第一章<毒舌なる妖刀>
東京…
警視庁刑事部にあるアブジー特務捜査課の一室…
「はぁ…。
しっかし。
なぁんでアブジーの私が交通課の要請で、交通安全の巡回なんかに引っ張り出されなきゃなんないのよぉ。」
私はかなりぶぅたれていた。
何故なら、つい先日に凶悪犯罪者であった伊東 雅人の逮捕という大きな功績をおさめ、警視総監賞と非番を頂いたばかりだったのに…。
そう。
私は本来、明日は非番だったのだ。
なのに春樹のやつが私に黙って交通課が最も忙しい今の時期に勝手に協力を願い出た為に、私の非番は明後日に延期されてしまった。
勿論、春樹も自分の非番を延期して通常勤務はするんだけど。
「フン。
ちょっとおとり捜査で功績をあげ、テレビなんぞに出演させてもらったからと調子にのっていい気になりやがって。
そもそもあれは俺のアシスト…いや、実際に確保をしたのは俺なのだからな。」
むっかぁ~っ!
わかってますよぉ、だ。
私は思わず舌を出してべ~っ!をしてやった。
こいつ、藤田 春樹。
私が見た目で決めた人間sideの刑事パートナーなんだけど…。
あ、アブジーの規則で捜査官は人間と吸血鬼で一対のパートナーを組む規則になっている。
人間側からの要請で、吸血鬼だけに犯罪捜査を任せると見識が偏るから、とかなんとか。
まぁ、共存といってもこの辺りに私は温度差を感じずにはいられないのよねぇ。
で、私とパートナーになった藤田 春樹の話に戻るんだけど。
見た目は中性的で美少年雑誌ジュノンなんかの見出しを飾れるくらいのジャニ顔[ジャニーズ系の顔]だから、署でもその人気は凄く高い。
都内の女子高ではファンクラブなるものまであるらしい。
なのに容姿に相反して性格は可愛くない。
はっきり言って、歯に絹を着せない性格で思った事は言いたい放題!
時には重箱の隅をつつくようなマシンガントークもする。
でも悔しい事に彼の言論と論理、そして推理は理路整然としていて無理がなく、しかもそれが正鵠を射てるって感じなのよ、これが。
また、捜査にあたっての戦略や洞察力も半端じゃなく鋭い故に、彼はアブジーでも一目置かれる存在で毒舌なる妖刀という仇名まであるのよ。
でも言い方は本当に冷たいしクールというよりはニヒリストという言葉のが似合う。
見てなさいよぉ?
いつか必ず春樹より早く出世して、思いっきりこき使ってやるんだからぁ!
などと日々企んでいたりする。
だって、だってね?
私はキャリアだけど春樹ってばノンキャリアなのよ。
これは密かな私の優越感。
で、彼は東京の三鷹市にある天然理心流[あの有名な新撰組の主流派ね]って剣術の流派を学んでいるらしくって目録?[っても段や級じゃないからわかんないけど]でかなりの凄腕らしく、さらには御先祖様をたどれば新撰組三番隊組長の斎藤 一っていう偉い幹部だったらしい。
まぁそんな変わった経歴もアブジー勤務の要因なのかもしれないけど。
天使のような美貌の容姿だけどクールでニヒルな春樹に、私は毎度毎度してやられている。
「ほら、ぼさっとするな。
とっとと給料分の仕事しろよ、このアホぅ!」
むっかむかぁ!
とまぁ今更腹を立てたって口で言い負かせる程に私はディベートが得意ではないので、黙って持ち場へ戻る事にした。
やがて今日の激務も終わり、警察署を出た私は毎度恒例の背伸びをした。
「はぁ~っ。
交通安全なんて私の範疇じゃないのになぁ…。
非番がなくなった訳じゃなくって延期になっただけなんだし、まぁいっかぁ。
春樹…。
私の顔を明日は見れないけど寂しい?」
と、悪戯っぽく私は春樹の顔色を窺い、ぺろっと舌を出して見せた。
でも私には彼が次に言う台詞くらいは読めたので、先に言ってやることにした。
「別に。」
「別に…。」
ほぅ~ら、ね?
春樹は興味の湧かない話や、どうでも良い事になると、別に。で済ます。
「春樹さぁ、もうちょっとリアクションの幅を広げて会話を膨らまそうとかないの?」
すると、春樹は大きな深呼吸をしたかと思った次の瞬間、私の髪の毛を引っ張りつつ耳元で怒鳴り声を張り上げた。
「こぉのドアホぅ!
お前のお陰で明日は始末書やらなんやらで雑務が山積しているんだ!」
キーン…。
春樹の怒鳴り声のせいで、危うく鼓膜が破れるとこだったじゃないのぉ。
「春樹ねぇ、私はこれでも署内で憧れのマドンナって言われてんだからね!
私みたいな可憐な乙女になんて野蛮な真似するのよぉ。
レディーに対してもっと優しく出来ない訳?
だから春樹は軽薄なファン以外の女性から敬遠されるんだわ。」
言ってやった。
が、予想に反して春樹はクックックッと可愛くない笑みを浮かべた。
「そんなに聞きたいのか?
俺の女性関係を。」
うっ…。
そんな魅力的な流し目をしないでよ。
思わずドキッとしちゃったじゃないの、春樹のくせに…。
「べっつにぃ?」
「べっつに?」
うぅっ。
こういう大人気ない仕返しがまた悔しい。