第四章<光には闇が付き従い>
朝
朝かぁ。
あたしは、朝が嫌い。
あたしの醜い闇が吹き飛ばされそうで…。
朝の太陽の日差しは、まるであたしを浮き彫りにしてしまうみたいで…。
だから、あたしは朝が嫌い。
あの娘は、違う理由で嫌いらしいけどね。
「はぁ。」
何故、あたしは姉というだけで美紅のお守りまでさせられるのだろう。
と、不平不満をならしながら、あたしは美紅の部屋へと向かった。
徐々に美紅の部屋へ近づくごとに、忌々しい雑音が鳴り響いている。
「美紅。
あなた、いい加減に起きなさいよ!
毎日毎日、ほんっっとうに五月蠅いのよ目覚まし時計。
早く起きないと、叩き起こすわよ?」
冷たいと思う?
ガキを相手に厳しいと思うかしら?
でもそれは、美紅がどんな娘か知らないからよ。
「う~ん、むにゃむにゃ。」
ふん。
こんな強い朝の陽ざしの中で、よくもぬけぬけと寝ていられるわね。
この娘ったら、本当に吸血鬼としての自覚がないんじゃないの?
棺桶ベッドの蓋は割れてるし、目覚まし時計の強烈な五月蠅さにも動じないし。
案外、大物になるかもしれないわね。
「みぃくぅちゃぁ~ん!」
「一緒に学校行こっ!」
ふん、美紅の友達のガキね。
考えてみれば、不思議なのよね。
あたしには吸血鬼の友達はおろか、人間の友達もいなかったというのに。
なのに、この娘の周りには知らないうちに人が集まる。
それこそ人も吸血鬼も分け隔てなく、ね。
何故かしら。
まるで人間と馴染めないのは、あたしのせいだと言われているようで至極不愉快だわ。
すると、先程まで凄い寝ぞうで寝ていた美紅が不意に起き出し、あたしのいる窓まで足取りもふらふらになりつつ歩いてきた。
「さぁぁつきちゃ~ん!
ゆぅなぁちゃぁ~ん!
今から着替えるから、待っててね。」
ふん、気に入らない。
起きたなら、まずあたしに感謝するのが筋でしょう。
すると着替えに向かうと思いきや、美紅はあたしの顔をまじまじとみつめてきた。
「美夜お姉ちゃん。」
な、なんなのよ。
にこにこして、気味が悪いわね。
「いつもいつも起こしてくれて、どうも有難う。」
な、なによ美紅ったら。
「別に。
あたしが学校行くから、ついでに起こしてやっているだけよ。
そう、ほんのついでなんだから。」
と言っても、美紅の笑顔は変わらなかった。
「ううん。
美夜お姉ちゃんは、優しいもん。」
ふん、ガキ。
あんたに、あたしの何がわかるっていうのかしら。
至極、不愉快よ。
まぁ、でもその可愛い笑顔は悪くないわ。
美紅は、あたしと同じ一卵性双生児だから容姿も悪くないし…。
そ、その笑顔も。
だから美しいのよ。
あたしには決して、真似の出来ない笑顔。
「あはは、お姉ちゃん照れてるぅ。」
ガキぃ。
「五月蠅い、さっさと顔を洗ってきたら?」
「はぁ~い。」
美紅は明るい笑顔のまま、部屋を出て行った。
学校
ふん、いつもと同じね。
科学の先生は、何故かいつもあたしを目の敵にする。
そして生徒や先生は、まるで腫れものに触りたくないかの如く廊下を通り過ぎて行く。
あたしが存在していないかのように…。
まぁ、いいわ。
どうせこれからも、こんなたわいない退屈でつまない日々の繰り返しが続くだけ。
美智子…。
美智子は廊下であたしがいる事を認識しながらも、まるで知り合った事もないような他人顔で通り過ぎていった。
「人間なんて、やっぱりこの程度よね。」
わかっていた事とはいえ、やはり美智子にまで無視を決め込まれるのはさすがに少し心が痛んだ。