美を見て、和志も上気する。一、二度両手を軽く叩いて握り拳を作ると、決意のほどを窺わせる。
「『一週間』と時間は限られているが、試す価値は充分にある。増川さんなら、この不思議な話を信じてくれるかもしれない。そして何らかの形で協力してくれるだろう」
和志は、そこまで話すと、立ち上がり、スマホをポケットから取り出す。
彼はもう止まらない。「繰り返される一週間」。その事実を受け入れた以上、彼を止めるものはもう何もない。
和志はコンタクトを取る。通話先はもちろん増川だ。
和志は増川が電話に出るまでの間、部屋中を右に左に歩いて回り、自分達の取るべきアイデアを一つ、一つ検証している。
思ったよりも冷静だ。同時に前向きでもある。
和志のその様子を目にして朝美は希望を見出し、つい顔がふっと綻んだ。
ものの十数秒ののち、増川に通話は通じたようだ。増川は和志に心地よく応対しているらしい。それは前回の8月17日も同じだったのだが。
だが今回は、和志が違うアプローチを取る。
自分達の置かれた状況や、不破のことを知らせるつもりだ。
自ずと違う結果が導かれると、朝美も期待する。
和志は増川に便宜上「信じられないかもしれませんが」と前置きした上で、事情を話してみせる。
「増川さん、僕達は今、麗華という街で、『繰り返される一週間』というものにとらわれています」
突然の話だ。増川の反応は、朝美と和志が予想した通りのもののようだった。




