第三章<事情聴取2>
「サブマネージャーの新さんについてなんですが。」
と須藤 純さんは妹の須藤 愛さんと顔を見合わせ、続いて愛さんが発言した。
「不可解な事があるんですよ。」
不可解?
なんだろう、不可解な事って。
まぁ私が思うに新くんの不可解さは、あの鈍い動きと性格かな。
でも兄妹が言うからには、恐らくそういうものじゃないはず!
で、私が続いて発言しようとしたら、春樹に口を押さえられた。
ちょっともぅ。
春樹ってば唇マニアなの?
って思わず言いたくなっちゃう!
だってよく口を抑えられるから。
でも、そんな行為にドキドキする私もいるんだけどね?
「不可解な事とは、どういった点ですか?」
春樹の問いに、兄の純さんが答えた。
「お二人を楽屋へと案内する為に撮影スタジオから廊下で出てからなんですが、そこから事件が起きるまで撮影スタジオへと戻ってきた形跡がないのです。」
次いで妹の愛さんが発言した。
「刑事さん達のお話では、刑事さん達を楽屋へ案内して後に撮影スタジオへ戻っていったと言う事でしたが、実際に次に私達が彼の姿を確認したのは事件が起こって以降なんです。」
どういう事?
まぁ新くんの歩くスピードは確かに牛歩なんだけどね。
でも、私達が楽屋に入って社長とお話をし始めてから事件発生まで、かなりの時間があったはず。
かけつける道中にも新くんの姿は確認してないし、第一ここの廊下は一つしかない。
考えられる事は、私達が悲鳴を聞いて駆け付ける寸前に撮影スタジオへ入った?
でもそれなら、それまで彼は廊下か待合室で何をしていたのかしら。
それも、1人で…。
私達の会話に聞き耳をたてていたとか?
うーん、わかんないなぁ。
と、頭を搔いている横でさらに春樹は質問を続けた。
「俺達が騒ぎを聞きつけて戻ってくる時と、新田 新を次に見かけた時と時間的にはどれぐらいの差異があります?」
しかし春樹の質問に二人から返ってきた言葉は、とても意外な答えだった。
「わからないの。」
「それが、いつ戻ってきたのかもわからないんです。」
わからないって、どういう事かしら?
隣の春樹も、それには首を傾げていた。
私達の怪訝な態度に、兄の純さんが話を続けた。
「気がつけば、いつの間にか新さんがいたというのが正直な感想なんです。」
妹の愛さんも兄に続いて発言した。
「事件が起こるまで、全く姿を見ていないんです。
でも刑事さんが来て皆が中里 瞬くんの容体を見ている時に、不意に隣に気配を感じて横を見ると新さんがいたんです。」
えっ?
ええっ?
全く意味がわかんないんだけど。
「つまり、今まで全く姿を見せていなかった新田 新が、いつの間にか気付けば横にいたという事なんですね?
考えられるのは、新田 新の影が薄くて誰も戻ってきていた事に気づいていないのか。
それとも事件が起こるまで、どこかに身を潜めていたのか。
まぁ俺が思うに、恐らくは後者だろうとは思うが…。」
そう、春樹が言葉を濁すのも無理はない。
だって身を潜めるといっても、撮影スタジオはだだっ広くて隠れたり身を潜めれそうな場所なんて、どこにもないんだもの。
これは謎だわ。
それに、新くんを容疑者として立証する事だって難しくなりそう。
いくら新くんの影が薄いったって、そこにいれば気付かないって事はないだろうしね?
いつ誰が、そしてどうやって中里 瞬くんを吸血したのか。
うーん、正直全くわかんない。
が、頭が柔軟な春樹は、須藤兄妹に一呼吸ついてから話しかけた。
「改めて詳細をお聞かせ願えますか?
舞台にはsprintersのリーダー長田 裕仁とメンバーの香山 良治。
そのやや後方には撮影カメラマンの貴方達とマネージャーの八神 咲子。
そして、かなり距離はあるものの後方には残りのメンバーである桜庭 優と中里 瞬。
で、桜庭 優の後ろの席に中里 瞬がいたのですか?
それとも真隣に?
もしくは、中里 瞬が前で桜庭 優が後ろの席でした?
駆け付けた時には立ちあがっていたので、どうなのかはわからないのですが。」
そかそかぁ、この二人の位置関係によっては全く推理の展開が違ってくる訳なのよね。
もしも瞬くんが最後尾なら、後ろから忍び寄ってきた何者かに危害が加えられたって事になる。
でも桜庭 優さんが最後尾や真隣なら、今回の犯行に気付かないはずがない。
そうなると桜庭 優さんが第一級容疑者って事にもなり得る。
けど、もしも犯人が私だったら逆に犯行をおかすのにそんな近い位置にいるなんて考えられない。
だって一番疑われる確率が高いじゃない?
やっぱり考えられるのは前者の方で、最後尾にいたのが中里 瞬くんでしょ。




