第二章 ~ 訃報 ~ 第五話
店主がカラカラと陽気な笑い声を出していると、カウンターの後ろにあるドアを開けて店に出て来た年若い女性が店主の頭を後ろからペチンと叩いた。
「こらぁ、お客さんをからかっちゃダメだよお父さん」
どうやら店主の娘らしい。幸いにも顔は店主と全然似ていなくて、歳はまだ十五、六くらい。なのに、垂れた目尻が妖艶で奇妙な色気が滲み出ている子だった。
「おいおい、父親の頭を気軽に叩くなと言ってるだろうアンナ。そもそも俺ぁお客さんをからかっちゃいねぇだろ? 本当のことしか言ってねぇ」
店主が不機嫌そうに唇を突き出す。
娘のアンナは父の小言を聞き流し「美人さんを見るといつも商売ほったらかしで話し込むんだもの。またお母さんに怒られるよ?」と、肩をすくめて店内の掃除を始めた。
なんとなく居心地の悪さを感じずにはいられなかったルシルベアイスだが、ここで話を終わらせるわけにもいかず、話の続きを店主にせがんだ。
「店主。商売の邪魔をして悪いのだが、先ほどのタオルと張り合っていたという者のことを詳しく聞かせて貰えないだろうか」
店主は「あはは、あいつの言うことは気にしないでくれ。こうやって話すのも商売の内さ」と苦笑いをし、中断していたもう一人の弟子の話をしてくれた。
「え~っと、どこまで話してたっけ? あぁ、そうそう。爺さんがまだ生きていた頃にゃ、あの二人はよく比較されていてなぁ。タオルのほうは鳳凰の雛『鳳雛』と喩えられていてよぉ、おっちゃんの勧めるもう一人のお弟子さんのトロン・リザードは伏して眠る龍『伏龍』と喩えらえれていたな」
「伏龍、トロン・リザード……」
まだ世に出ていない浪人などには、およそ身の丈に合っていない大仰な通り名が付けられるのが通例で、通り名なんかにはなんの信頼性も無いのだが、皮肉にもシュタインゲルグ王家にとって仇敵であるタオルの存在が、伏龍トロン・リザードへの期待値を担保していた。
頼みにしていたクルドが既に他界していると分かった今、もう頼るべきは彼の弟子の中で鳳雛タオルと並び称されている伏龍トロンしかいない。
「して、その伏龍殿はいずこに?」
こうなればたとえトロンがどんなに遠くにいたとしても、彼に会うため姫様と共にこの旅を続けよう。そう決意したルシルベアイス。
だが、店主の返事は拍子抜けするほど気楽なものだった。
「ん? あいつなら今でもまだ爺さんの屋敷で飄々(ひょうひょう)と暮らしてるよ。屋敷は村の外れにあるからちょいと遠いが、のんびり歩いて行ってもせいぜい二十分くらいだ。店を出て右へ道なりに行けば着くよ。ここらじゃ珍しい赤レンガの壁に囲まれた屋敷だからすぐに分かるさ」
「なんと! 伏龍殿はこの村にいるのか!?」
同時進行で『ボクのご主人様はすごくつよくて、きっとロリコン(願望)だからボクが好き』もUPしています。
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半うさモフモフちびっこのラヴィが、若くして世捨て人のような暮らしをしている靴職人の青年ラチアと共同生活&バトル&冒険をするお話です。
お時間がありましたら、そちらのほうも読んでいただけると嬉しいです。