僕が光るのは、先輩が可愛いせいです
急速に口の中が乾いて、心臓がバクバクする。
もうこんなこと、
"ちゃんと抑えられるようになっていたのに"
僕のおじいちゃんは、時々発光していた。
小さい時からたまに、知り合いと囲碁をしていて、たぶん負けそうになると、たまに禿げた頭が"ピカ!"と光っていた。
反射とかじゃなくて、本当に発光していた。
おじいちゃんは頭部だけだったし、なんとなくそういう人も居るのかと思っていた。
おじいちゃん曰く、ある一定以上ドキドキすると光ってしまうと。
家族の中で、僕だけがその体質を受け継いでしまった。
小学校三年生の頃、当時好きだった子にバレンタインチョコをもらった時、発光してしまった。
その子は光った俺を見て、チョコを俺に向かって投げつけて逃げ出した。
その子の親には親が電話して、特殊体質を説明して、ことなきを得たが、本人はその日から俺を妖怪でも見るような目で見て、避けまくっていた。
当時少年だった俺は傷ついた。
そして二度と光らないようにしようと、常に冷めた態度でいるように心がけた。
女子とはあまり近づかないようにして、興奮するようなスポーツとは遠ざかった。
自ずと文化系の趣味になり、この頃から読書は唯一の娯楽となった。
中高は男子校に通い、多少アイドルや、通りすがりの女性に心惹かれることもあったが、叫ばれて妖怪扱いされることを想像すれば、自然と恋する心も萎んだ。
このまま孤高の人間として生活すると思っていた。
だが、見かねた家族が大学くらい青春しろと言ってきて、俺自身行きたい学科があったので今の大学に通うことにした。
中学高校と、姉と母以外の女子を知らずに過ごした俺にとって、大学入学当初、大学生の男女のフレンドリーさにビビりまくったが、安定の孤高の対応をするうちに、そういう存在になった。
だから河田先輩だけが異常なのだ。
河田先輩がそうだから、文芸部の人たちは僕になぜか普通に話しかけるし。
そしてこの人はまた、異常な反応をしている。
「ねえ、その光るのって、なんか青木の寿命を削って〜とかじゃないの?」
「…いや、健康診断引っかかっことないし、光ってたおじいちゃん90過ぎて健在なんで。」
「あ、そうなのー。安心じゃん。」
そう言って、河田先輩は用事は済んだとばかりに、またスマホをポチポチし始める。
「いや!そんだけ?!」
「え?!なに?!」
「いや、俺光ってますけど?」
「あー、うんめっちゃ光ってるよね〜。あ、そうじゃんね、忘れてた。だからー、バスくるから、どうしよっか?」
「は?」
「だからー、運転手さんさすがにびっくりするよね、って。」
「先輩は?」
「わたし?」
お互い理解できませんという顔でしばし見つめ合う。
「びっくりしないんですか?」
「あー!そのこと?今更びっくりしないよ〜。」
またスマホぽちぽち
僕は腹が立ってきて、先輩の二の腕を掴んでこっちを向かせる。先輩は少し目を見開いただけで、素直に体の向きを変える。
思ったよりも柔らかかった二の腕に僕の方が動揺して悔しくなる。また先輩が眩しそうに目を細める。
「…今さらって?」
ん?と先輩は眉を顰めてから「あーあー、」と謎に頷く。
「青木、前から2人の時ちょくちょく光ってたよー?あれって無意識だったんだー。」
「は?」
「本読んでる時とか、あ、あと前も一緒にきつねうどん食べてた時とか。」
何言ってんだこいつ。
俺は何やってんだ?
「光ってて、なんで何も言わなかったんすか?」
「え?…逆に何を言えば…。」
「怖いとか、気持ち悪いとか、何だそれとか、あるでしょ」
「きれいだなー、とは思ったけど。」
頭おかしいぞこの女。
「妖怪だと思わなかったんですか?」
「え?!妖怪だったの?!居たっけ?ただ光る妖怪。」
「いや、ただの光るだけの人間ですけど。」
「あー、でも思ったよ。蛍みたいだなーって。だからよく部室行ってたし。見たくて。」
そういってニコニコ僕を眺める河田先輩を見て、僕は何も言えなくなった。
「青木、本読むの好きだから、自分で光るの暗い時便利だね〜。」
「…河田先輩、馬鹿すぎる。」
蛍なんて、なんで。
その通りすぎて。
「あ、でも蛍じゃないか。求愛して光ってるんだもんね。残念。」
「残念ってなんですか。」
「え?青木がわたしに求愛してなくて、残念って。」
「求愛してますよ。」
「え、」
「あなたに一目惚れして、足繁く部室に通ってたんですよ!」
俺は、新入生歓迎会で笑顔で俺の手を引いた河田先輩に、あまりにも簡単に一目惚れして、孤高の生活のルールを曲げてまで、せっせと文芸部に通っていたのだ。
少しでも彼女の近くに居たくて。
でも絶対に光らないように努めて冷静にしているつもりだったのに。
「わ、やばい。うれし」
先輩の白く照らされた顔が急速に赤くなっていく。俺の顔も熱い。
熱いし光ってるし、もうなんなんだよ。
ヤケクソになってベンチに座ったまま、隣の河田先輩を抱きしめる。
すると先輩の手がいつもの図々しさはどこにいったのか、そっと僕の背中に回る。
「河田先輩、俺、自分じゃ分からないんですけど、今ちょっと光りすぎてやばいんじゃないでしょうか?」
「うん、目が潰れそう。このままだと超常現象としてネットに載りそう。」
僕たちは手を繋いで、バス停から離れて、茂みにしゃがんで、僕は着ていたパーカーのフードを被って極限まで紐を絞めた。
袖を伸ばして手も引っ込めて、素肌の出ている部分をほとんど無くしたら、だいぶ光が治った。
「この状態でしばらく落ち着いたら治ると思うんで。」
「うん。」
しゃがんで向かい合った状態で、河田先輩がフードの隙間から覗き込んでくるから、僕は顔を逸らす。
逸らした先でまた覗き込んでくる。
なんなんだよほんと。
「なんなんですか。」
「かわいい。」
可愛いのはあんただよ。
「青木、私のこと好き?」
「好きですよ」
「付き合ってくれるの?」
さらに覗き込んでくるので腹が立って。
俺は先輩の首裏を押さえた。
下手くそなキスをしたら、さらに光って大変なことになったのはまぁ、自業自得だった。




