第三章<推論>
と私が啖呵を切ったら、春樹のやつったらキラーンと瞳を輝かせて私を見つめてきたので、思わず私の額からは大量の冷や汗が吹き出していた。
「ほほぅ、お前の推理だと?
ならば丁重に、かつ謹んでご高説願うとしようか。」
ちょっとちょっとぉ。
春樹ったら嫌味ったらしくハードルあげるのやめてくれない?
「えっと。」
と私が話を始めようとしたら、春樹ったら耳を前に突き出してずいずいと迫ってきた。
「えっと?
で、次はなんだ?」
言うんじゃなかったかなぁ。
と後悔しても後の祭りよねぇ。
ええい、口に出してしまった言葉は元に戻らないんだから。
こういうのって、なんか諺があったわよね。
覆水盆に返らず、だったかしら。
男は愛嬌、女は度胸!
なんか違うような…。
ま、いっかぁ。
「今回の中里 瞬くん吸血未遂事件なんだけど、私が思うにこれって犯行予告及び、脅迫の一種じゃないかって思うの。
まぁ犯人の性格云々は差し置くとしても、私達ってそもそもsprintersのメンバーの1人である桜庭 優くんの吸血予告に対する芸能プロダクションの依頼で来た訳じゃない?
という事は、今回の件ってそれと無関係ではないと思うから。
もしもそうなら、今後さらにsprintersのメンバーの誰かが同様に襲われるんじゃないかなって思うのよ。
内部による犯行か外部なのかは現時点ではわかんないけど。
でもこういう現場って警備員さんだっている訳だし、そうやすやすと一般人が立ち入る事って出来ないと思うから内部による犯行の線が濃いんじゃないかな?
それに、これだけ大勢の人間がいるスタジオ内で外部の人間が現れたら絶対に目立つだろうしね。」
とここま言うと、春樹は不意に腕を組んで考え事を始めた。
おぉっと、これは脈ありかしら?
いつもの春樹だったら、私が言い終わる前から徹底的に反論を始めて完膚なきまでに論破されちゃう所だからなぁ。
でも今回はそれがない。
ふふっ。
うふふふふっ。
あ、ごめんなさい。
別に気がふれたとかそういうんじゃないから!
でも嬉しくって笑いが止まらないのよねぇ。
「一つ聞いてもいいか、美紅。」
ええっ?
一瞬、私は耳を疑った。
「春樹ぃ、何なになぁにぃ?」
ちょっと有頂天になってるかしら、私。
春樹が私に意見を求めてくるなんて、古今例がないもの。
私はそれが嬉しくって、ついつい春樹の真似をして耳を突き出して逆に迫ってみた。
「俺はどうもお前を侮っていたらしい。
お前にも微量ながら頭脳というものを持ち合わせていたらしいな。
まぁほんの少し、な。」
春樹はそう言うと、親指と人さし指を摘むようにして、そこからほんのちょっぴり隙間をあけた。
「ほんの少しって、こ・れ・ぐ・ら・い?」
私はその仕草があまりにも我慢ならなかったので、思わず春樹に飛びかかって無理やり親指と人指し指の感覚をあけようと粘ってみた。
けど、春樹ったら馬鹿力なので親指と人さし指の感覚は微動だにしなかった。
本当の本当に春樹ってば意地が悪いんだからぁ!
でも何故か、春樹の意地悪な笑顔に不思議と私まで笑みがこぼれていた。