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吸血鬼犯罪捜査官 美紅  作者: 城島 剣騎
<第4章>悪の華は夜に咲く
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第四章<実力の差>


が、予想と違って女吸血鬼は高度を落として学校からあたしを狙撃してくる事はしなかった。

「ちっ。

学校の窓あたりから狙撃してくると踏んだのだけれど、やっぱりそう甘くはないわね。」

女吸血鬼は高度を落として学校の玄関前までは来ていたのだけれど、そこから不意に急加速しつつ高度をあげた。

「食えないわね、貴女。

わたくしをおびき寄せて、逆撃をくらわそうだなんて。

でも、そうねぇ。

何も貴女と同じ土台で戦う必要なんて、わたくしにはないのよ?

その気になれば、この高度を保ったまま学校そのものを破壊する事も出来るのだから。

造作もない事なのよ?

でもそれじゃあ、わたくしがつまらない。」

女吸血鬼は何を思ったのか、いきなり急降下をすると、再び人の姿に戻った。

「さぁ、これで宜しいのでしょう?

こそこそ隠れるだなんて、鬼ごっこじゃあるまいし出ておいでなさいな。」

余裕のなせる技というものかしら。

あたしは自身のプライドをこうも逆撫でされる経験をした事がなかっただけに、正直かなり苦虫を噛み殺したような顔をしていたに違いないわ。

「蝙蝠はもう終わり?

次は何に顕身するのか、とても楽しみだわ。」

女吸血鬼は学校の玄関を出てきたあたしの姿を見て、残忍で優美な微笑みを浮かべつつ、人さし指を軽く噛んでみせた。

恐らくそれが女吸血鬼の癖なのでしょう。

生きのよい餌を嬲る猫のようにも、見えてくる。

恐らく女吸血鬼の中では、自分の勝利を確信していたに違いない。

後は、あたしをいたぶって降伏させるだけ。

そんな心境なのでしょうね。

悔しくはあるけれど、確かに女吸血鬼は強い。

しかし相手が余裕を見せているという事は、そこにつけいる余地は必ずあるはず。

「次は、あたしから仕掛けても宜しいかしら?」

あたしは全知全能の神をすら籠絡せしめる程の、極上の笑みを女吸血鬼に向けた。

「うふふふっ。

貴女って本当に可愛いわね。

もしも貴女が人間であったなら、思わず飛びついてしまうわね。」

ご冗談を!

あたしは哀れな亡骸と化した遼太郎くんを見て、思わず背中に悪寒が走った。

あんな美を鑑みない、食欲旺盛なだけの下品な女に血を吸われてたまるものですか。

まぁ、その容姿だけは認めてあげるけどねっ!

そう、この女吸血鬼は容姿だけで言えば文句はないの。

肩まで伸びた長い金髪、切れ長で少し垂れ目の優美な眼差し。

均整のとれた顔は、さながらミロのヴィーナスを思わせる。

そして決して下品ではない豊満な胸は、その谷間だけで幾万もの男性を虜にしてしまう。

スラッとしたスレンダーな体型に、自己主張でもするかの如く、出る所は出ている。

そして、その背丈は軽く見積もっても190㎝はある。

まるでモデルのような理想体型に、長身で美人とくれば、さだめし餌には困らないのでしょうね。

最も。

女吸血鬼は過剰なまでに食欲旺盛みたいだから、地球から男性がいなくなるかもだけどね。

でも、あたしから言わせれば美意識や美的センスに乏しい彼女は、さもしい下品な女という印象をぬぐい切れるものではない。

特に許せないのは、あたしが大事に味わうはずであった遼太郎くんの血を奪った事。

そして、そんな彼を見るも無残な姿にして殺してしまった事。

あたしのプライドを、ここまで逆撫でした事。

以上の三点で、あたしは女吸血鬼を決して許す事は出来ない。

「闇に彷徨いし闇の住人よ。

あたしの炎をもって、闇に還るがいいっ!」

あたしは両の掌に意識を集中させると、極大な炎を二つ召喚して女吸血鬼にぶつけた。

とはいえ、勿論これは目くらまし。

あたし達一族の炎には、敵を自動で追尾する機能が備わってはいる。

けれどお父様と死闘を繰り広げている以上、そんな事は向こうも承知しているはず。

ならば、当然お父様を破った時点で何かしらの対応策が向こうにはある。

だからあえて、あたしは初弾の炎には左程の妖力を消費せずに召喚したの。

「うふふっ。

あの男と同じ戦闘方法を踏襲するだけで、本気でわたくしを倒せるおつもり?

これ以上わたくしを退屈させるようなら、次の一撃で確実にくびり殺してさしあげるわ。」

なら、やってみせてよ。

あたしは一度うけた屈辱は、必ず返す性分なのよ。

「つまらないわ。

もうこれで終わりにするわね?」

女吸血鬼は両手を合わせて、まるで拝むような態勢を取った。

そして両手を徐々に開いていくと、両の掌に挟まれた形で、漆黒の渦が出現した。

「もう興が削がれたので、貴方を無限の闇に閉じ込めてさしあげるわ。

この、ブラックホールにね!」

両手から放たれたブラックホールは極大な炎に真正面からぶつかると、一瞬でその炎を飲み干した。

そしてそれはそのまま、さっきまであたしがいた場所に向かって恐ろしい早さで包みこみ、校庭の一部はネビュラ[星雲]を形成した。

「星になって、わたくしを楽しませなさい。」

恐ろしい。

なんて、恐ろしい闇の属性…。

「まだよ!」

あたしは勝利を確信して高笑いする、女吸血鬼の背後を取る事に成功していた。

極大に膨らませた炎、そして女吸血鬼自身が生みだした闇のブラックホールを隠れ蓑にしたの。

瞬間!

女吸血鬼は忌々しいとばかりに恐ろしい形相で後ろを振り向くと、その背後には今度は天にまで伸びるかのような炎の壁が、女吸血鬼を包み込もうとしていた。




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