第三章<嫉妬?>
ぷんぷん!
私は唇を尖らせて足早に廊下を歩いて、待合室へと向かった。
「すみません、これより事情聴取を行います。
まずは撮影カメラマンの須藤 純さん、そして愛さん。
楽屋へ任意同行して頂けますか?」
私が考えるに、恐らくこの2人に犯行は不可能。
しかし重要参考人にはなりうるので、春樹はこの2人から始めようという事なのだろう。
「わかりました。」
「今から行きますね。」
なんとも素直な対応。
本当に他の人達も、この2人を見習えばいいのだわ。
兄妹なのに、あまり似てないわよね。
って、一卵性双生児じゃあるまいし馬鹿な事を考えちゃった。
「おい、そんなのらりくらりで犯人が捕まるのかよ!」
はいはい。
今回の犯行の火つけ人、sprintersのメンバー桜庭 優さんね。
こういう駄々っ子には優しい笑顔で無視するに限る。
って引き攣りそうな笑顔だけどね。
「けっ、犯人さえわかれば俺がふん捕まえて瞬のかたき討ちをしてやるんだがなぁ。」
sprintersのメンバー、香山 良治さんが不意にガッツポーズを決めて吠えた。
ちょっと、その健康的な肉体美を暴力なんかに使わないでよね。
貴方の、その肉体美はスポーツでこそ脚光をあびるものなのだから。
一方、sprintersのリーダーである 長田 裕仁さんは先程から遠い目をして寡黙を保ったままでいた。
ほぅ。
やっぱり見惚れてしまう。
私って実はsprintersの隠れファンでもあるんだけど、実は華奢でナイーブな美形の中里 瞬くんとリーダーの長田 裕仁さんが好みだったりする。
クールで切れ長の目元と、シャープな顔が素敵なの!
仕事じゃなければなぁ。
などと思わず不埒な妄想に走りそうになるのを、私は必死でこらえた。
「おい!
一体どういうつもりなんだ貴様っ!
俺はsprintersの桜庭 優が狙われていて、それでお前達に依頼を要請したんだぞ。
それが…、桜庭 優ではなくて中里 瞬だとぉ?」
はいはい。
そんな事、私に言わないで犯人に言ってよ。
次いで、毒舌を放つのはこの男性。
あぁ、あんまりこの人を正視したくないなぁ。
芸能プロダクションであるアルファーズエンターテインメントの社長、須貝 幸司氏。
額に輝くは玉のような汗。
そして、美しく整列したバーコードの髪。
恰幅のよい、威風堂々とした威厳のある壮年。
あぁ。
私のおもいつく限りのほめ言葉も、素直な心の感想には勝てないわよねぇ。
「それもいずれ犯人を拘束した後、実況見分によって明らかとなります。
ともかくも、今は待機をお願いします。」
私は心の中で、文章に出来ない毒舌を呟きながら冷静に応対した。
が!
余程腹に据え兼ねていたのか、この社長の怒りは収まらないようだった。
「なんだ、その杓子定規な言い方はっ!
だいたい貴様たちが無能だから、こんな事態になっているのだろうが。
釈明の一つもせんか!」
はぁぁぁ。
やっぱ春樹と交代するんじゃなかったかなぁ。
と、そんな毒舌をふりまく社長に辟易している私を見るに見かねたのか、マネージャーの八神 咲子さんが助け舟を出してくれた。
「社長。
奥様から言われていますが、血圧があがりますので今は自重して下さい。」
先程から怒鳴り狂っていた社長も、咲子さんから奥様という名前を聞いて驚く程に静まった。
ふっ、意外とかかぁ天下なのね。
まぁどこも一緒なのかも!
とりあえず場も治まった事だし、私は先に行って貰った撮影カメラマンの兄妹が気がかりになったので待合室を後にする事にした。
で、扉を開けて廊下に出たんだけど。
何故かsprintersのリーダー、長田 裕仁さんまでが一緒になってついてきた。
「あのさ、刑事さん。
メンバーも社長も皆、こんな思わぬ騒動で気が立っているんだ。
だから…。
俺が言うのもなんだけど、ごめんな。」
きゃーっ!
なんという事でしょう!
と思わずビフォーアフターしちゃったわ。
だってだって。
だってね?
長田 裕仁さんったら、すっごくはにかんだ笑顔で照れながら言うのよ?
もう気絶しちゃうわよ、正直。
「大丈夫ですよ、これも仕事のうちですから。」
私は、つとめて声が上擦らないように返事をした。
けど…。
えっ?
「早く事件が解決すれば、いいですね。」
あぁ、意識が飛んでしまいそう。
私は軽く抱きしめられて、至近距離から彼のこぼれそうな笑顔を見たの。
こ、声が。
声が出ないのよ!
「おいアホぅ!
さっさと事情聴取を始めるぞ!」
刹那の出来事だった。
春樹は軽く抱きすくめられた私を彼の腕から奪還すると、すぐさま私は今度は春樹に抱きすくめられたのよ。
こここ、これって私をめぐっての三角関係?
なぁ~んてね。
でも凄いドキドキしてる。
春樹は私を楽屋へ押し込むと、長田 裕仁さんに一瞥をした。




